映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ポール・トーマス・アンダーソン監督「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」941本目

2時間半のさいしょの15分くらいは、ほぼ無音。脚を折ってもひたすら地下を掘り進むダニエル(ダニエル・デイ・ルイス)。強い執念に取り憑かれた、とても孤独な男です。
何も知らない人たちの土地を安く買っては石油を掘り当て、大儲けを続けている間は、話は単純だった。
ポールとイーライ(演じるのはポール・ダノ。ほんとに二人いるの?)の登場で、変化のスイッチが入る。

イーライは、ダニエルの石油にかける執念に匹敵するか、もっと強い執念と思い込みで、神を追い求め、布教する。その熱に引き込まれる多数の善男善女。最初から反発しあっていたダニエルとイーライが対決する時が訪れる。

後半は緊張感を増していく展開と二人の熱演で、息もつかせません。
一番ヤバい登場人物は明らかにイーライなんだけど、自分を善と信じきっているだけに、彼には攻撃性がない。それが命取りなわけだけど。

怖い映画だなーと思うし、人の執念、宗教と金銭欲など、切り口を変えて見ると全く別のテーマがあるように見えてくる。勧善懲悪ではないけど因果応報のある結末。重ーい感じもするけど、アメリカの大地のなかで、人間どうしの愛憎も生殺もちっぽけだ、という気持ちもふっとよぎります。