映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

熊井啓 監督「日本の黒い夏 冤罪」1018本目

重要なテーマを描いた重要な映画だ。
でも、この作りの甘さは、逆に不安をあおる。
「リアリティの追求がこの程度でも、真実があればわかりやすく演出してもいい」という態度が、”冤罪(というかこの時点では疑いの蔓延?)”を生み出したのに、この映画で同じことをしちゃいけない。

中井貴一率いるチームは、警察かと思った。オフィスの感じやメンバー設定(愛称も含めて)刑事ドラマに出てくる刑事チームにしか見えない。
「野田太郎、愛称ノロノロノロしてるからノロってわけじゃないよぅ」ってノロノロしゃべる…なんて、「ドラえもん」に出てくるのび太のクラスメートかよ、と悲しくなるくらい安易な設定もある。
このチームがマスコミだとしても、新聞記者だろうと思った。
テレビって一番遠いよね。。基本取材や収録で出払ってて、一番席にいない人たちのはずだし、なんでアナウンサーがいつもニュース制作の部屋に詰めてるんだ。

事件が起こったときの場面で、救急隊員が”慌てている”演出も問題。プロフェッショナルはどんなときも、緊急事態が起こっていてアドレナリンがいっぱい出ても、もっと冷静なはず。そういう人たちがこの国の危機を守ってる、っていう敬意を込めて演出してほしい。

中井貴一がなにかのインタビューで、自分の演技に自信がないというようなことを言ってるのを見たことがある。彼の役どころの半分以上が、この映画の笹野誠みたいな、日本人がイメージする理想の日本人だと思うけど、葛藤やプライドや怒りといったエネルギッシュな感情は常に抑えることが求められる。正義を推進するパワーは膨大に必要なのに。無理のある人間像を演じないといけないから大変なのかも…と、この映画を見て思いました。