映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ウェス・アンダーソン監督「天才マックスの世界」2196本目

ウェス・アンダーソンって、三谷幸喜に似た妙な”えぐみ”みたいなものがあるよね?簡潔に喋る面白みのない男の率直さを、くすくすと笑う感じ、が共通していて。(今の朝ドラ「なつぞら」でいえば中川大志演じる東大卒の監督見習いみたいな)

15歳のマックスを演じてるのは当時18歳のジェイソン・シュワルツマン。自己否定的な中年男を演じるビル・マーレーといい感じで、すでに名優の兆しがありますね。

彼らが恋をする、知的でどこかロマンチックな、少女みたいな女性を演じるのはオリヴィア・ウィリアムズという女優さんです。可愛い・・・。こういう役柄は、「そりゃー惚れるよ」と思わせてくれないといけない。イギリス英語のアクセントもあって、なかなか素敵でした。

あと、この映画は・・・音楽がズルい。いいところで「Won't get fooled again」だし「ウー・ラ・ラ」だし。音楽担当はDEVOのマーク・マザーバウだし。監督が私と同世代で、ちょっと上の子たちと同じ音楽を聞いてた人だということがすぐわかる。(違う世代の、興味のない人にはなんの意味もない話だけど、、、)

なんとなく、こういう使えない天才の話って割となんども見た気がするけど、この映画はあったかくていいですね。多分ローズマリー先生のオープンで、彼らをそのまま受け入れてる(少なくとも恋人でなければ)ところが、この映画のトーンの基本に、実はなってるんじゃないかな?

天才マックスの世界 (字幕版)
 

 

 

リドリー・スコット監督「プロメテウス」2195本目

ノオミ・ラパスのデリケートで知的で向こう見ずな感じ、いいですね。いつ見ても、もっと見ていたくなる人だなぁ。まさにエイリアン第1作のシガニー・ウィーバーの存在感を思わせます。

アンドロイドのデイヴィッドを演じてるマイケル・ファスビンダーは、私のイメージする典型的なゲルマン人の美形。・・・この映画はこの二人でもう満腹です。

どう猛な軟体動物のエイリアン自体は、シリーズで見慣れていて、異星人も人間と同じなので新しい驚きはあまりない映画で、「前日譚」をあとで書き足した感は否めません。でも、この二人にも構成にも目を奪われて、楽しめる作品になりました。

こうなると、エイリアン・コヴェナントも見ないわけにはいかないな・・・。

プロメテウス (字幕版)

プロメテウス (字幕版)

 

 

ジュリアン・シュナーベル 監督「バスキア」2194本目

現代アーティストって流行があるのかな。

バスキアの名前をしょっちゅう聞いてた時期があったけど、最近は聞かなくなった。クラシックな絵画を描く人なら亡くなると価値が上がるけど、ストリートアートだと今そこにいないとインパクトが薄くなるのか?

バスキアのアートは今見てもドキッとするし美しいしパワフルだ。悲劇性も破壊性も感じない。こんなアーティストがいたこんなニューヨークがあった、と言うことでいいんじゃないか、と思う。

ベニチオ・デル・トロが若いなぁと思ったら、その後もビッグ・ネームが次々と。ウィレム・デフォーゲイリー・オールドマンデニス・ホッパーウォーホールはデイヴィッド・ボウイだし。コートニー・ラヴがふわふわ歩いてるし。

「(ボウイ演じる)アンディが死んだ」とデニス・ホッパーが言う。そのデニス・ホッパーもボウイも死んだしバスキアも死んだ。まるで70年代のロックスターみたいだ。

でも全然古くないなぁ。アーティスト自身も、周囲の人たちも。今は例えばバンクシーのような、また別のタイプのストリート・アーティストがいて、それを取り巻く人たちも今の時代も、また別の輝きがある。この映画は、この時代の一つの美しさを綺麗な形で残していて、いつの時代にも若いアーティストに刺激や共感をもたらすんじゃないかなと思います。

バスキア(字幕版)

バスキア(字幕版)

 

 

チャド・スタエルスキ 監督「ジョン・ウィック」2193本目

キアヌ・リーヴスは昔から好きなので、今更ながら見てみました。

面白かった・・・

なんで面白いんだろう。解説を見ると、“完全無欠で冷血な殺し屋が、妻の形見の犬を殺されて逆上。元の雇い主に戦いを挑む”という、え?犬?なストーリーだし、ジョン・ウィック本気で暗殺しようと思えば映画中全部で45分くらいはチャンスがあるのに、そこではあえてキープして決闘まで持たせるというおかしな構成。だけど、キアヌ・リーヴスがやると本気に見えるし、必然に見える。スタントマン出身の監督が撮っているだけあって、アクションがリアルで見ごたえがある。車がすぐ炎上したり落ちたりするんじゃなくて、こすったりへこんだりつぶれたりする。アクションを見せるためだけの映画としても、この暗い画面、絶望したキアヌの表情・・・面白いな、と感じさせて、最後まで息もつかせずに見せてしまうという、この映像制作力。これが娯楽映画ってものなんだな・・・。

もう、恋愛とか友情とか人間ドラマとか何もなく、ひたすら暗く絶望したヒーローが戦うことだけに終始したのが、この映画の勝利です。

まさかの続編も見てみようかなぁ。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 監督「灼熱の魂」2192本目

驚きました。これがカンヌで外国語映画賞を取らなかったなんて。

パルムドールを取っても全然不思議じゃない力作でした。

苛烈な政治闘争のど真ん中にいた女性とその子供たちが、運命に振り回されることは想像できるけど「まさかここまでは。偶然が重なるにもほどがある」と言うこともできます。 でも、あまりに過酷な状況を外の世界に知らしめるためには、現実らしさを昇華して寓話化することも必要。この映画は、苦く苦しい運命を生き抜いた一人の女性と、その子どもとして生まれなければならなかった人たちの「約束」を通じて、最後には人間の中の美しいものにたどり着きました。

見てよかった・・・。

灼熱の魂 (字幕版)

灼熱の魂 (字幕版)

 

 

三宅唱 監督「きみの鳥はうたえる」2191本目

そうかこの映画も、佐藤泰志の原作なのか。

著者の若い頃から設定は変えられていて、3人はスマホを使ってLINEで会話し、DJがテクノを流すクラブで踊り、「オリビアを聴きながら」のレゲエバージョンを歌う。

この優しく流れるような音楽がいいですね。Hi'Specっていうアーティストらしい。佐藤泰志という作家は、優しすぎて、登場人物たちの日々に「終わり」をつけることができなかった(だから、どの小説もオチがなくて尻切れっぽい)という仮説を前に書いたことがあるのですが、この映画でも同じものを感じました。

折しも今日の東京はどんよりと曇って、降るのか降らないのかわからないお天気。低気圧のなかで、作家が見たもの、感じたもの、考えたこと、書きたかったこと、書けなかったこと・・・ぼんやりと私も考えてみます。

ジョン・キャメロン・ミッチェル 監督「ショートバス」2190本目

この世界の人たちはどうしてこんなに、豊穣を愛するんだろう。大勢の人たちが笑いながら交わりあっている、着飾ってライトを浴びて歌い踊っている、というような。寂しさの裏返しなのかな?そんなに寂しいの?

裸になって、体じゅうの穴という穴をカメラの前に、全世界の人たちの前に、さらけ出す。気持ち良さも気持ち悪さも。さらけ出すのが終わったあと、もう何も残っていないように感じたりしないのかな。それとも、全部出し切ってもどんどんエネルギーや生きる力が湧き出してくるのかな。

この映画を見てる人たちのほとんどは、さらけ出すことに違和感とか恐れを持ってる。出し惜しみをしている。何回か生まれ変わったら、もう恐れるものがなくなって、穴という穴までさらけ出しても恥ずかしくない、大きな心の持ち主になれるのかな。

それともずっと別世界のままなのかな。

ショートバス [DVD]

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