映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

デヴィッド・ロバート・ミッチェル 監督「アンダー・ザ・シルバーレイク」2189本目

面白いね。

アドベンチャー・ゲームを映画にしたような作りだけど。デヴィッド・リンチの映画みたいな怪しさが現実としても現れてきて、自分自身が思い切り巻き込まれるし、謎を解いたりもする。巻き込まれる自分が中二の少年ではなくて、ハリウッドに憧れて出てきた平凡なアメリカの若者ってところが、アメリカ的にはリアルなんだろうな。

この終わり方が中途半端とか、伏線が回収できてないっていう人もいると思うけど、私はもっと巻き込まれて続きが見たいなと思っている。

もしかしたら、大した謎ではなかったのかもしれないけど、一瞬この不思議な、現代的な世界に巻き込まれてドキドキさせてくれてよかった。

アンドリュー・ガーフィールドは、「沈黙」の純真で悲痛な若い宣教師のイメージで、この映画でもなんだか見ていてかわいそうな気持ちになりそうになるけど、この映画の中でこの役の彼はとても自由だ。自分の意思でウサギの穴に飛び込む命知らずだ。命がけで楽しむ、それが生きるってことだよね?

 

山本薩夫 監督「忍びの者」2188本目

1962年の作品。市川雷蔵主演の、忍者映画ブームの先駆けとなった作品だそうです。

歌舞伎とかにありそうな、悪い親方と若い奥方、若くて有望な間男、お家や身分の関係、と行ったテーマなのですが、市川雷蔵がいつもだけど今度も素敵で、とても楽しめる作品でした。

これ、子ども時代に見たら憧れただろうなぁ。ドキドキする要素が散りばめられているし、雷蔵の不思議な魅力。若々しい明るさ、強くてお茶目な目元と、それに反する妙に苦い口元の表情。彼のどこかにある”暗さ”は、子どもたちから見れば「謎」とか「大人の世界」のように見えるんだろうな。それは「忍者」という言葉そのものに潜む、秘密や伝統のロマンにぴったり合います。

白黒映画だからこそ、神秘性がさらに高まってるかもしれません。

市川雷蔵は、1969年にわずか37歳で亡くなるまでに159本の映画に出演したそうです。若い頃しか私たちに見せてくれなかった彼の姿を、この時代の映画で浴びるほど見ていた1960年代の少年少女が、うらやましい気がしてくるな・・・。

忍びの者 [DVD]

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キャメロン・クロウ 監督「シングルス」2187本目

 シアトル、1992年。ニルヴァーナでいえば「ネヴァーマインド」と「イン・ユーテロ」の間。Windowsでいえば最初のメジャーバージョンである3.1が出たとたんにバカ売れしていた頃。まだ独身者向けアパートは高騰していなくて、シアトルはジミヘンの思い出の残るグランジの街だ。Nintendo Americaがシアトルにできたのは1982年だから、この映画の若者はゲームをやって育ったかもしれない。Amazonの創業は2年後。グレイズ・アナトミーはこれより10年以上あと。・・・そんな時代のシアトルです。

普通の若い大人たちが出会って別れて、という人間ドラマで、そこがシアトルでなくても良い感じはするけど、気分を変えるために出かける先がアラスカという距離感(意外と”地の果て”まで簡単に行ける)とか、都会なんだけどどこか落ち着いていて人が多すぎない感じとか、暮らしやすい街っていう性格が生かされてる気がします。

主役はキーラ・セジウィックキャンベル・スコットなんだけど、ブリジット・フォンダマット・ディロンっていう有名俳優がどうしても注目されてます。それぞれが一生懸命生きていて、共感が持てます。

恋愛って本当に、進んでいいのかやめたほうがいいのか、迷うし、怖いし、正解はないからね。怖がりすぎないで、心を開いていけばいいのかな。などと思ったのでした。

シングルス (字幕版)

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R.バールキ 監督「パッドマン 5億人の女性を救った男」2186本目

愛ある映画だった。こんなに優しい夫なんているの?インドって男尊女卑で、夫はみんな妻を家政婦のように扱うのでは?くらいに思ってたけど、悪い先入観だったのかもしれません。

しかし、こんなに優しいのに夫の愛はなかなか伝わりません。。。使い物になる”パッド”もなかなか完成しません。女性の下半身の問題にふれたことで、村を追われるというほどのことは、実際ありうるの?清潔でない布を使い続けることや、”けがれ”の悪習がなくならないことの原因は、教育が行き届かないこと?

デリーのMBAに通っている女性は、都会っ子だから、あるいはお金持ちだから、生理用品を普段から使っていたのかな。「55ルピー」と「2ルピー」の価値ってどのくらいだろう。。。27倍だから大きな違いだ。2ルピーが100円だとしたら55ルピーは2700円だもんね。彼が大金持ちになっても、それはそれでいい映画だったと思うけど、仕事を持てない女性たちが自立できるようになるのはとっても大事。

優しい気持ちになれるハッピーな映画だけど、インドって国は大きくて、人口の半分だけで5億人もいる。布を何度も洗って使っている人たちは、多分今もいる。豊とか貧しいとかって、収入だけでは決まらないと思うけど、生理の処置はどんな人に清潔に快適にできたらいい。それが、最低限の幸せだと思う・・。

 

メル・ブルックス監督「サイレント・ムービー」2185本目

メル・ブルックスの笑いは明るくてやさしい。彼のカラッとした表情が好きだなぁ。でもなんでサイレント・ムービー?ノスタルジアなのかな。今誰かがサイレント映画を作ろうとしたら、美しい映像で音楽だけ流すとか、セリフがもともとない映画とか、なんでもできる今だから選択肢は色々あると思う。この時代に、サイレントっていう設定だけを使って映画を作るのも、なかなかの実験だったんだろうな。

そうそうたるスター俳優がゲスト出演しています。バート・レイノルズジェームズ・カーンライザ・ミネリアン・バンクロフトマルセル・マルソー、そしてポール・ニューマン。みんな実に楽しそうに生き生きとしてます。映画の幸せな時代だったんだろうな。

今見ると、ドタバタだしシンプルすぎるかもしれないけど、私はこの屈託のないドタバタ感、好きだな〜。

 

阪本順治監督「エルネスト」2184本目

エルネスト、といえばエルネスト・チェ・ゲバラだ。この映画は彼ではなく、彼によってエルネストという戦士名を与えられた日系の青年の物語です。

キューバには今も無料の医科大学があって、キューバの内外、アメリカからも学生が留学してくるそうです。ゲバラが亡くなったのはキューバ革命よりあと、ボリビアで戦っていたときだそうだけど、このエルネストもその戦いで命を落としてたんですね。

オダギリジョーの演技は、本人が「最近は楽してた」と言っているとおり、私もいつもつまんなさそうだなと思って見ていたけど、この映画では別人に生まれ変わったように真摯です。 ・・・いつも生まれ変わってくれよ!(心の声が・・・すみません)

阪本順治監督の作品は、大好きなのと「あれ?」と思うのがあるんだけど、この映画は感情が高ぶり過ぎずに静かな分、迫ってくるものがありました。

ただ、キューバっていう美しくてカラフルな国がせっかく舞台なんだから、素晴らしい音楽やカラフルな女性の服装とかも垣間見させて欲しかったな。

エルネスト (字幕版)

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デイビッド・イェーツ 監督「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」2183本目

機内で見たんだけど、肝心の最後の30分くらいが見られなかったので、DVDをレンタル。

エディ・レッドメイン=ニュート・スキャマンダーは今回も非常に可愛く、ジョニー・デップ=グリンデンバルドがもう怖くて極悪で最高ですね。

家でPCを開きながら見ないと気づかないこともある。「賢者の石」を作ったニコラス・フラメルを演じてるのは、あのホドロフスキーの息子の方だ。親子できっと盛り上がっただろうなぁ、こんなにマジカルでファンタスティックな映画に、あれほどの賢者の役で出るなんて。

河童も出てくるし、中国のズーウーって妖怪さんも出てくるし、美しいヘビ女は韓国の女優さんみたいだし。魔法界はアジアブームかしら。

この映画では、ニュートの兄との関係や、ティナとクイーニーの関係のような血の繋がりがあちこちでキーとなっていて、失われた赤ちゃんではなく手元に残った赤ちゃんの関係性が最後の最後に明らかになる・・・というドラマチックな展開になっています。

チャーミングなキャラクターたちと魔法動物たち、びっくりするような美術、めくるめく特殊効果、はもう当たり前だけど、人間って・・・というじわっとくるものが底にある。ハラハラ、ドキドキもするし、楽しませてくれるな〜。早く次回作がみたいです。