映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジュゼッペ・トルナトーレ 監督「鑑定士と顔のない依頼人」1319本目

これ、イタリア映画ですよ!
だって、「ニュー・シネマ・パラダイス」の監督だし。
出演者みんなイギリスっぽい英語だけど、イタリアで英語の映画を作ると、こんなふうにイギリス風になるのか。(マカロニ・ウエスタンはアメリカ映画に見えたけど)
しかしこの監督。「パラダイス」ではほっこりとさせてくれたけど、主人公が彼自身を映したものだとしたら、監督としてはシニカルで悲観的な作品を作る人のはずだと思ってました。この映画で「なるほど」。

原題は「The Best Offer」。久々に、邦題のほうがずっといいと思えました。
原題の直訳では、ヨーロッパの人にはわかるかもしれない「皮肉」の部分がまずわからないし、日本から見ると最大の魅力に思えるこの映画のヨーロッパ的重厚さが、薄っぺらく思えてしまう。

ジェフリー・ラッシュは、彼がいると映画が本当に思える。隣に住んでいたら嫌いかもしれないけど、映画という”神の視点”で見ると、これほど愛しく思える人もいない。偏屈でだまされやすく、ケチで献身的。

ストーリーについては、カラクリ人形やら芝居がかった謎の女やら、最初っから怪しさ満載で、どこでどういう転換を経てどこへ落とすのかと思って見ていたら、ほぼ予想通りだったけど、虚しく一人バーで飲むだけじゃなくて、トゥームレイダーアンジェリーナ・ジョリーが使ってたような器具で肉体改造を行った鑑定士が、見事、小気味好いリベンジを果たす続編が見たい!ジェフリー・ラッシュには、そういう秘めたるエネルギーを感じさせるものがあるし。・・・でも、この映画のように終わっても、絶望というかんじではなく、妙にタフな感じがするのがいい。

謎の女クレアを演じたシルヴィア・フークスは、修理屋ジム・スタージェスが言う「ほかで出会ったら普通の女なのに、そういうシチュエーションに飲まれて美人に見える」がなんとなく納得できる感じがあります。少女っぽくてキレイだけど、突出した特徴がない。

鑑定士に長年うまく使われている画家ドナルド・サザーランドは、調子を合わせながら積年の恨みを募らせる役がはまってます。

そんな感じで、突っ込みたいところはたくさんあるんだけど、楽しませてくれた映画でした。