映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

キャスリン・ビグロー 監督「デトロイト」1862本目

デトロイトでアフリカ系の住民たちが起こした暴動の話」「あのキャサリン・ビグローが撮った」とだけ意識しながら見はじめたら、ソウルミュージックのコンサートが始まった。そうだ、デトロイトはフォードの工場で栄えたモータ・シティ、つまりソウル・ミュージックの殿堂モータウン・レコードの本拠地だ。
音楽はその時代の人間の繊細な部分を裸にするので、音楽が関わってくると切なさが迫ってくるんだよな。

1967年ですよ。南北戦争の時代じゃなくて。州兵の中には黒人もいるし、ベトナム帰還兵の中にもいる。そんな時代に、まだこんなことが起こってたアメリカには、私たちが見ていたツルツルの表面とは違うザラザラの裏の顔がある。

ビグロー監督、相変わらずハードボイルドだ。情け容赦ない。
前に「ゼロ・ダーク・サーティ」を見たとき、こんな完璧な美人がどういう事情であんな厳しい映画を撮るのかという偏見に満ちた感想を書いたんだけど、今また偏見だらけの想像をするに、女性だからこそ「#MeToo」という思いをしたかもしれないし、あの国のど真ん中を行く男たちには見えない風景を見てしまったのかもしれない。もしそうだとしたら、これほどの冷徹な映画の形にそれらを結実させてくれてありがとう、と言いたいです。

怒りとか悲しみの他に、やりきれなさが強い。加害者の白人警官と話したあとに嘔吐する黒人警官に、激しく共感します。