映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

白羽弥仁 監督「みとりし」2607本目

この映画は試写会で見て、映画館で見て、DVDが出たのでまた見てる。VODもやってますね。時間をかけて映画館に行くのが難しかった人にも見てもらえる機会ができて嬉しい。たくさんの人に見てほしいです。

特典映像として舞台挨拶も収録されてますね。この映画の公開が2019年9月。その後「看取り士」取得方法がかなり変わりました。初級・中級・上級ってあるのですが、中級が4泊5日だっけな、「胎内体感」という、親との関係性を真剣に振り返る沈黙の時間が以前は必須で、これが自分には本当にきつかった。でも乗り越えたおかげで吹っ切れたものも大きかったです。今はこの胎内体感がオプションになって、座学と実践研修だけになったんだと思います。

死を恐れるかどうかってすごく重要な問題だと思うんだけど、人は生まれたからにはいつか死ぬのも当たり前なわけで、怖くないよ、大丈夫だよ、と本人に話しかけることや、残される人たちが悲しみすぎないよう働きかけるのも大事。

瞑想に通ったり看取り士になったり、ということに明け暮れてたのが2017年、2018年は投資の勉強をしまくって、2019年は飛行機に乗りまくって旅行しまくって、まるで「もう思い残すことはない」みたいな感じだけど(まだ50代なのに)、会社をやめてもまた仕事を始めてしまった。この感じをあと2年くらい続けたら、またこれからのことを見直すのかな。

人生ってのは神様からひとりひとりに与えられた「好きなことをしていい時間」だから、せいぜい自分が喜ぶようなことをさせてやらなきゃな。

みとりし

みとりし

  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: Prime Video
 

 

ペドロ・アルモドバル監督「オール・アバウト・マイ・マザー」2606本目

2012年にこの映画をレンタルして見たのが、アルモドバル監督との出会い。

自伝的にも見える最新作「ペイン・アンド・グローリー」を見てきたら、この作品を見直してみたくなった。

最初に見たとき、臓器移植コーディネイター(セシリア・ロスだったんだな)という仕事が映画の中心になるのかなと思ったのに、さらっと流してすぐに違う方向に行ってしまって、ついていけなくて何度も見直した。アルモドバル監督の初期の祝祭的でカラフルな世界がまだこの作品では見られます。シスター・ロサを演じるペネロペ・クルスがまだお嬢ちゃんっぽい。それに引き換え、最新作の彼女の貫禄!

この映画でもセシリア・ロスとすぐ死んじゃう繊細な息子は、強い母と弱い息子という関係で、最新作を見た後の目には、母に対する強い愛と同じくらい大きな反発を心の奥底に潜めてきたのかなという気がしてきます。

「欲望という名の電車」は、今はもう見たことがあるけど、セシリア・ロス(当時43歳かな)とマリサ・パレデス(同54歳)ではちょっと年長すぎないか?それにしても、彼女たちのあの舞台がもし見られたらきっと素晴らしいだろうな。

レンタルしたDVDにたくさん特典映像が入ってて、まだ頭が黒いアルモドバル監督が英語で長いインタビューに答えるのも見られます。主演の二人のほかに、いっぱい手術したアントニオ・サンファンのことも詳しく語ってるけど、ペネロペ・クルスは名前の順番もあとのほうだし、まだあまり詳しく語られません。ジーナ・ローランズのような憧れの女優を思わせる、と、セシリア・ロスのことを語る場面があるんだけど、インタビュアーはその後監督にカサヴェテス監督の影響について尋ねます。「オープニング・ナイト」には本当に衝撃を受けたんだって。女性をど真ん中に置いて大切に撮る、男はロクデナシしか出てこない、という共通点はありますね。

今から20年前の作品。監督の作品が全世界で広く見られるようになったきっかけの作品が。彼の背中は、まだあまり痛くなかったのかな。。。

記憶のなかのこの映画は、もうちょっとアートっぽいフランス映画みたいだったんだけど、今回見直してみて、むしろギャグが少ないだけの典型的初期~中期のアルモドバル作品でした!

オール・アバウト・マイ・マザー [DVD]

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  • 発売日: 2006/06/23
  • メディア: DVD
 

 

ヨン・サンホ 監督「新感染 ファイナル・エクスプレス」2605本目

ゾンビ系映画の名作、とどこかで読んで見てみたくなりました。だいいち、韓国映画とゾンビって遠い気がして興味が湧きます。原題は「Seoul to Busan」。かなりの距離かなと思ったけど日本でいえば東京京都よりちょっと近い。「スノーピアサー」にしろこの映画にしろ、高速鉄道とサスペンスって結びつきやすいんでしょうかね?(昔の日本の特急列車と「xx殺人事件」みたいに?)

冒頭でいきなり生き返るシカ系のゾンビがちょっと可愛い。これがこの後に起こることを示唆してるんでしょうね~。

この映画のゾンビはめちゃくちゃ怖いね!新幹線のまどに外から追突してくるゾンビと逃げ惑う人間たちも怖い。すごい人数がドカドカ降りそそぐ軍隊ゾンビも、迫力すごい。感染しても戦い続けたイカツいお兄さんも。列車をわらわらと追ってくる大量のゾンビたちも。「パラサイト」で初々しい”もと野球部員”を演じたチェ・ウシク、この映画でもなお初々しいです。ファンドマネージャーだけどたくましいパパのコン・ユも、けなげな娘のキム・スーアンも熱演。

「デッド・ドント・ダイ」を見てからゾンビのエキストラやりたいと話してましたが、この映画のゾンビは演じ切る自信ないな!難易度高い!この映画のゾンビは、怖くて気持ち悪くてよくできてますよね。でも相当怖くても、ゾンビはもはや「フランケンシュタイン」とか「ドラキュラ」のような普遍的アイコンなので韓国映画ってエンタメに振り切った作品がとても面白いのです。これは本当に力作。韓国映画の昨今の力作の幅の広さには驚きます。でもこの映画は他の方々のレビューを読んでなかったら見ようと思わなかっただろうな。新しい出会いがもらえてありがたいです。

新感染 ファイナル・エクスプレス(字幕版)

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  • 発売日: 2018/01/01
  • メディア: Prime Video
 

 

アッバス・キアロスタミ監督「そして人生はつづく」2604本目

こういう世界を垣間見られるのが、映画を見る醍醐味なんだよなぁ。

この監督の作品は地味でとっかかりが悪いので、仕事終わってから映画館で見るとウトウトしてる間に終わってしまいそうなんだけど、一語一句もらさずちゃんと聞いてると、だんだん、伝説の砂漠の賢者にでも出会ったような、不思議で荘厳な気持ちになってくる。

「監督の息子」が、幼い娘を亡くした母親に、「神様はそんなひどいことはしない。狂犬が食べてしまったんだ。神様はイブラヒムの息子を殺させようとしたけどそれを止めて羊を身代わりにした。そんな優しい神様はおばさんの娘を殺したりしない」と諭します。この小さい子、賢者すぎる…。

同じ町で撮影した3部作の2番目の作品らしい。1作目の撮影後に起こった大地震でその町は多くの建物と人々を失った。監督自身を模した主人公が息子を連れてその町を訪れるんだけど、前の映画に出た「老人」が「息子」に「映画より若いね」と言われて、「前の映画ではもっと年寄りに見せるために背中にこぶを入れたんだ」。「前の映画で住んでた家は映画用の家で、今住んでる家も映画用で自分の本当の家は地震で壊れてしまった」などとメタメタなことを言うんだけど、それが新人監督が肩ひじ張ってるのと全然違って、神の視点のように感じられるこの精神性って何だ。イランの監督という珍しさでバイアスがかかってるからそう感じるのか?いやむしろ、砂岩のなかで暮らす役者じゃない人たちの暮らしに神が宿るように感じられるからじゃないかな?(逆にいえば、遠いところの人から見れば、東京の下町の小さい家で暮らす人たちの映画のなかに神が宿るとキアロスタミ監督は小津作品を見て感じたのかもしれない)

終わり方がまた、ね。「友だちのうち」も「オリーブの林」も、とても遠い、もう神の視点みたいなカメラが、えっちらおっちら登ったり落ちそうになったりしながら進んでいく車を写して、そのまま終わるんだけど、甚大な被害のあった地震のあとに、日本の監督ならこういう引いた視点を持てるだろうか?って考えてしまう。もっと人や関係性に近い、地べたを這うような視点が魅力の作品を作るのが、日本や韓国の監督の得意とするところって印象があります。キアロスタミ監督って何者なんだろう。イランの人はみんなこれほど高みにいるんだろうか。内戦を経験した世代だから人の生死や愛憎を超えた何かを求めるようになったんだろうか。いつかイランに行って現地の人たちとお話をすることってあるかな…。

そして人生はつづく ニューマスター版 [DVD]

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  • 発売日: 2019/02/08
  • メディア: DVD
 

 

 

セバスティアン・レリオ 監督「ロニートとエスティ 彼女たちの選択」2603本目

世界二大可愛いレイチェル(※私見)が二人そろって出演してる!それに意味深なDVD画像。これは見なければ、というこのドキドキ感。(私ほんと女優さん好きだなぁ、男優さんより好きな人がずっと多い)

この映画はイギリス郊外のユダヤ人街(Northern Lineの北の方のGolders Greenあたりかしら)のユダヤ教高僧の娘ロニート(レイチェル・ワイズ)と、その幼なじみの少女エスティ(レイチェル・マクアダムス)が恋に落ちてしまった話。二人のことが高僧に知られてしまい、ロニートは黙って家を出てNYで暮らすようになる。残されたエスティは、やがて同じく幼なじみのドヴィッドと結婚して女学校の教師となり、それなりに充実した生活を送っている。高僧が亡くなり、エスティがNYのロニートを呼び戻すことで物語が動き出す…。

<以下ネタバレあり>

最初は家を出てかえりみないロニートが「冷たい家出娘」として扱われる場面。彼女は愛したエスティとドヴィッドが結婚していたことを知ってショックを受けるけど、やがて、むしろエスティがロニートを慕い続けていて、葬儀をきっかけに彼女を呼び戻そうとしたことがわかってきます。ロニート以外の人を愛したことはないと。二人は再び熱い関係に陥っていきます。十分に人目を避けることすらしないほどに。

以前からずっとエスティを想っていたドヴィッドは人づてにそのことを聞いて最初は何かの過ちと思い、妻を問い詰めるんだけど、「私がずっとほしかったのは彼女なの」と涙ながらに訴える妻の情熱に、立ち直れないほどのショックを受けて、彼女を拒絶します。この態度は、以前高僧が娘たちのことを知ってショックを受けた姿と重なります。

でも愛は彼女たちのせいではない。ドヴィッドは自分の迷いをさらけ出して、決まりかけていたラビ職を辞すると宣言します。エスティは、ロニートへの想いだけに夢中になっていた自分に気づき、初めて夫の痛みを分かち合うことができ、打ちひしがれた彼を追っていって抱きしめます。夫も、エスティの一途な弱さ、彼女を守るために黙って街を出たロニートの強さを知って、後を追って出てきたロニートも抱きしめます。幼なじみ3人が抱き合う美しい場面。これは、高僧が最後に残した言葉…なんだっけ…変化を恐れるな、だっけ。違いを受け入れろ、だっけ。とにかく娘たちの愛を今は否定はしないよ、という愛にあふれた言葉でした。(そのことと、遺産をすべてシナゴーグに寄付したことは矛盾しないと私は思った)

ユダヤ教や同性愛がベースにあることは、説得力を持たせるための設定でしかなくて、許されない相手を愛してしまった人たちが、それを隠して世間と折り合っていくこととその綻び、そこからの破綻なのか再生なのか、を描くという意味ではとても普遍的な、人間性をテーマにした映画でした。

現実での年齢はワイズのほうは50歳でマクアダムスは41歳という開きがあったり、やたらとマクアダムスの女性らしさや弱弱しさを切り取るカメラ、というあたりからも、彼女の弱さや幼さが台風の目になっていることがだんだんわかってきます。無難な道を選んだけど、思いを隠すことも抑えることもできない。穏やかで優しいけど本心では強情。

そして最後には、そんな彼女を愛し、守りたいというドヴィッドとロニートの想いがこの先の彼らの人生を形作っていくのでしょう。ロニートは自分を想いながら亡くなった父の墓前にひとり立ち寄ってからNYに戻っていきます。

グザヴィエ・ドランの世界か。ロンドンはオスカー・ワイルドの昔から同性愛が比較的早く認められるようになった街だと思ってたけど、宗教が絡むと厳しいのか。

 愛を胸に秘めたまま孤独に耐えて生きていけるのは、冷たいんじゃなくて愛情が深いからだ。この先ずっと、街の人たちの冷たい目に耐えながら生きていく夫妻のほうが心配だな。。。

ロニートとエスティ 彼女たちの選択 (字幕版)

ロニートとエスティ 彼女たちの選択 (字幕版)

  • 発売日: 2020/04/10
  • メディア: Prime Video
 

 

 

ジョナサン・レヴィン 監督「ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋」2602本目

タイトルの副題がおもしろくないなぁ…。

この映画はとても面白かったんだけどね。こういう下ネタ(汚い系に近い)が多いアメリカ映画って日本では大ヒットはしにくい気がします。

この映画を見て思ったのは、シャーリーズ・セロンなら大統領候補者でも貫禄十分だなぁ(メリル・ストリープに続いて首長を演じられる美人女優ってかんじ)。セス・ローガンは実在しそうな、ちょっと誇張されたキャラ。身近にいたらちょっとめんどくさい感じの存在です。

それから、「スリー・ビルボード」で人々の中に溜まっている不満や偏見をあぶりだしたアメリカ映画が、今度は自分の中の偏見を自覚して相手と話し合った上で、オープンでいようという方向に舵を切った、という点が印象に残りました。醜い部分をさらけ出した後に、正気に戻ろうとしている。人間ってあっちに振れ切った後はこっちに戻ってくる、もともと揺れ動く存在なのかもしれない。…そう考えると次の大統領選は民主党かしら…いや、アメリカは有名人も政治的な主張をする国なので、去年も今年もあっちの主張やこっちの主張の映画が作られているのかもしれません。

でもこれってありえない恋なの?大統領候補者と子どもの頃の知り合いが再会して恋に落ちるのってありえない?美人はみんな面食い?彼は主張が強いけど敏腕ジャーナリストなのに。…違うな、この恋がありうることはみんなわかってるけど、ありえないのは彼女が演説の途中でカミングアウトすることだ。わかりきってる結末だけど、やっぱりこんなふうに終わってくれて安心しました。 

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋(字幕版)

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋(字幕版)

  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: Prime Video
 

 

J.A.バヨナ 監督「永遠のこどもたち」2601本目

よくできた映画でした。このラテン的情緒、現実と怪奇やファンタジーに垣根がない感じがすごく、なんというか、体質に合うんですよ。

<ネタバレあり>

よくあるミステリアスな映画みたいに始まるけど(※私はその手は総じて好き)、坊やの宝探しゲームが「リアル脱出ゲーム」みたいによくできてたり、ソーシャルワーカーを名乗るベニグナに(母の妄想の存在でも、母が錯乱して殺したのでもなく)街で再会する(そして突然事故にあってしまう!ショッキング!)あたりから、妄想の世界から現実に引き戻されます。

霊媒師アウローラ、見たことあるなーと思ったら、ジェラルディン・チャップリンだ。この人、達者だなぁ。この存在感、ミステリアスなたたずまい。この役をほかの人がやっていたら、これほどの説得力はなくて、この映画はもっと安っぽくて、うさんくさいものになったかもしれません。映画の芯を彼女が作ってるのだ。スペイン語も普通に話していて違和感ないし。

母を演じたのは「海を飛ぶ夢」でハビエル・バルデムの協力者を演じた人だ。少しだけ暗さがあるけど、まっすぐ目を開いて見つめる感じが凛としていて素敵です。

2度目の宝探しも、スペイン語の「だるまさんがころんだ」もスリリングだなぁ!ちょっと「パラサイト」かよ?というような秘密の部屋…ぐるぐる回りながら霊たちを追い払おうとする母。…半年もたってるんだよ。いるわけないじゃん。。。

幼くして亡くなった子供たちの、可愛いままの霊がなんとも切ないです。

ギレルモ・デル・トロの世界なんだよなぁ、この、可愛くて怖い子供たちの世界。残酷だけど愛にあふれていて、独特の味わいが後を引きます。かなり好きな世界でした。 

永遠のこどもたち (字幕版)

永遠のこどもたち (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video