映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ビレ・アウグスト監督「デスティニー・イン・ザ・ウォー」2914本目

中国映画らしい、監督はデンマーク生まれだけど。主役の、中国に不時着した米兵を演じてるのは「イントゥ・ザ・ワイルド」のエミール・ハーシュなんだ。わからなかった。

冒頭から日本を空爆するアメリカ軍のが飛び交ってて、ドキッとする。それと、一人を救うために多くの人たちが犠牲になるっていうのは、やるせない。「1917」でも「プライベート・ライアン」でも。

しかしこの映画は、反戦映画なのかな。日本軍は悪いし嫌なやつらだけど、インズに言い寄る上官もまあまあ(途中までは)礼儀正しいし、途中退散する中国軍は悪くはないけどちょっと卑怯だし…なんとなく、ぼんやりとした感覚が残ります。

ジャックが晩年に、インズの娘に手紙を書いたとしても、まるで守られるべきはアメリカ人で中国が犠牲を払うのは避けられなかった(そして日本は鬼畜)っていう、デンマーク生まれの監督にしてどうしてアメリカを上位に置く?

それにしても、未亡人インズを演じたリウ・イーフェイは清純で美しかったなぁ。

デスティニー・イン・ザ・ウォー(字幕版)

デスティニー・イン・ザ・ウォー(字幕版)

  • 発売日: 2019/03/02
  • メディア: Prime Video
 

 

ピレ・アウグスト監督「マンデラの名もなき看守」2913本目

ビレ・アウグストがこういう映画(社会派、っていうの?)も作ってたんだ。

ネルソン・マンデラがらみの映画はいくつか見たけど、管理者側の作品は初めて。もう、人間はいい人と悪い人に分かれるっていう考えは止めるしかないのだ。上に立つ人がいると、恨みを貯める人が出てきて、恨みはすべての争いと正当化の根源になる。最初はマンデラに厳しく当たっていた看守も、マンデラの徹底した公正さと自由・平等の信念に影響を受け始める。その変化は1:1の個人的なものだけではなくて、アメリカの公民権運動がかなり遅れて南アにやっと到達するまでの世の中の変化でもある。

レイフ・ファインズに対する弟ジョセフ・ファインズの存在感って、ベン・アフレックに対するケイシー・アフレックに近いような(まったくの私見)。兄たちはアクも押し出しも強いけど弟たちは控えめな人柄が光る役柄で地味ながら名作を主演している(cf.マンチェスター・バイ・ザ・シー)。この映画ではぴったりのはまり役です。まじめで正義感が強い。だから”法を執行する仕事をしている”(cf.「リチャード・ジュエル」の映画の中でのせりふ)。まじめだから白人たちの正義を正しいことだと信じ切ってるけど、純粋ゆえに現実から目を背けられない。この看守ですら最初は「マンデラを死刑にすべきだ。恐るべきテロリストだ」という。私は生まれてこのかた、マンデラは南アのヒーローだ。そういうところで育ったから。でも彼の団体はテロを行って民間人も殺してたのは事実らしい。「嫌いな人には何をやってもいい」と思い込んでいる哀しい人たちが、そこにも、ここにも、大勢いる。革命のヒーローって本当にヒーローなのかな。

(看守の奥さん、いつもオシャレだよなぁ。ノースリーブのワンピースが多いけど、そんなに南アって暑かったっけ)

マンデラの名もなき看守 (字幕版)

マンデラの名もなき看守 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

黒沢清監督「スパイの妻」2912本目

 やっと見ました。黒澤清監督の作品は、わりと見てるけど私の琴線に触れるものと触れないものの差が大きい。この作品は高橋一生と蒼井優が二人ともイメージが固定してる気がして、あまり期待してなかったんだけど、国内外での評価がすごいので、自分の物差しが世間と一致するのかしないのか、というリトマス試験紙の実験のような視聴体験なのであります。

主役の二人は最初は予想通りな感じなのだけど、だんだん引き込まれていくのはやっぱり彼らの演技力なんだなぁ。ホラー映画の経験を生かしたような暗い画面がなかなか意味深で、見てる人の気持ちをくすぐるような魅力があります。ミステリアスなストーリーにも入り込んでしまいます。

BNetflixだってAmazonだって上映後のVODは自社の契約者を優先あるいは独占するのに、公共放送の受信料で作ったドラマをNHKの衛星2Kや地上波で放送せずに映画館にかけることを、どういうふうに理屈付けしたんだろう。

ただ、どんなに良いドラマを作っても海外の映画賞で評価される機会はゼロという事実を考えると、制作側のスタッフが希望をもって作り続けるためには、この実験も必要だったのかもしれません。

脚本はキネマ旬報の脚本賞の受賞の際にも見たけど、最近また話題の濱口竜介を含む3人。濱口竜介は私はかなり好きな映画人なので、彼の功績を過大評価したくてたまらない(実際の貢献度はわからないので、適切な評価をするのは多分ムリ)。

スパイの妻<劇場版>

スパイの妻<劇場版>

  • 発売日: 2021/03/03
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ウディ・アレン監督「ブロードウェイと銃弾」2911本目

<ネタバレあります>

けっこう前、27年も前の1994年の作品。ウディ・アレンがジョン・キューザックに憑依するのですが、舞台が”古き良き(悪き)禁酒法時代のアメリカ”なので、少し甘くほろ苦いロマンチックで、ロマンチック皆無の最近の作品と比べると、ウディ・アレン初期~中期作品、という印象です。
この映画のヒロインのオリーブ嬢は誰かみたいだと思ったら、まるでミア・ファローを演じてるみたいですね。わざとかな?というくらいバカっぽい話し方、鼻にかかったトロンとした声色…。

これ、「マンク」とベースが同じですね。ギャングの親分が金を出して自分の愛人を女優に仕立て上げるけど、うまくいくはずもない、という。ウディ・アレンが憑依したハーマン・J・マンキウィッツをジョン・キューザックが演じてる。ジョン・キューザックも、情けない男を演じさせたらなかなかな俳優だと思いますが、最近あんまり見ないなぁ。

しかし、大根役者の彼女が撃たれる、ってのがウディ・アレン式ブラックコメディなんですかね。「殺さなくてもいいじゃない」と観客の99%は思っただろうけど、その中の半数はちょっと痛快に感じたはず。この辺の思い切りはクエンティン・タランティーノやロバート・ロドリゲス的。

面白いけど、最近のアレン監督の作品のほうがもっと面白いんだよなぁ。。。。

ブロードウェイと銃弾 (字幕版)

ブロードウェイと銃弾 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

ニール・ラビュート監督「ウィッカーマン」2910本目

2006年の作品。こういう作品が無料枠にあるのがU-Nextなんだな(お試し中)。映画が6万本もあるから、大昔の作品が好きな人にはいいって聞いて試してるけど、見たいものが提供されてる確率は新旧合わせて7割くらい、しかもそのうち4割くらいは別料金(レンタルDVDよりだいぶ高い)。やっぱりTSUTAYAとは当分別れられないわ…。

さて。この作品は「ミッドサマー」の元ネタとあちこちで言われているので見てみたかったのです。

ニコラス・ケイジ…いつもいい演技をしてるのに、ひどい目に合う役だったり、熱演なのに点数が低かったり…そんな彼の”いたいけ”な魅力が最大限に発揮されてしまいました。なんか好きになりそうなくらい…。

ウィッカーマンって「バーニングマン」に似てるな、燃やされる巨大な木の人形が。ウィッカーマンの方が古代ガリア人の特定の宗教の祭事だったそうなので(Wikipedia)、バーニングマンのほうがそれを真似したんじゃないかと思われるけど、バーニングマンでは人間は燃やしてなくてよかった…。(日本でもバーニングマンをやろうってことになって多分2016年に奥多摩かどっかで開催したのに行ったことがある。すごく小規模だったけど友達にくっついて何か屋台みたいなものを出したような。そこで落合陽一のような人が何かパフォーマンスをやってたのを覚えてるんだけど、あれは彼だったんだろうか…) 

ウィッカーマン (字幕版)

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 

マット・ダヴェラ監督「ミニマリズム 本当に大切なもの」2909本目(KINENOTE未掲載)

10年ほど前から荷物を減らし始めました。都心に引っ越したので前より狭い部屋になった(収納は1/10くらい)ってのもあるけど、その後、親が亡くなって実家もなくなり、いよいよ身ひとつでどこにでも行ける立場になったことや、都心のコスト高の暮らしをいつか辞めて、そのうち地価も物価も安いどこかに移住しようと思ったから、というのもあります。数年前からは、海外移住や「家を持たずにあちこちを転々とする暮らし」に憧れはじめて、その究極系であるキャンピングカーについて調べたりしてます。

でもそれまでは、コレクター気質で物をどんどん買って貯めてしまうほうだし、家はできる限り広々してるほうがいいと思ってたので、貯め込んだガラクタの量といったら!!

食器や本やCDはかなり処分したけど、しょうもない安物の衣類はまだたくさんあるし、ボロいアクセサリーや壊れたプリンター…もう使ってないノートPC…ああやっぱりガラクタの山になってる。

この映画に登場するアメリカのミニマリストたちに聞くまでもなく、我らが日本の「こんまり」だって、ときめかないものは全部不要と言っている。その通りだ。収入が減った今こそ、本気でミニマリズムを実践するときなのかもしれない。

節約も断捨離も、実践してみないとコツはつかめない。一方で本当に気に入った衣類は、よく着るのですぐ傷む。直して使い続けられるものばかりではない。買い直そうとしても似て非なるものしかない。愛せるモノは永遠に感覚をとぎすまして、選び続けるしかないのだ。多分ミニマリズムって、究極の自分自身を見つけるための旅みたいなもんじゃないか。

禅だよな、それって…。私には自然に到達できそうにないので、何冊か本を読んでみようかなと思います。(買わないで借りるのはミニマリズム的にはOK?)

ジェフ・オーロースキー監督「監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影」2908本目(KINENOTE未掲載)

Netflixの見ごたえのあるオリジナルドキュメンタリーシリーズをまた1つ見ました。

興味深いテーマ。Google、Twitter、Facebook、Instagram、などの今をときめく巨大テック企業を辞めた人たちが登場して、簡単には言えないけど「正しいことをやっていると思えなくなって」辞めた彼らの事情をひもといていきます。

Netflixって映像系の会社の中では断トツこういったテック系からの転職が多い会社で、回線の安定性とかユーザビリティの良さ、リコメンドの正確さは彼らに負っている部分が大きいと聞いてます。作ったのも共通の人たちだし、ユーザーのデータを吸い上げていることに関しても、ひとごとのように描いてる場合じゃないよね?(一応書いといた)

私も巨大テック企業で16年も働いた人間だけど、まだネットの弊害や情報漏洩の問題は注目されないくらい小さい時代だったので、彼らと同じ「もやもや」や「不安」を持つには至らなかった。問題はネットで起こってるってことなんだろうな。

お金を払って見るテレビと、タダで見られるテレビは違うように、お金を払って使うサービスと、タダで使えるサービスは違う。タダより高いものなんてあるわけない。いつから人はそんなこともわからないようになったんだろう?大人がはまって、子どもたちに教えることもなくなったってことかな。

ウェブ検索や自動翻訳が本当に役立つものへと完成度を高められたのは、無料だから使う人たちの膨大なデータのおかげだ。自分が与えるものと得るもの、相手が掠め取るものと提供するもの。すべてはつながっていて、すべてが天秤の上で平衡を示してる。…だから、倫理観がありそうな会社のサービスに対してより強い信頼感を持つべきで、そういう目をもってサービスを監視したり選んだりするべきなんだよな。

でも世の中の99%の人はデジタルサービスを会社の倫理性で選ぶ知識がない。多分。

歴史的に、新しい商売は法律の抜け穴を抜けて始めて大もうけして、ある日取り締まる法律ができてそれが違法とされる。世の中の分断が進んでいるのは実感だけど、SNSがなかったら分断は「ここまでは」進んでない、のかもしれない。

人間はおそろしく騙されやすい。騙すことによって利益を得ようと思ってはいけない。っていうのが本当は最低限の倫理なんだけどな…。