映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ニール・ヤング(バーナード・シェイキー)監督「ヒューマン・ハイウェイ ディレクターズカット」3152本目

DEVOって高校の頃にクラフトワークとかYMOとかと一緒に聞いてた”テクノポップ”グループなんだけど、いつも全員お揃いのつなぎを着て、電子楽器のほかにその辺にあるものを叩いたりして、変拍子の曲とかやってた変わり者だった。1982年当時、ロック界隈には”No Nukes”というムーブメントがあって、日本でも食い詰めて原発作業員になったバンドマンが被ばくしたとかしないとか、割合身近な話題だった。…を踏まえても、この映画は珍妙だ。誰だ発掘してきたの。

DEVOのマーク・マザーズバウがその後いろんな映画の音楽を制作してるのは、この映画がきっかけだったのかな。DEVOのステージに登場する「Booji Boy(小さい男の子のお面を被ったやつ)」はこんな風にしゃべるのか。なかなかの重要キャラクターじゃないか。(当時MTVなかったので動くDEVOはほとんど見たことない)

ニール・ヤング若い…独特の鼻声ですぐわかる。偏屈じじぃ(失礼)として知られている彼がコメディアンばりに主役を演じててびっくりだ。デニス・ホッパーも元気。赤いつなぎを着た原発廃棄物の運搬業者のDEVOは常に発光して「glow boys」と呼ばれている。すごい放射線量・・・。たびたび起こる地震。これは東日本大震災の直後とかにはブラックユーモア過ぎて上映できなかっただろう。チェルノブイリよりも前にこの作品を作った彼らは、なかなか鋭い。そしてトロント映画祭での上映は、ニール・ヤングが地元で上映する気になったからか。

いやー面白かった。といっても作られた背景や意図が面白いわけで、映画として背景なしに見るのはきついかもしれません。ブラックユーモアたっぷりのミュージックビデオ、と考えればいいかな。

 

 

ロバート・ゼメキス監督「ロジャー・ラビット」3151本目

U-NEXTの「もうすぐ終了」に入ってたので、見てみました。1988年の作品。トム&ジェリー的なスラップスティックなアニメーションが実写とスルっと合流する感じ、もっとゴツゴツしてるかと思ったら意外と気持ちよく見られますね。

ボブ・ホスキンスってイギリス人なんだ。そう言われてもアメリカ人っぽい。Wikipediaに手塚治虫が演技をほめたって書いてあったけど、まだこのときはご存命だったんだな…

この手のアニメの動きって大げさすぎてちょっと見てるだけで疲れるけど、楽しかった。クリストファー・ロイドが出てるだけでもう嬉しい。(感覚が子どもだな)

愛読しているレビュアーのみなさんはおおむね辛口批評だけど、私は嫌いじゃなかったです…。

 

リチャード・スタンリー監督「カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇」3150本目

ちょっと昔の作品かと思ってたけど、まさかの2019年製作。CGバリバリではあるけど、1995年くらいにはもう実現してた感じのエフェクトだしなぁ。(だいいち、ニコラス・ケイジってところが1990年代っぽいし、なぜか全然老けてない)

その妻を演じるジョエリー・リチャードソンだけ見てると「ミッドサマー」とかの新しいオカルトホラーかなと思ってしまうのはなぜだろう?娘を演じてるマデリン・アーサーも見覚えがある。

(以下ネタバレあります)

娘がなにかを召喚~隕石墜落~なんか憑依して家族が別の生物になる~家庭壊れる。スペースものではなく、エイリアンとかに近いんだけど、ひとつの家族の中だけで起こる事件なので、なんとなく狭いまま終わってしまう。宇宙から来たものは「色」というより「光」だと感じられてしまう。人間が見たこともない色、新鮮な色彩、を演出するのは難しいと思う、人の目の可視領域は狭いから。

ニコラス・ケイジを応援したい気持ちでいっぱいだけど、やっぱりちょっとアレな映画だったな…。

アルパカ乳しぼってた!!

 

ジロ・ポンテコルヴォ 監督「アルジェの戦い」3149本目

昔のイタリア映画ばかり見てるけど深い理由はなく、U-NEXTの「9月末で終了する作品」だから。しかしこの映画の舞台は仏領アルジェリアの独立への戦いを描いたもので、言語はフランス語だけどフランス資本で作られることはない映画。この映画にイタリアが出資するってことは、隣国間の関係は推して知るべし。第二次大戦でも敵国ですもんね。

若い女性3人による爆弾テロの場面があります。着飾ってチャーミングな3人が、それぞれバーやカフェに素敵なバッグにしのばせた爆弾を置いて出てくると、それらが大きな被害をもたらします。この頃は自爆テロではないけど、その部分を除けば現在頻発している爆弾テロと変わりません。植民地を大きな顔でのし歩くフランス人と、虐げられる現地の人たち。ローマ帝国やナポレオンの時代も、もっと昔も、近隣諸国を侵略しては隷属させてきた人たちは、ヨーロッパだけじゃなくて互いに侵略しあってきた土地も多いけど、兵器の開発力、その背後にある財力や政治力で世界の覇権が決まりすぎてる気がするし、”どんな人だってまあまあ自由に、やりたいようにして生きていられる世界”が遠ざかっているように思います。

この映画は、今では考えられないかもしれないけど、欧米に属する国が主導して、欧米から見た異教徒である先住の人たちの立場に立って、彼らの姿を生き生きと描いた貴重な作品だと思いました。

アルジェの戦い(字幕版)

 

ピエル・パオロ・パゾリーニ 監督「奇跡の丘」3148本目

これもパゾリーニ監督。こっちを先に見たほうがよかったかな。1964年の作品で、まだモノクロ。

「アポロンの地獄」よりずっと入りやすい映画です、なぜなら主役がジーザスだから。ざっくりとしたストーリーはわかっているし、ベースが聖典だから、立体になってること自体が奇跡のように、字幕で見るテキストも素直に入ってきます。マリア役の女性、若くて清純で真摯でぴったりだなぁ。ジーザスは、眉がつながった細面で少しアジアが混じった感じの容貌。私たちは十字架にかけられた彼のイメージを強く持っているので、繊細な人だと思っているけど、この映画の中では森に潜むパルチザンの頭領みたいで、固い意志や強い闘志を感じさせます。これは監督独自の解釈なのかな。

どこかの国では左右の眉がつながった女の子は頑固すぎて苦労するから、小さい頃から眉間の毛を抜いてだんだん生えないようにするとか。この作品のジーザスは頑固さを強調するために、あえて眉間に描き足してるのかも。

この映画は面白かったな。知っているストーリーを、こういうキャストでこう表現するのか、という面で。イエスの他に二人の弟子も一緒に十字架にかかったんだっけ??と思って調べたら、他は別の罪を犯した人たちでした。

ドラマとして見ると実に悲壮で感動的です。”原作の良さ”、忠実な演出と自然なキャストがこの作品のポイントかなと思います。不倫と信仰の矛盾について昔インタビューされた女優が「神に頼らなければならないのが人間ではないでしょうか」と答えたように(変な例ですみません)、監督はこのあと神に違背するような作品にどんどん突っ走っていくけれど、そんな自分をどうにもできずに神のことを思い続けた人だったのかもな、と思いました。

奇跡の丘 (字幕版)

奇跡の丘 (字幕版)

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ピエル・パオロ・パゾリーニ 監督「アポロンの地獄」3147本目

この監督の作品は初めてかな。

ギリシャ神話のお話なのに、現代的なアパートの一室で始まり…母を演じてるのはアリダ・ヴァリでした。イタリア映画って重厚なものが多い気がする。イタリアに行くと街中の彫刻とか建物とかがびっくりするほど大きいのも、イタリア的な文化とか気質なのかな。音楽は、どう聞いても日本の横笛や太鼓の音だ。環太平洋あちこちの先住民が慣らしていた「ムックリ」の音も。、インドネシアの「ケチャ」も、ギリシャ(のはずだけどアルジェリアか何かのような)の町に流れていても違和感はない。(自分にとって聞きなれた音だからだろうな)。でもそれより、場面場面のつなぎ方がおそろしく不自然だな…。各場面は絵画みたいに独立して完成しているけど、すべてが説明的だ。文字によって創造されたものを広げるというより狭い範囲で立体化したような。脚本家から監督になったことが関係あるのかな、いや新藤兼人や濱口竜介の作品には最初から映像をイメージして書いていただろうとしか思えない広がりがあるし、詩人から監督になった園子温も立体世界の人だから、そこは説明にはならないな…。

パラジャーノフとかホドロフスキーにもそういう特徴があったように思うけど、映像に衝撃があるので、紙芝居のように納得して見ていた気がする。

主人公、彼を捨てに行った男、王の従者だった者、母、みんな苦悩にうちひしがれる。テーマが重いので彼らの深刻さも納得できたけど、もう少し滑らかに映画の世界に浸れたらよかったなぁ、なんて勝手なことを言って恐縮です。。。

セルジオ・レオーネ監督「ウエスタン」3146本目

原題はOnce upon a Time in the West。(完全版はこのタイトルで公開されたのね)なんか郷愁のあるタイトル。リアリティよりファンタジーに近い昔ばなしが始まります。だってチャールズ・ブロンソンがハモニカ拭きながら現れるんだよ。小林旭のギターはこういうのから来たのかな。ハモニカのほうが小さくて良い。

セルジオ・レオーネ監督がこの後に撮った「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」を思い出してみるにつけ、古き良き血なまぐさき時代を、かつて荒くれものだった老人たちが懐かしむファンタジーという共通点がありますよね。一貫している。

私は西部劇はだいたい苦手だけど、それは早打ちの決闘とか意味のなさそうな乱射が多くてあまりにも荒くれてるから(同じ理由でそういう作りのヤクザ映画も苦手)なので、この映画ののったりとしたムードは逆に大丈夫でした。マカロニウエスタンって、リアリティ薄めで、アメリカ西部の雰囲気を味わうものなのかな?やたら壮大で、あの頃の俺たち…みたいな懐かしげな思いが感じられる映画でした。

ウエスタン (字幕版)

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