映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョン・M・チュウ 監督「イン・ザ・ハイツ」3282本目

これも映画館に行きそびれてしまったやつ。寒波に襲われた日本列島で、こんなビーチの日陰で冷たい飲み物を飲んでる場面なんか見せられたら…

私はドミニカに行ったこともないし移民の知り合いもいないけど、日本でもアメリカでも移民の苦境について見たり聞いたりした印象が残っていて、この映画の最後では涙ぐんでしまいました。この話がフィクションでも、世界のあちこちにワシントン・ハイツのようなところがあって、泣いたり笑ったりしている移民の人々がいる。祖国も恋しいけど、生まれ育ったこの町がふるさと。。。

ウスナビもバネッサもニーナも素敵だけど、やっぱりアブエラが素敵。

かき氷「ピラグア」食べたい、ウスナビのコーヒー私も飲みたい…。

イン・ザ・ハイツ(字幕版)

イン・ザ・ハイツ(字幕版)

  • アンソニー・ラモス
Amazon

 

パオ・チョニン・ドルジ 監督「ブータン 山の教室」3281本目

17年ほど前にブータンに旅行したときのガイドの名前がウゲンさんだった。そのときに仲良くなった男の子たちの名前はカルマくんとドルジくんだったけど、一度連絡を絶ってしまうと、同じ名前の人が多すぎて、多分もう彼らとSNS上でつながることはできないんだろうなーと思う。

それはさておき。その後ブータンは国王が代替わりし、都会の若者たちは民族衣装を着ないで出歩くようになり、かなり変化があったらしい。といっても観光客が寺院をめぐって山道をバスで行くのはたぶん変わってないだろう。当時よりも都会と田舎のギャップが大きくなったんだろうな、都会の若者から見ると。ブータンはこんな映画が作られる国になり、都会っ子のウゲン君は観光客の自分に重なってくる。

彼が人口3人の村で泊めてもらった家で、ご飯をよそってもらうカラフルな竹かごは、今うちのテーブルの上でみかんを盛っているのと同じ。

見慣れたテーマの作品なんだけど、ペムザムちゃんのあまりに純真な笑顔に胸を打たれてしまう。こんな桃源郷を離れてシドニーなんて…と思う私は、じゃあ親の実家のある山奥の村に引っ越せと言われたらどうするのか。

17年前、ブータンの言葉ゾンカ語の教科書がまだないから授業は全部英語で、だからブータンの人たちは、赤ちゃん背負ってるお母さんも子供もみんな英語が上手に話せた。この映画だけでは、都市の学校での教育がどう変わったのかはわからなかったけど、もう行くことはないと思ってたブータンに、いつかまた行ってみたいなと思ってしまいました…。

ブータン 山の教室(字幕版)

ブータン 山の教室(字幕版)

  • シェラップ・ドルジ
Amazon

 

ジャック・ドゥミ監督「ロバと王女」3280本目

年を越えて「ひとりジャック・ドゥミ/アニエス・ヴァルダ特集」は続く。

この作品は「ジャック・ドゥミの少年期」で彼が作っていたロマンチックなアニメーションの実写化という感じ。内容はディズニーワールドです。ジャック・ドゥミって映画監督にならなかったら、実家の自動車工場を継ぎつつ、アニメーターになったと思う。シュヴァンクマイエルみたいに執念深くストップモーション・アニメを作り続けて、その道で不世出の巨匠みたいになったんじゃないだろうか。

デジタル・リマスター済の精細映像でカトリーヌ・ドヌーヴは妖精みたいに美しいし、ドレスの造形や彩色も素晴らしい。強いていえば夢みたいな舞台装置が、引きで撮るとちょっと寂しく感じられるので、もっと接近して(それこそジャコット少年の覗きカメラみたいに)撮ってくれたほうがドキドキしたかも?なんとなく私はそんな風にファンタジー感をもっともっと出してほしいと思ってしまうけど、フランスでは大ヒットしたらしい。少年時代や妻の思いを見てしまったので、なぜか身内みたいにドゥミ監督の成功をうれしく感じてしまうのでした。

「少年時代」で晩年の監督は、「以前は映画を監督したりしてたけど、今は絵を描いたりして過ごしてる」と言ってました。ときどきはさみこまれる、マットで色彩が印象的な絵は彼の作品なんだろうな。私のすごく好きなタイプの絵ばかりだったな…。

ロバと王女(字幕版)

ロバと王女(字幕版)

  • カトリーヌ・ドヌーヴ
Amazon

 

アニエス・ヴァルダ監督「ジャック・ドゥミの少年期」3279本目

ジャック・ドゥミといえば、「シェルブール」と「ロシュフォール」と「ローラ」ですよ。対するアニエス・ヴァルダは「5時から7時までのクレオ」。なんて美しい、日本の女子たちがみんな憧れる(※若干、極論)フレンチの世界を作ってきた人たち。

この映画は、エイズで余命いくばくもないとわかっている59歳のジャック・ドゥミが自伝的脚本を書き、少年時代のインスピレーションがどのように彼の名作を作り出していったかを妻があふれんばかりの愛情をもって描いた作品。彼にとっての現実を白黒、インスピレーションの瞬間をカラーで描きつつ、その後の名作映画の数秒ずつをはさみこんでいます。

このジャコット(ジャック・ドゥミのあだな)少年の世界が本当に素敵なんですよ。優しくてたおやかなお母さん、感動した人形劇、いっしょうけんめい自作したストップモーションアニメ映画、夏休みに出会った少女…。アニエスが夫自身と、彼の中に培われてきた世界全体をどれほど愛していつくしんできたか、ということが伝わってきて、その愛情の大きさに胸がいっぱいになります。

下世話に彼らの私生活をのぞき見したいわけではないけど、生前どちらからも語られなかった、彼がエイズにり患した経緯は、可能性としては、バイセクシュアリティかもしれないし、女性への関心や興味を持ち続けたからかもしれない。そんなこんな全部合わせて夫を受け入れてこの作品を作り上げたアニエス・ヴァルダはもう聖母なのだ。がんの告知を恐れて2時間街をさまよったクレオや、夫の不貞を知って身を投げたテレーゼは、若いころの不安を表現したものだったけど、晩年の彼女はここまでの境地に至っていたのです。私は生きているうちにどこまでいけるんだろう…なんてことまで考えてしまう作品なのでした。

 

 

メル・ギブソン監督「アポカリプト」3278本目

メル・ギブソンってなんとなく、暴力を志向する人のように感じられて(良きにつけ悪しきにつけ)苦手分野なのですが、どこかで推薦されてたので見てみます。

マヤ文明が栄えた地域を改めて確認してみると、ユカタン半島が中心だから、メキシコの東の端とグアテマラ、ベリーズだ。メキシコシティのテオティワカン遺跡はマヤではなくてテオティワカン文明の遺跡らしい。かなりk表痛点があると思うけど、同一ではなくて”ご近所”ってことか。それとも、マヤ文明は一つの統一国家ではなくて群雄割拠だったらしいから、その中の一つと取ることもできるんだろうか。

彼らは白い人たちが来る前から、部族どうしでこんなに争ってたんだろうか。ブードゥーや魔術が使われたり、予言する少女がいたりしたんだろうか。敬虔なカトリックだというメル・ギブソンは、この映画をどんなつもりで作ったんだろう。ダイナミックな争い、赤黒い肌の人々の美しさ、など映画としての出来はとても良いと思うけど…マッドマックス(から派生した作品)だよね?と言いたくなる力と力のぶつかり合いそのものを楽しむ作品だから。

これでもか、これでもか、と畳みかける。味方も敵も、ひとすじなわでは死なない。うーむ、マッドマックス。見終わったあとは焼肉大盛でも食べてエネルギー補充しなきゃ…。

アポカリプト(字幕版)

アポカリプト(字幕版)

  • ルディ・ヤングブラッド
Amazon

 

ジョニー・デップ監督「ザ・ブレイブ」3277本目

ジョニー・デップ(若い!)自身がメキシコ人の役だとは気づかなかった。解説を読むまでメキシコ人の中にいるアメリカ人っていう設定だと思い込んでた…。

マーロン・ブランドは薄汚れた老獪な男の役がはまってるけど、どうなんだろう。もっとひたすらお金に汚いだけの男でもよかった気もする。ネガティブな精神性を描こうとして彼の出番はすごく長くなってるけど、スカッと「金を出すから殺されてくれないか?」でもよかったんじゃないか。悪は凡庸なほうが最近はリアリティを感じるんだ…恐ろしいけどそれがリアルなのかも。全体的に、主役の心象風景を作ろうとしているけど、見ている人のスピード感とずれてきちゃってて、ちょっと冗長に感じてしまう。

ちょっと似たテーマでハビエル・バルデム主演の「ビューティフル」の方が痛々しくて胸に迫るものがあったような気がしました。

エドガー・ライト監督「ラスト・ナイト・イン・ソーホー」3276本目

<ネタバレあり>

そっか、「ベイビー・ドライバー」に続いて、クラシックなポップスの楽曲がそのままタイトルになってるんだな。

カウチ映画派の私でも、これは劇場で見たかったので、時間が作れてよかった。ビビり顏のヒロイン、エロイーズ(トーマシン・マッケンジー、ジョジョ・ラビットに出てたのか)に感情移入しすぎて映画館でずーっとビビりまくりながら見たので緊張したー。これこそが映画館で新作を見る醍醐味ですね。

エロイーズに相対するのは、「クイーンズ・ギャンビット」で愛嬌あふれるヒロインを演じたアーニャ・テイラー=ジョイ。似てないから別人格ってわかる設定の、チャーミングな二人。それぞれ本当にカワイイです。グランマ、下宿の家主、バーのオーナーもスウィンギン・ロンドンの女優たち。女子力高いよ監督。家主を演じたダイアナ・リグとバーのオーナーを演じたマーガレット・ノーランは撮影終了後に亡くなっているけど、二人とも癌の闘病中の出演だったみたい。人柄のいいボーイフレンド、最後までずっと彼女を見つめていてくれて、暖かい気持ちになれます。その辺も「ベイビー・ドライバー」に沿ってるのだ。

エドガー・ライトがこういうエンターテイメント性が高く、かつ高品質な映画を作り続けることは、イギリス映画界にとって重要だと思う。「ベイビー・ドライバー」で悪の一味の奴らが粛清されることについて、気の毒だと思う人はたぶんいなかっただろうと思う…映画だし。それと同じように、(少なくとも犯人から見て)粛清される必然性のあった悪=食い物にした男ども、という設定を受け入れて#MeTooの視点はあまり気にせずに、スウィンギン60sってことで見たいものです。(そうしないと、それだけで一晩中議論してしまいそう)

男たちの影は完全にフランシス・ベーコンの絵だったな。あと、テレンス・スタンプ翁のその後が心配でたまらない。「しばらく昏睡状態だったけど、エロイーズのファッションショーの後くらいに意識を回復した」くらいな感じでオチをつけてほしいところです。。

すごくスリリングでドキドキしながら見られて、主人公やまわりの人たちに共感できて、勧善懲悪すっきり感があり、美術や撮影技術が卓越している。という意味で一級のエンタメ映画といえるんじゃないかな、と思います。見に行ってよかった~~

たまたまだけど、太古の昔にカムデンマーケットで買ったセーターを久々に着ていったので気分出ました。