映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

レック・コワルスキー 監督「D.O.A.」3397本目

インパクトの強いポスタービジュアルに見覚えがあるけど、見るのは初めて。

ピストルズというムーブメントのことは、「シド&ナンシー」などでも見てるので(いやそもそも当時からけっこう好きだったし最近まで「The Best Punk Album」とか買って聴いてたじゃないかお前は)、説明ゼロでもふむふむと見ていられる。シド・ヴィシャス時代のピストルズのUSAでのライブ映像から始まるけど、ピストルズ脱退後グレン・マトロックが、新しく結成したリッチ・キッズで「プリティ・ヴェイカント(ピストルズの曲で一番好き)をやってる映像もある。リッチ・キッズのデビューシングル、赤いカラーレコード持ってたな私。

グレン・マトロックな・・・。のちにフェイセスに入るようなベーシストがピストルズに合う訳もなかったけど、楽曲のキャッチーさは彼なしでは実現しなかったんだろう。まだ若いジョニー・ロットンは、よくほえる若い犬みたいでどこか可愛い。彼は存在自体がパンクだったけど音楽の才能はなかった。ピストルズはマルコム・マクラレンがプロデュースした「コンセプト」、と今は思う。

この映画では、イギー・ポップの楽曲やライブがけっこう重要なパートを占めてるんだけど、それはこれがアメリカ映画だからじゃないかな。それにしてもイギー・ポップ良い。でもなぜ彼はほとんど映らないんだ?

今見ると、当時思ってたより明るくて元気にも思える。薬物さえやってなければ、まあまあ健康的な若者たちといえたかもしれない。陰湿ないじめより、なんだかわからないけど世の中にたてつくぜ!と叫んでるほうがマシ?

ディーン・パリソット 監督「ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!」3396本目

ああ、なんかいいなぁ、おバカで。

ビル=アレックス・ウィンターは能天気な感じで年を重ねてる一方、テッド=キアヌ・リーヴスは「…辛いことたくさんあったんだね」と言いたくなるような憂いも感じられます。でも、こういう映画を作ることで、おバカな楽しさを存分に味わって、この先二度とシリアスな世界に戻らなくてもいいよ、私は。(誰も私の意見など聞いていない)

「大冒険」とバカバカしさはいい勝負だけど、なまじCGが発達してる分、かえって安っぽく見える部分もある。でも、安さがマイナスにならないのがおバカ映画なのだ。

シリアスな部分や教訓めいた部分も感動の名場面もなく、斬新にはしらずひたすらハッピーな二人とそのファミリーを描く。2020年代とは到底思えないこの作風、私はアリだと思います…(ご飯食べながらダラダラ見てしまったけど)

 

ディーン・パリソット 監督「ビルとテッドの大冒険」3395本目

「ディアボロス」見たらこれが見たくなりました。

キアヌ・リーヴスっておバカ役をやってるときも好きだな。私の大好きなケヴィン・クラインも、イケメンなのにおまぬけな役が多い。若い頃の近藤正臣のきょとんとした顔も好きだったな…(割と系統が近い人たち)

この作品も、見終わったとき何も残らないし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の二番煎じみたいだけど、楽しい。連綿と作られ続けているアメリカのよい子向けのドラマみたいで。出てる人たちも見てる人たちも、のんきでハッピーなファミリーなんだろうなと想像して、なんとなく幸せな気分になれる。いいんじゃないですか、こういうのも。

さて、おっさんバージョンも見てみるか!

テイラー・ハックフォード 監督「ディアボロス 悪魔の扉」3394本目

キアヌ・リーヴスとアル・パチーノの対決。でも妻と二人の場面も多い。最初は童顔の可愛いお嬢ちゃんだと思ったけど、シャーリーズ・セロンじゃないですか!なかなか迫真の演技。

この頃のキアヌ・リーヴスの美しさ。ジョージ・クルーニーみたいな知性派で熱い二枚目とも違うけど、ヴィスコンティに入れ込まれそうな妖精っぽさは無くて、「ビルとテッド」の普通で元気な男の子がそのまま残ってるのが彼っぽさなんだろうな。マトリックス・リザレクションズでも時々少年の頃みたいな表情をしてました。

内容については、この映画って法廷ものサスペンスかと思ったら「ローズマリーの赤ちゃん」なのか「クリスマス・キャロル」なのか?いや、あれだ、えーと(思い出すのに時間がかかる)「アメリカン・サイコ」のようでもある。ほぼ現実っぽくストーリーが進むので、最後の最後にはぐらかされたような気がするけど、闇に落ちたままで終わらなくて良かったという安心感もあります。

見てる間はアル・パチーノの癖の強さも堪能してるんだけど、見終わってみると不思議と彼は印象に残らないですね。意外と面白かったような、だけど人に勧めるほどでもない、という微妙な映画でした。

 

ジョナサン・デイトン 監督「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」3393本目

タイトルは日本で報道されたときには「男女対抗試合」となってたようだ。これだといまどきの洋画として人気出なさそうだから、原題のままにしたんだな…。この試合のとき、私はもう生まれてるし、クリス・エバートあたりから記憶があるのに、ビリー・ジーン・キングのことは全然知らなかった。この映画で取り上げたボビー・リッグスの2試合のほかに、1992年にジミー・コナーズとマルチナ・ナブラチロワも対戦してたのも知らなかった!

監督は「リトル・ミス・サンシャイン」と「ルビー・スパークス」と同じと知ってちょっと安心。悲惨な結末ではなさそうだ…。

エマ・ストーンっていいですね。ちょっとファニー・フェイスで勢いがあって。彼女の夫ラリー(オースティン・ストウェル)はほんとに好青年だし、彼女が恋をする美容師マリリン(アンドレア・ライブズロー)はフェミニンで繊細。対戦相手ボビー・リッグス(スティーヴ・カレル)は軽妙だし、ライバルのマーガレットを演じてるのはジェシカ・マクナミーという女優だけど、マルチナ・ヒンギス(かつての大選手ね)が俳優に転向したのかと思った。私だけか。

実際にボビーが女子選手に戦いを挑んだ(アトラクション的に)ときの試合は「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」と呼ばれたそうだけど、この映画では異性愛と同性愛という意味での性別のコンフリクトもあるんだよな。ここはちょっと予想してませんでした。ビリー・ジーンが実際に同性愛者だったとしても、対戦前から周囲の人がみんな知っていたり、夫婦間でも動揺があったんだな。

彼女には「絶対勝つ」強い思いがあったし、女が男に負けるというあたまがなかった。その後闘い続けて、まだ今78歳だ。この試合を知らなかった私には十分面白かったけど、アメリカなら、家族のうち、じいちゃんばあちゃんだけでなく、とうちゃんかあちゃんも当時テレビを見たかもしれない。アメリカの一般大衆にショックはなかったから、興行収益が伸びなかったのかもなー、なんて思ってしまいました。

 

ハル・アシュビー監督「ザ・ローリングストーンズ レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」3392本目

NHKBSでやってたのを見た。1981年の作品ってことは、撮影したのは前年くらいか。映像を見た記憶はないけど、これと同じ構成のライブを録音したカセットテープをよく聴いてたので、細かいところまでよーく記憶してる。

この間見たRCサクセションの1983年のライブも、感傷にひたるどころか、あまりに元気で前向きで、自分の屈託のなかった子ども時代を明るく思い出してしまったんだけど、これも同様。1980年代(初頭)って明るかったんですよ、私の目には。だんだん豊かになっていく、だんだん明るくなっていく、だんだん大人になっていく。(自分がね)

今の自分とまるで違うな、そんなに苦労ばっかりしたっけ?と苦笑してしまう。

不滅のように思えたチャーリー・ワッツもとうとう鬼籍に入り、現役メンバーも80歳前後だ。でもバンドってやっぱり、一番元気で明るくて、不穏の影なんて何もない全盛期を見たいし、覚えていたいもんですね。これも円熟のバンドの全盛期の一つとして、久しぶりに見てみてなんかホッとしました。

大森一樹 監督「ベトナムの風に吹かれて」3391本目

早期退職~貧しいけど楽しい隠居生活…のつもりが、暇すぎて日本語教師の勉強を始めてしまって、今ちょうど教育実習中。お金を取る自信はないので、まずボランティアで教え始めることになったのが、ベトナムから来ている技能実習生の男性。この映画をたまたま見つけて、ベトナムの日本語教師が主役の映画だというので、飛びついて見てみました。

体力も認知能力もカンペキではない高齢の母をいきなり連れてハノイ…かなり無謀だし危なっかしくてハラハラ。でも、囲い込んでまゆの中で大事に守ることだけが愛ではないのかも。若いころから自由気ままなところがあるお母さんだから、連れていけたのかもしれません。松坂慶子のおっとりしたマイペースな感じもぴったりです。

戦争にも日本人父たちにも、日本の技能実習生を受け入れている人たちにも、「どーなのよ?」って言いたくなる場面があるけど、義憤みたいな気持ちでボランティアをするのも、おこがましい。自分だって日本人だし日々お世話になってる。日本に来てくれていることに感謝して、仲良くなりたいっていうワクワク感を持ち続けたい。楽しいと思えなくなったらやめる。

彼らのことや日本語教師のことを知りたくて見たけど、身が引き締まるというか、がんばらなきゃ!という気持ちになりますね…。