映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ランディ・ムーア監督「エスケイプ・フロム・トゥモロー」3518本目

よくD社が差し止めないなぁ。弁護士費用もかけたくないのか・・・。どういう論点になるのか見てみたかったな。

映画の学校の卒業制作みたいなクオリティ。それに「黒いファミリー向けテーマパーク」なら、ティム・バートンとかの高品質な作品がたくさんあるし。第一、ハロウィンのときはディズニーランドだって黒い感じになるんじゃないか・・・と考えていたら、思い出した。私が仲間たちとフロリダのディズニーワールドに到着したのが、10月31日の夜で、ちょうどハロウィンの飾りつけの撤収をしてたんだった。あのとき見た光景は悪夢の終わりみたいで不思議な気持ちだったけど、そう考えるにつけ、この映画にはあまり新しいところがないような。

サムネイルを見ると、テーマパークの裏方とか不合格になったキャストとかを取り上げたHBOドキュメンタリーみたいな感じ。そっちの方が見たかったかな・・・。

 

ジル・シュプレッヒャー 監督「パーフェクト・プラン」3517本目

犯罪ものの映画みたいだけど、悪のわらしべ長者?みたいに、お金の一部を預かったり渡したり、バーでつい女にひっかかったあとで同僚に見られてしまったり・・・。悪の連鎖がどんどん高まっていく感じ、「ラルジャン」みたいで怖いですね。

主人公が、強欲だけどどこの会社にでもいるような営業マンで、なまじ頭が切れるから自分が全容をコントロールしていると考えているところが、また危険。

わりとどきどきしながら楽しんだけど、最後の最後の種明かしのところが、「コンフィデンスマンJPシリーズ」と同じで、あれはもしかしてこの作品をベースにしたんだろうかと思ったり。(どんでん返しに次ぐどんでん返しは、この映画にはないけど)

アラン・パーカー監督「アンジェラの灰」3516本目

タイトルとビジュアルだけ見て、アンジェラという人が戦禍で灰になって残された小さい子供がカメラを睨んでる辛い映画かと思ったら、死んだのはアンジェラの子どもたちだった。

アラン・パーカーって「小さな恋のメロディ」~「フェーム」~「ザ・コミットメンツ」の監督か!ロバート・カーライルとエミリー・ワトソンも出てる。しかし原作があって、実際にニューヨークへ渡って作家になったフランクの自伝小説だった。かなり過酷な、胸が痛くなるような生い立ちだけど、彼は相当な楽天家で、実にしぶとく(汚くはない)お金を貯めてアメリカを目指します。

ロバート・カーライル、1995年から「マクベス巡査」、1996年「トレインスポッティング」のベグビー、これはその数年後の1999年。彼は生真面目な青年も自堕落な青年も同じくらいリアルに演じるんだ。この映画ではその両方が共存していてやっぱり生きてる。エミリー・ワトソンは夫に従属して自分からは何もできない女だけど、置かれた場所で最大限にしぶとく生きていく。

「ベルファスト」を先に見た人はみんなあの映画を思い出すだろうな。ノスタルジックでケネス・ブラナー的に美しい町。アイルランド島の、北アイルランドとそれ以外の地域、たとえばこのリムリックがいかに違うか(父はベルファスト出身ということで差別されて仕事に就けないと示唆されてたような)、全然知らなかったな。美化されていないアイルランドで、ちゃんと真っすぐな心を持って育ち、たくましく生き抜いた青年。何よりまず、彼みたいに強くありたいなと思います。

なんか・・・大人になっていろんな国に行ったり、いろんな仕事や境遇の人たちと話をするようになったり、世界中のさまざまな映画を見たりしても、人間って同じだなって思う。家族や愛する人に執着することや(いい意味でも悪い意味でも)、外のものを差別したりいじめたりすることも。今いるところが嫌だから引っ越しても外国に行っても、何も変わらないのかもな。しぶとく生きるためには、今いるところで生き抜く力が必要なのだ。どこかのタイミングで大陸へ渡るにしても。

うん、「ベルファスト」よりずっとこの映画、好きです。

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アンヌ・フォンティーヌ 監督「美しい絵の崩壊」3515本目

<結末にふれています>

私の大好きなナオミ・ワッツと「コングレス未来学会議」のロビン・ライトか。監督は女性。彼女がオドレィ・トトゥで撮ったココ・シャネルの映画はピンとこなかったけど、この作品はどうだろう。

ナオミ・ワッツ演じるリルとロビン・ライト演じるロズ、同じブロンドながらタイプが違って確かに今も魅力的だと思う。目尻に小ジワがあっても、どこか可愛い。外の世界から隔離されたような美しい浜辺で4人で暮らしてれば、そんなこともあるかもしれない。バブルの頃に日本でも不倫の小説を書いてる女性の作家が何人かいた記憶がある。よくこんな小さな島国で、そんな目立つことを・・・と心配になる私も島国根性なのかな。

リルとロビンが、「私たち何をやってるのかしら」と戸惑いつつ、今までにないくらい幸せ、と微笑むっていう設定は女性にしか共感できないかも。若くて美しい青年たちが、妻と子どもより母たちを選ぶことも。誰かに激しく愛されることの幸せを追求したオバちゃんの夢の映画なのかな。ナオミ・ワッツに感情移入しながら見る分には幸せだけど、これをおじさんたちが見たら反感持つだろうな、と考えてしまう自分もいます。

一番気の毒なのは、若い妻たちと子どもたちだよなぁ・・・。

 

ジャン=リュック・ゴダール監督「カルメンという名の女」3514本目

この作品は、ゴダール本人がイメージ通りの気難しいおっさんとして入院しているのが、メタ的だけどリアルに感じられて、ちょっと見やすい映画かなと思ったんだけど、撃沈。クラシック音楽が大きく鳴り続けていて、きれいな女の子と男の絡み方が全然理解できず、理解できるかもと思ったりしない方が見やすかったのかもしれないと思いました。やっぱり無理だわ、ゴダール・・・残念・・・。

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アレクサンドル・ソクーロフ 監督「エルミタージュ幻想」3513本目

2002年の作品。エルミタージュって、写実的な名画を集めたクラシックな美術館なんだな。ソビエトになる前の貴族趣味の東ヨーロッパ。私は世界史をちゃんと勉強したことがないし、美術史もあまり知らない。比較的新しい美術作品を見るほうが楽しいほうなので、この映画はとてもハードルが高いです。

画面の暗さ、登場人物のクラシックさ、このテンポも苦手です。「幻想」なのでこれが自然なのかな。おじさんがブツブツ話し続けるストーリー性も、なかなかキツイと思うんだけど、みなさんすごく評価が高いのは、やっぱり映像美に注目したのでしょうか。

96分1カットという離れ業。・・・そういえば最近「怒りのキューバ」をYouTubeのモスフィルム公式チャンネルで見て、1カットの映像に驚愕したっけ。この映画のクレジットにはモスフィルムがないけど(主役のおじさんが「私は舞踏会に残る」と言うセリフとか、革命前のロシアを肯定してる空気あるしな)、ロシアの映画人には1カットコンプレックスでもあるんだろかね・・。

登場人物のなかでは、小さい女の子たちは天使だし、若い少女たちは妖精としかいえないくらい美しくて見とれてしまうし、大舞踏会はバブルかと思うくらい絢爛豪華でまぶしい。明るい室内で人々が生活している場面はどれも見てるだけで楽しいです。舞踏会といえばNHKの歴史ドラマ「坂の上の雲」(2009~2011年放送)の舞踏会も絢爛豪華でした。きっとこの映画がベースになってるんだろうな。

(音楽が終わるとみんな「ブラボー!」って言うのだ。気になって語源を調べたら古代ギリシャ語由来のラテン語が語源のイタリア語、らしい。ポルトガル語やスペイン語では違う意味に使われることもあるけど、実演に対してブラボーというのはイタリア語と考えられているようだ)

ふと、革命前の文化への共感が強いこの監督が今無事に暮らしてるのか急に心配になって英語のWikipediaを見たら、真っ向から大統領にウクライナ攻撃は間違っていると言って、2022年6月にロシア国外に出ることを禁じられたとありました。20年も前に作られた1本の映画を見ても、ひとりの映画人の長年のポリシーや大国の変遷が見えてくる壮大な体験になるな・・・。

 

ベンジャミン・リー監督「画家と泥棒」3512本目<KINENOTE未収録>

<内容に触れています>

U-NEXTでもAmazonプライムでも字幕付きで公開中だけどKINENOTEには情報がない。これは紛れもなく”映画”だけど、日本で劇場公開かビデオスルーされないものは載らないんだよな~。VODも混ぜてやってください是非。

ギャラリーで展示中の絵を盗まれた画家が、盗んだ泥棒に会って彼の絵を描くというドキュメンタリー作品で、多くの人たちが絶賛している・・・という事前情報ありで見てみました。

この作品はノルウェーでの制作。画家バルボラ・キルシコワはチェコ人だけどノルウェーのオスロで活動している。彼女がカメラに向かって、あるいは泥棒本人カール=ベルティル・ノルドランドと話すときの言語は英語。それは彼女自身が外国人だから。

とてもテンポよく、どんどん展開するので夢中になって見入ってしまいます。バルボラの、いつも目をきらきらさせて事件にも犯人にも好奇心まんまんな様子に、驚きつつ、なんだか気分が盛り上がります。彼女のたぐいまれなパワーによってなにか美しいものが作られていくんだろうか。

でも暗転します。泥棒カールは連絡を絶ち、また盗みをはたらき、逃走時に事故を起こして重傷を負い、画家はそこで立ち止まらざるを得なくなります。

カールが語る自分の今までのこと、画家について思うこと。ここから映画はさらに強烈に面白くなります。太陽のように見えていたバルボラの描く素材は、実は骸骨や死だ。彼女の絵は”重すぎて部屋に飾れない”とカールは言う(「美しかったから」と盗んでおいてだ)。彼は刑務所のなかで何度もバルボラに留守番電話を残す。彼女が世界と彼をつなぐ細い”蜘蛛の糸”のよう。でも出所したカールはふっくらとして幸せそう。新しい真面目な彼女ができていた。一方のバルボラは、カールに「見るからにひどい状態だ」と言われてしまう。浮くものあれば沈むものあり。

そして、バルボラが描いていた絵は・・・。

人間はなんて複雑なんだろうね。私や周囲の人たちを含めて、薄っぺらい、平べったい人なんていなくて、みんな底知れない経験をしてどんな作家にも書けない深い人間性を持ってるのかも、と思えてくる。

事実って、なんて一筋縄でいかないんだろう。誰も何もヒントを与えてくれない。唯一の答えは存在しない。自分の心を揺さぶったものを言葉にできない。う~~む。こんな二人に出会えたらドキュメンタリー作家は震えるだろうな。すごいものを見せてもらいました。

画家と泥棒(字幕版)

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