映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョー・ダンテ監督「マチネー 土曜の午後はキッスで始まる」3535本目

冒頭にオーソンウェルズふうに登場するジョン・グッドマン。映画館の子どもたちが彼が紹介する恐怖映画の予告編に戦慄する・・・。さっき見た「ラスト・アクション・ヒーロー」の続きみたいだ。この劇中映画「MANT!」(アリ人間)が「ザ・フライ」ばりの、この時代のSFっぽくてすごくいいのです。DVD借りたら特典映像としてこの「MANT」だけ通しで見られてすごく満足感ありました。

本編のほうは、そんな映画ばかり撮っている監督と、そんな映画ばかり見ている少年や「MANT」の上映館の人々のものがたりで、終始にぎやかで楽しく、ずっと何か事件が起こっては大騒ぎしてる映画でした。いい時代だなーってしみじみできる明るさがあるけど、終わってみるとあっさりしてる気もする。

一方、私は映画館に通ってた時期がとても短くて、小さい頃からこんな風に映画館の友だちだったわけじゃないので、懐かしいんじゃなくて憧れるような気持ちだな。だって映画高いんだもん・・・こんなに昔の映画が見られるようになったのは、大人になってお金をかせげるようになったのと、DVDやVODのおかげというしかない。今更だけどお礼申し上げます。最近は、どんな映画でも見られて当たり前くらいな気持ちになってた。業界のあらゆるチャンネルにいる方々に感謝だわ・・・。

 

秋原正俊 監督「春の居場所」3534本目

なんでレンタルしたか思い出せない。堀北真希に関心を持ったことがあったっけ。

この作品は59分という小品で、この監督はかなりの数の作品を監督しているのに、不思議と私は今までに1本も見てない。

原作は、昭和から平成にかけて話題になった鷺沢萠のもの。ロングのソバージュの華やかで若い作家に、憧れたりうらやんだりした記憶があります。行き急いでいる、と本人がエッセイか何かに書いていて、実際35歳で亡くなってしまった。それでもどこか、若くして注目を浴びて愛されてフッと消えてしまった生き様がかっこよすぎて、羨望を感じた自分がセコい凡人だと思い知らされた記憶も。

DVDに出演者インタビューが収録されてて、堀北真希の透明な美しさがまぶしいです。

 

ジョン・マクティアナン 監督「シュワルツェネッガー ラスト・アクション・ヒーロー」3533本目

シュワルツェネッガーが映画の中の世界を生きる本物のアクション・ヒーローで、大ファンの少年が魔法のチケットで映画館から映画の中へと転生?するというアクション・コメディ。1993年がどういう時代だったか簡単には言えないけど、これからどんどん良くなっていきそうな明るさがこの映画にはあります。

<以下ネタバレあり>

少年がF・マーリー・エイブラハムを見て「モーツァルトを殺した人だ!」っていうのとか、魔法のチケットを奪った悪人が現実世界の映画館で「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」の中からゾンビを連れだしたり・・・。(1993年のゾンビ像は咬みついて伝染させるんじゃなくて普通の殺し屋みたいですね)「カイロの紫のバラ」アクション版なんだけど、比較的マニアックじゃない小ネタをたくさん仕込んであって楽しい。ジュブナイル映画らしい、冒険の果ての結末も爽快。楽しかった~。

(第七の封印の死神が出てきてスッと立ち去る場面まで、マニアックじゃないとは言わないけど)

 

ブライアン・デ・パルマ監督「ファントム・オブ・パラダイス」3532本目

またレンタルしてしまった。なんでこんなに好きなんだろう、この映画。

でも冒頭のリーゼントの「ジューシィ・フルーツ」の曲も、ウィンスロー(痛い目に遭う前の)がピアノを弾いてひとりで歌う曲も、あまり覚えてなかった。おかげで今回も「いい曲じゃん」と思って聞けました(記憶力・・・)。

改めて見ると、ウィンスローが着てるTシャツのイラストが変だし、彼が曲を持ち込むレコード会社の名前は「デス・レコード」でロゴが死んだ小鳥の絵。(※後述のYouTube映像で元はSwan/Swan songレコードの予定だったとエドガー・ライトが語っています)ウィンスローの見た目はボブ・ウェルチだしジェシカ・ハーパーの名前は不死鳥フェニックスだけど見た目は「あんみつ姫」、と私は前回書いている。こんなにキャッチーな世界があるか。

サーフィン・ソングのときは黒髪リーゼントが全員金髪になってて、ビーチ・ボーイズ「っぽい」という以上にパクっている。そしてスワンはやっぱり、若い頃のヨーダというかAKIRAの登場人物かと思わせる、妖怪感があるんだよな。

ビーフと言う名のグラム・ロッカーは、当時のミュージシャンよりも、「ベルベット・ゴールドマイン」のユアン・マグレガーに似てる。次のステージはカリガリ博士の舞台でハロウィンめいたメイクで現れる。「聖飢魔Ⅱ」だ・・・。

最後の舞台では、たくさん試写だか怪我人だかが出ているのに、誰も気にしないで楽しく踊り狂ってるのも変だ。

多分、そういうことがいちいち個人的にツボに入ってるんだと思う。ビッグ・リボウスキあたりにファンダムがあるならこの映画にもあるはずだ。私は参加する資格がある。と思ってググったらFacebookに「Phantompalooza」というファングループがあって、「ジューシィフルーツ」ボーカルを演じた人を招いて上映会とかやってるらしい。(ファンのことをphanと綴ってる)公開当初アメリカではすぐ終わったのにカナダでは4か月のロングラン、サウンドトラックは(なぜかウィニペグでバカ売れしたおかげで)ゴールドディスクにまでなったとのこと。エドガー・ライトがこの映画への愛を語るYouTubeクリップも紹介されてる。ウィニペグ住みたい・・・

エンドロールの最後まで、子供の頃に大好きだったアニメのエンドロールを見てるような気分で(やたらアップテンポな曲が流れてるからか)、やっぱり隅々まで好きなのでした。

これ・・・ハロウィンに見るべきだな絶対。(なんとなく)

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フランコ・ゼフィレッリ監督「ムッソリーニとお茶を」3531本目

前情報ゼロで見始める。マギー・スミス、ジュディ・デンチ、ジョーン・プロウライト(「クレアモントホテルに泊まってた)と見ると「ハワーズ・エンド」みたいないにしえの英国文化を称える映画かと思うけど、タイトルがムッソリーニだ。そして戦争の足音が聞こえてきている。ジュディ・デンチが、もうおばちゃんなんだけど、ジャニス・ジョプリンのようにざんばらな長髪の自由人の役。

最初は、英国夫人ジョーン・プロウライトとルカ君の物語かと思うんだけど、シェールが登場すると何もかもが一変します。アルメニア系の彼女だけど、ユダヤ人大富豪の役をやっても、なんというか、本物のユダヤ人より彼女のほうがさらにユダヤ人に見えてくるというか・・・いろんな意味で豊穣というか過剰な人だなぁ。

英国郊外の庭園のような暮らしが、ある日一変する。困窮するシェールもまた真摯で胸を打つのだ。きっと彼女は、一文無しになって橋の下で暮らすようになっても誇り高く美しいんだろうな。

彼女の登場する場面って意外と多くなくて、一人で発った後も英国婦人たちはわちゃわちゃとにぎやかに暮らしている。でも彼女の不在はかえって彼女を思い出させる。なかなか予想外に胸に来る作品でしたよ。

ゼフィレッリ監督といえば、オリヴィア・ハッセーの「ロミオとジュリエット」の他に、わりと最近「ブラザー・サン シスター・ムーン」も見たな。なかなかグッとくる情緒のある作品を作ると思うけど、ヴィスコンティの助手をしていたにしてはイタリアっぽさ(何?たとえばダリオ・アルジェントみたいな?)よりも正しすぎる英国文化を感じさせるのは、この作品が自伝的であるという生い立ちによるものなのかな。

 

今村昌平監督「西銀座駅前」3530本目

これダブルDVDだったんだな。「盗まれた欲情」を借りたら付いてきた。今村昌平監督2作目。

タイトルが「西銀座駅前」でフランク永井なので、せいぜい山手線の中くらいで話が収まるくらいのつもりで見ていたら、謎の南洋の島は出てくるし、ちょっとしたボートに乗ってたはずが遭難して洞窟にいるし・・・まるでバカ売れした後の「男はつらいよ」冒頭部分のような飛躍。といっても南洋戦線の苦難を経験してきた元少年兵がサラリーマンになって銀座に繰り出してる時代で、彼らにとって南洋のトラウマ(または甘い思い出)も西銀座も、どちらもリアルだったのかもしれない。

ここでもまた、恋愛はすれ違って横恋慕で諦めて、ストレスや葛藤は蓄積されていきます。このあと公開された「果しなき欲望」では欲望の高まり、爆発、死、まで行くけど、この映画まではまだ家族でギリギリ見に行けそうですよね・・・。

西銀座駅前

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今村昌平監督「盗まれた欲情」3529本目

今村昌平の監督デビュー作らしい。でも、タイトルと裏腹な、森繁でも出てきそうな抒情的な人間ドラマです。どこが今村昌平なんだろう?師匠が川島雄三だったとWikipediaに書いてあるので、最初は師匠の世界に近いものを作り始めたのかな。4作目の「豚と軍艦」はドラマチックな今村的世界だったような記憶があるので、徐々に作り上げられていったものなのかな。

・・・と思ってたら、だんだんバイオレントになってきた。血が流れるわけじゃないけど、惚れた男にのしかかる女、オーディションと称して女を連れ込んで犯す男、キャットファイト的な女同士のつかみあい、といった激しく、かつ下衆な場面が続出。

叶う愛と叶わない愛。もっと後の今村監督作品では、その葛藤が犯罪となって現れるけど、ここではまだ長門裕之の切なげな表情だけです。

しかし、エンタメ意識強いですよね。冒頭のマイルドな”ストリップショー”の楽しさ、大勢で群れる男たちの勢い、などなど。この後、この新人監督はどういうものを作るのか・・・もっと壊れて破壊的なものを作るのか、高みを目指していくのか。私たちは答を知ってるけど、1958年の映画館にいる気持ちで見ていると、ワクワクしてきますね。

盗まれた欲情