映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フランコ・ゼフィレッリ監督「ムッソリーニとお茶を」3531本目

前情報ゼロで見始める。マギー・スミス、ジュディ・デンチ、ジョーン・プロウライト(「クレアモントホテルに泊まってた)と見ると「ハワーズ・エンド」みたいないにしえの英国文化を称える映画かと思うけど、タイトルがムッソリーニだ。そして戦争の足音が聞こえてきている。ジュディ・デンチが、もうおばちゃんなんだけど、ジャニス・ジョプリンのようにざんばらな長髪の自由人の役。

最初は、英国夫人ジョーン・プロウライトとルカ君の物語かと思うんだけど、シェールが登場すると何もかもが一変します。アルメニア系の彼女だけど、ユダヤ人大富豪の役をやっても、なんというか、本物のユダヤ人より彼女のほうがさらにユダヤ人に見えてくるというか・・・いろんな意味で豊穣というか過剰な人だなぁ。

英国郊外の庭園のような暮らしが、ある日一変する。困窮するシェールもまた真摯で胸を打つのだ。きっと彼女は、一文無しになって橋の下で暮らすようになっても誇り高く美しいんだろうな。

彼女の登場する場面って意外と多くなくて、一人で発った後も英国婦人たちはわちゃわちゃとにぎやかに暮らしている。でも彼女の不在はかえって彼女を思い出させる。なかなか予想外に胸に来る作品でしたよ。

ゼフィレッリ監督といえば、オリヴィア・ハッセーの「ロミオとジュリエット」の他に、わりと最近「ブラザー・サン シスター・ムーン」も見たな。なかなかグッとくる情緒のある作品を作ると思うけど、ヴィスコンティの助手をしていたにしてはイタリアっぽさ(何?たとえばダリオ・アルジェントみたいな?)よりも正しすぎる英国文化を感じさせるのは、この作品が自伝的であるという生い立ちによるものなのかな。