映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

西川美和監督「ディア・ドクター」191本目

2009年作品。

まったく何の事前の知識もなしに見ました。
笑福亭鶴瓶演じる伊野医師の失踪前と失踪後の時系列がときどき入れ替わるのが、死ぬほどわかりづらかったです。私がノータリンだからかもしれないけど、失踪前と失踪後の場面の空気があまり違わなくて、キャプションなしでしっかり伝わるほど区別をつけてくれてない。観る者のレベルを高く想定してくれてるのかもしれないけど、こういうところはかなりはっきりしてほしいなぁと私は思います。黒いスーツを着た刑事が村にいるという異常さ、緊張感、いるべき伊野先生の不在、とかを際立たせてくれたほうが、映画としてびしっと立つような気がします。

ということがあって、結局3回通して見ました。テーマは面白いと思うし、脚本もいいし、演技も自然だけど、ほんの少しだけ、演技の濃さが足りない気もします。この監督さんは、“医者を演じた寅さん”のような映画を撮りたかったのかな?家族で見て楽しめるような。もしそうでなかったんだとしたら、鶴瓶の毒の部分をあとコンマ1ミリグラムくらい、引き出してほしかったです。

ラストの、懐かしい人を見つけたような表情で、八千草薫演じるかづ子がほほ笑む場面。ここで「懐かしい顔」を映さない演出って誰のためだろう?「私は答えを言いませんでしたよ」という制作側の説明のためのような気がします。

他のレビューを見ると流されて点を高くつけたりしてしまう弱虫なのですが、この映画に関してはちょっと納得できないなぁという気持ちです。同じ監督の別の作品も見てみたいと思います。以上。