映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイ・マル監督「死刑台のエレベーター」383本目

画面いっぱいに女性の顔が映って、ジュテーム、で始まります。
イングマール・ベルイマンの映画にこういうのあった気がするな、と思ってたら、大写しはそこくらいで、その後はバランスの良い画面構成が続きます。

考えてみれば、テレビの画面サイズはたとえば14から24、32、などと大きくなってきたので、昔の番組は字幕が大きすぎたりするけど、映画のスクリーンは昔から大きかったので、昔だから人物が大写しということはないはずですね。

マイルス・デイヴィス、しびれますね。緊張感のある、言葉にならない感覚を音で放出する感じのジャズの魅力が、非常に画面にマッチしています。

ジャンヌ・モローは美人なのかもしれないけど、私には「怖い顔の人」っていうイメージが強いです…。一方モーリス・ロネはいい男ですね…。新聞に載った写真がスターのブロマイドみたいです。「元将校」っていうのは、どういう性格付けなんだろうな。こういう端正な男がパニックに追い込まれるから、スリリングで魅力的な画面になるんだな。ジャンヌ・モローの粘っこい気の強さも、見るものの緊張感を高めていきます。

どんでん返しが何度もあって、ストーリー自体も面白いんだけど、それよりもチェスのコマを配置するみたいにクールに人物造形が行われているし、フランスの雑誌のグラビアみたいに画面構成も完璧。お手本のような映画ですね。
マイルス・デイヴィスを使うと決めた時点で、そのセンスがもう勝ったも同然。
25歳のデビュー作でこれが作れるなんて。取捨選択の潔さとか、映画監督に必要な”神の視点”をもう持っているように思えて、すごいなぁと思います。

この監督の作品、まだほとんど見てないので、見なければ。