映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

吉田大八監督「桐島、部活やめるってよ」430本目

朝起きて顔洗ってパン食べてバス乗って学校行って…というような、日常のもったりとした時間の流れが、最初違和感あって、よくわからないまま終わってしまいました。

美人のA子さんはスター選手B男くんとつきあってて、友達のC子さんはD男くんとつきあってるけど、吹奏楽部のE子さんは実はD男くんをいつもじっと見ている。F子さんは三枚目キャラのG男くんとつきあってるのをみんなに隠してる。A子とC子とF子とH子は仲良し4人グループだけど、部活に命かけてるH子は、帰宅部のオシャレなA子やC子は自分たちと違うとつねづね思っている。薄皮一枚かぶっただけの、そういうあやうい人間関係が、コアな人物桐島が軌道を外れつつあることをきっかけに、表面化していく。

“なんかすごい奴”としてみんなの上に君臨していた桐島が消えて、彼の麗しい彼女は放っておかれて輝きを失い、ちびでオタクでカッコ悪い映画部の奴らはどんなときもバカみたいにがんばっていた。

そんなの普通じゃん、大人になったらもっと最初から薄皮なしだよ、スターなんて一瞬のもんだよどんどん入れ替わるのが普通だよ、10年後に同窓会したらヒエラルキーは多分変わってるよetc…と思ってしまう私は、あんまり人間に興味がないって言われちゃうのかな。
そこを認めたうえで考えても、やっぱり「so what?」って気持ちになる映画だなぁ。
それはもしかしたら、カメラの視点がとっても遠いからかも?登場人物の誰に対しても、深く入っていかない。台詞をいうときに視線が泳ぐ人が多い。なんだろう、この温度の低さは。

そうか。

生まれて初めてのキスは、当時の自分にしてみれば、3人目の恋人とのキスとは全然ちがってたはずだ。
まだものごころついてないんだ、子どもたちは。何でもできる人気者だけがカッコ良くて、ダサイオタクは無視、という価値観の中にずぶずぶに浸かって生きてるんだ。カッコいいことはカッコ悪いんだ(by早川義夫)という真実に初めて気づくための、子どもの人たちのための映画なんだな。それと、初めて気づいたときの自分を思い出す大人のための映画なんだな。

わからないでもないし、自分にもそういう部分はあるけど、私はむかしから誰かを崇拝してるような奴にはイジワル言いたくなったりしてたので、この集団の中にいたとしても間違いなく”かき回す方”だろうな。そういう意味では、ちょっと私とは目指す方向が違う感じの映画なんだなということがわかりました。