映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スパイク・ジョーンズ監督「her 世界でひとつの彼女」810本目

とても面白かったし、意外な成り行きに目を逸らせなかったし、結末にもしんみりとした。
ありきたりのSFのようなテーマかと思ったら…というか、そういう先入観をもって見た人のほうが強い印象を受けたんじゃないだろうか?

ホアキン・フェニックスってこんなに大人、っていうかおじさんになったのね。
骨太なんだけどどこか打たれ弱くて、なんとなくどっかダメな感じ、そういうリアルな人間像をすごくよく演じました。(なんでいつもオレンジ色着てるんだろう。いやOS1の画面の色に合わせてるのかもしれないけど、なんであれはオレンジなんだろう)
そしてスカーレット・ヨハンソンのセクシーハスキーボイス、素晴らしいですね。これは惚れる。841人が惚れるね。
セオドアの元カノ、キャサリンを演じたルーニー・マーラも、いい距離感です。

テクノロジーの進化の描きかたも、ああこうなるだろうな、という、感じ。つまり、あくまでも人間は変わらなくて、手間はうまく省く。というところを見せておいてからサマンサが現れるので、(じつはそこにはかなり技術の飛躍があるけど)すっと入っていけます。

テクノロジーなんて、コンピューターなんて、ダメなんだ!という、いちばんつまらない結論に陥ることなく、OSたちがさらっと反逆することでオチをつけたところが、とても良いと思います。サマンサに振られたセオドアと、夫と別れたキャサリン(彼女も友達のOSに去られたのだけど)が、まったく同列にしんみりして、共感しあう。

ポスターにあるような、ホアキン・フェニックスの顔の大写しの、グリーンの澄んだ瞳。彼の瞳を通して見た世界はちょっと切なくて、ときどき素敵なことが起こる世界でした。