映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リチャード・プレス監督「ビル・カニンガム&ニューヨーク」3264本目

ニューヨーク・タイムズのために何十年もストリート・スナップを撮り続けてきた、ファッション写真家ビル・カニンガム。

ファッションはオリジナリティが重要で、自分はハイ・ファッションのショーを撮るのでなく、あくまでもストリートで自分がいいと思った人の写真を撮り続ける…という彼の姿勢は、LGBTや移民を取り込んで増殖し、ダイバーシティを増しながら栄えるニューヨークのイメージと重なってる。でも、けど、国から招集がかかったら従軍するのは当然だという談話や、日本のデザイナーを語るときの苦々しい表情が、「むむ?」となる。一生独身だけどゲイではないと語り、宗教は自分にとっては安心が得られる大事なものだと、数分間の沈黙のあとに答える。彼が従軍したのは、時期から考えると朝鮮戦争か。複雑な人なんだよな。というか安易な好人物というパブリック・イメージをゆるさない。

そこをスルーしてストリートを楽しめばいい映画だけど、いまの私は人間の複雑さ、多面性に興味がある。このチャーミングで素敵で頑固なおじいさんが、ずっとカーネギーホールに住み続けてもいい、ずっとスナップだけ撮り続けてもいいし、日本のデザイナーを忌々しく思ったり、自国のために外国兵を攻撃してもいい。いいし、もしかして私がいつかニューヨークに住んだら、一生懸命おしゃれするから一度写真を撮ってくれたらいいなとも思う。そういう風に多様性をそのまま飲みこんでみたい。

というのが今日の私の感想なのでした。