映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイケル・マン監督「ヒート」2714本目

1995年の作品。ナタリー・ポートマンはまだ「レオン」の頃から間もない少女で、アル・パチーノの妻の連れ子。アル・パチーノはまだ不潔っぽいおっさんになっていなくて、ゴッドファーザーパート3くらいのときの感じ(「セント・オブ・ウーマン」より新しいのは意外)。ロバート・デニーロも、おっさんにはなったけど、まだまだ好々爺の役はできない鋭さ。

やたらと銃撃音のボリュームが大きい映画だ。しかもフィル・スペクターの楽曲みたいにすごいエコーがかかってる。それ以外は音声レベル低めなので、毎回ドキッとします。すごく評価が高いけど、アル・パチーノにもロバート・デニーロにも銃撃戦にも、どうも既視感があるのは、これ以外のいろんな映画を見すぎてしまったからだろうな。この映画自体が影響を与えた、後の作品も含めて。

映画の中盤にやっと、パチーノvsデニーロの場面。キャラが強すぎる二人の目力に火花が飛びます。この組み合わせは、ストーリーを語る上では、緩急がなさすぎてダメかも。 頂上対決すぎて話してる内容がちっとも頭に入ってこない。

現金輸送車、貴金属倉庫、銀行、と襲撃しては辛くも逃げおおせ、裏切った仲間を襲い、高跳びを試みる。…普通の映画なら1,2回のところを3回リピートして、もうこれ以上は逃げられないのでは、というところからまだ逃げる。そろそろ中年に差し掛かってもデニーロの身のこなしは美しい。(怒られそうだけど(誰に?)私の中の最高のデニーロは「ブラジル」の身軽でキレキレの修理工なんだよな…。)

2人が滑走路の荷物の影を追いあうラストシーンは、ちょっと映画史に残るくらい美しかった。世が世なら最高のライバルとしてやっていけた二人なのに…つってもギャングどうしでも警官どうしでも両雄並び立つことのないグレイトすぎる二人。二人とも俳優でほんとによかったよ…。

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ジョージ・クルーニー監督「コンフェッション」2713本目

原題「Confessions of a Dangerous Mind」はチャーリー・カウフマン脚本、ミシェル・ゴンドリー監督の「エターナル・サンシャイン(原題Eternal Sunshine of the Spotless Mind」に似てる、両方出典があるのに不思議。後者のほうが2年後の作品です。もうね、脚本がこの人だと、監督が誰であっても全部カウフマン節に染まりますよね。私はこの人の作品をずっと追っかけています。(※Netflixの「もう終わりにしよう。」についても長々と感想を書いたので、もしよろしければご覧いただければ幸いです https://movies.enokidakeiko.com/entry/2020/10/25/221528

この作品の監督はジョージ・クルーニー。キャストは彼自身以外に、その後めっちゃ頭角を現したサム・ロックウェルやドリュー・バリモア、さらにジュリア・ロバーツにルドガー・ハウアーと素敵です。しかも実話か!(というか実際にテレビプロデューサーが自伝として書いたフィクション)

この主人公は日本でいう「新婚さんいらっしゃい」と「プロポーズ大作戦(の中の「フィーリングカップル5対5」)のプロデューサーなんだな。番組のフォーマット販売なんてものがまだ存在しない、パクリまくりの時代…。

「デート番組」の出演者としてブラピとマット・デイモンが出てた。ジョージ・クルーニーの人脈かなぁ。 

作品としても面白かった。お下劣番組プロデューサーの”脳内CIA殺し屋”という脈絡の感じられない妄想も、カウフマン脚本だと思えばすんなり流れます。この映画はサム・ロックウェルの調子良さが光ってるほか、キャスティングの妙のおかげで当たりだと思います。なんか癖になるな。もっと見たいな、カウフマン作品。

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アルフレッド・ヒッチコック監督「スミス夫妻」2712本目

アンジー&ブラピの「Mr & Mrsスミス」とは全く違う内容の作品だと、今知りました(笑)。1941年の作品なのでヒッチコックのイギリス時代の中では特に古い方じゃないんだけど、なぜかTSUTAYAの在庫が少なくてなかなかレンタルできませんでした。それにしても画質が悪い…サイレント時代並み。

そして内容は、とても、面白くない(笑)。めっちゃ男尊女卑で。アメリカとも思えないくらい、夫は仕事人間で「実は入籍したのが無効だった」と言われても妻とそれについて話し合おうともしない。妻が怒ってもフォローひとつしないで澄ましかえっている。妻は逆上してほかの男と結婚すると言い出す。…結局、夫が「仕事を何日も休んで君たちを追って芝居までしてやった」、妻の逆上は新しい男とその両親から見て「とんでもないワガママ」、最後は妻が「おお…愛してるわ…」。第二次大戦の参戦前後ですもんね…日本だってこの頃は着物姿の妻が夫に敬語使ってた時代だから…。にしてもこの映画の中の価値観自体が古すぎて、今これ見て共感できるのは女性が常にベールで顔を隠してる文化の人たちくらいじゃないかな…。敵対するスパイどうしの夫婦の殺し合いの映画のほうがよかったです。 残念!

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ジェームズ・ヴァンダービルト 監督「ニュースの真相」2711本目

見る前に感想をたくさん読んでしまって、「結局それは誤報だったのか、それとも真実が握りつぶされたのか」という二極に分かれるんだなと思いながら見ました。

マスコミとその周辺の人々は、夢を見やすい。胸躍る映像を求める人しかその業界には近づかないから。だから真実を知りたいのにデマにすぐ飛び乗る。騙されてることに気づかず真実を追い続けてるつもりになりやすい。被害者と加害者、善と悪という二項対立を愛し、正しそうなほうに安易に肩入れする自分を肯定する。いじめっ子がいじめのニュースを見て被害者の方に肩入れするような状況をずいぶん見てきました。

一方で「忖度」って言葉はマスコミのためにあるんじゃないかというくらい、そういう彼らが上層部に行くと保身に走るのも見てきました。でも、悲しいかなそれはこの国の一般大衆の姿そのものです。

この事件、”証拠”の証拠性は疑わしいものだったというのが結論みたいだけど、兵役逃れの有無は”わからない”。普通に考えて、ズルをするときにずるい人たちが証拠を残すかというと残さないものだと思うので、タイムスタンプのしっかりした記録や写真でもない限り事実の証明って難しいんだろうなと思います。こういう事件があるとマスコミの本来の「質問しつづける」役割が委縮してしまうのはすごく残念です。

どんなスクープにも裏取りは重要。でも人間の証言は今も昔もあいまいだし買収されることもある。「どれが真実か(何を真実として扱うか)」という物差しは誰もが自分で積み上げて構築していくしかない。

ニュース番組も新聞も、もう真実を掘り下げる役目を果たせない時代だと思う。大本営の発表(「XXが〇〇と言いました」という事実)より深いことなんか速報で流せるわけないのです。ドキュメンタリー番組とか映画とかのタイムスパンでないと深い取材はできない。

メアリー・メイプスの解雇とテレビ界からの追放は、ちょっと”見せしめ”の感がありますね。その後はニュース雑誌のライターとして、さまざまな事件を追い続けていて今も現役だそうです。 

ニュースの真相(字幕版)

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エドガー・ライト監督「ショーン・オブ・ザ・デッド」2710本目

なんでこの映画をまだ見てなかったんだろう?前はゾンビもホラーも苦手だったからな…。この映画も、日常ドラマの中にドロドロのゾンビが出てくるのはけっこう気持ち悪い。でもエドガー・ライトだし、サイモン・ペッグだし、ビル・ナイだし、コミカルゾンビ映画の代表なので見ないわけにはいきません。

この映画のゾンビは比較的キレイというか人間の原型をわりと保ってますね。ぱっと見、生きてる人とそう変わらない。

どっかのタイミングで思い切ってゾンビの群れに飛び込むとか、「デッドドントダイ」のコメディゾンビの流れはここから始まったのかなーと思います。が、「ベイビー・ドライバー」で見せたアクションの切れも、音楽の絶妙な使い方も、特に見られません。(スミスの「パニック」がニュースの合間に流れたのは笑ったけど「マイ・ベスト・フレンド」はベタ過ぎ)

おバカコメディという設定上、賢く逃げることもできず、絶滅必至な流れかと思われたところでなんとか生還。普通のゾンビ映画ならゾンビに交じって撃たれるところだぞ。

でもこれは見ておくべき映画なので、やっと見られて良かったです!

 

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鈴木雅之 監督「マスカレード・ホテル」2709本目

図書館にときどき「ご自由にお持ちください」という放出本が置いてありますが、先日そのコーナーでこの前日慱「マスカレード・イブ」をもらって帰って読んだらわりと面白かったので、映画も見てみたくなりました。

そのとき、主役の新田刑事はキムタクっぽいけど年齢設定に無理があると書きましたが、東野圭吾はなんと、新田にキムタクをイメージしてこの小説を書いたとのこと。ただし設定は30代らしい。キムタク今47歳ですから、一回り若い頃の彼をイメージして読むのが正解でしたね。

完全犯罪をもくろむ人の考えは、(悪い)マーケターと似てる。人の心理の隙をつき、油断させてから斬る。私も、もうちょっと賢くやっていかないと、いつまでたっても賢い人たちにうまいこと転がされるばっかりかもなぁ~… 

マスカレード・ホテル

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マキノ雅弘・松林宗恵監督 「ハワイの夜」2708本目

とってもとってもロマンチックでセンチメンタルな、昭和30年代の少女マンガみたいな映画。初期のアメリカの無声映画とかも、このくらいロマンチックなものってけっこうあったんじゃないでしょうか。淀川長治が「キレイキレイ」と表現したような。リリアン・ギッシュが出てる、たとえば「散りゆく花」とか。

絶世の美女・岸恵子は日系二世のアメリカ人。清潔なハンサムの鶴田浩二は、ハワイで行われる水泳競技に参加する日本屈指のアスリート。ハワイで出会って恋に落ちるこの夢のようなカップルが、美しくきれいにたわむれるハワイの風景は、まさに少女マンガ。でもこの幸せは続かず、第二次大戦で従軍する彼と彼女との間は引き裂かれます。終戦を迎え、ハワイで捕虜となって瀕死の重傷で臥せりつつ、彼女との再会を望む鶴田。彼は脱走して彼女の家を訪れ、最期のときに再会を果たします。彼を一生思い続けて教会に尼僧として暮らす彼女を、友人がのちに訪れるのが冒頭の場面でした。

岸恵子一家がほとんど英語を話さないことなど、問題ではありません。 のちの仁侠映画のイメージの強い鶴田浩二がスイートすぎて違和感があることも気にしません。絶世の美男・美女だから成り立つ美しい夢の世界こそが、映画ってものなんだよなぁ。と改めて実感した作品でした。

ハワイの夜 [VHS]

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