映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マルコ・ヴィカリオ 監督「続・黄金の七人 レインボー作戦」3205本目

性懲りもなく、またシックな窃盗団が強盗に励んでいます。今回は「峰不二子」役のロッサナ・ポデスタ嬢が中心。欠点のない顔立ち、豊満な体つき、なにかモニカ・ベルッチを思い出します。ここまで来ると「バーバレラ」byロジェ・ヴァディムっぽっくなってきますね。強奪するブツが金の延べ棒っていうのも、わかりやすすぎて笑えます。

全部終わった後で…「取り分は君と私で3500ずつだ」「他の6人は?」「ナシだ」というデジャヴなやりとりに続く、軽い裏切りのやりとり(笑)週刊誌のギャグまんがくらいの軽さがいいですね。この続編は、最初のが売れたので調子に乗ってる感じがあって、B級映画としては一流品でした。(皮肉じゃなく)

 

マルコ・ヴィカリオ 監督「黄金の七人」3204本目

軽妙でシックな窃盗グループの大冒険、じゃなくて窃盗事件。よく見るとなかなかの大所帯ですね。中に一人、一度見たら忘れられないような美女が混じっています。ほかは手練れの泥棒たち。映画の紹介文には「日本のルパン三世が影響を受けた」と書いてありましたが、「オーシャンズ7~13」にも通じるものがあるような。そして音楽は、多分フリッパーズ・ギターの元ネタはこれだったんだな。

最後はなんと「つづく」か!オシャレで楽しくて、誰も傷つけない大泥棒たち、いいですね。大元締めは”峰不二子”じゃなかったけど、楽しくてこういう映画は好きです。

黄金の七人(字幕版)

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  • フィリップ・ルロア
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ロバート・エプスタイン 監督「ハーヴェイ・ミルク」3203本目

ショーン・ペンが彼を演じた映画を見てけっこう衝撃を受けたのですが、これは当人に関するドキュメンタリー。彼自身が暗殺されたことを市のスポークスパーソンが発表する場面から始まります。

ショーン・ペン、顔が似てるわけじゃないのに、印象がソックリです。顔じゅうで笑う表情が、政治家っぽくも感じられる。演技力ってやつだなぁ。ミルク氏は、すぐそばにいた人たちからは「かんしゃく持ちで難しい人だった」というコメントもありました。熱くてちょっと直情的で正義感にあふれた男、という感じかな。ゲイではないけど彼をきちんと評価していて、最初に殺害されたマスコーニ市長のことも、もう少し知りたいな。

加害者の段・ホワイトのことを想像してみる。どうも頼りないけど、悪いやつとか乱暴なやつと言う人がいない。彼は保守的な旧世界の代表のようなものだったのかもしれない。先住民を殺すのは当たり前だ、奴隷を殺すのは、ゲイを殺すのは、重い障害をもつ人を殺すのは。だって戦争では当然のように敵を殺せと国家命令を受けて、命がけで戦ってきたのだ。…軽い刑で済んで出所した後、戻ってきたロサンゼルスに居場所を見つけられず、彼はガレージで自殺をとげる。重い刑をくらっていたら刑務所のなかで長生きしたかもしれない。どっちも辛いと思うけど、彼にこのような死をもたらしたのは保守的な旧世界だと思う。旧世界と相いれない新世界が台頭したときに、必ず生じるひずみをどこで解決するか。解決できないと、ミルクとホワイトだけじゃなくて市長まで死ぬのだ‥。ちょっと単純化しすぎましたが。

自由のために命がけで戦った人たちがいたから、今のカリフォルニア州がある。日本はどうなんだろう?まだまだ勉強が足りません…。

ハーヴェイ・ミルク(字幕版)

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  • ハーヴェイ・ミルク
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イヌーク・シリス・ホーフ 監督「サウンド・オブ・レボリューション グリーンランドの夜明け」3202本目

面白い…なんて面白いんでしょう。1970年代にグリーンランドで初めて現地語でロックのレコードを出した「スミ」というバンドがあった。メンバーにも、ファンや関係者として発言する人たちにも、明らかにモンゴロイド系が多い。スカンジナビア半島やアイスランドには全然こんなにいないと思う、少なくともメジャーシーンには。デビューアルバムのジャケットには、入植者を殺すイヌイット(というより雪男に見える)のイラスト。彼らはデビュー直後から絶大な人気を得て、グリーンランド独立にも寄与したという。(アイルランドのマイアミ・ショーバンドは、そういうのを見た当局の標的になったのかな)

その後政治家になったメンバーの一人が脱退を切り出したのをきっかけに、わずか3枚のアルバムを残してバンドは解散するんだけど、サウンドがとても良いですね。複雑なハーモニーや変拍子もあるけどメロディは抒情的で、政治的メッセージの強いメンバーのがっしりとしたボーカルでインパクトもあります。本当に面白い。

この映画の制作は2014年だけど、ピーター・バラカンがつい数か月前に自分のイベントでこの映画を取り上げたらしいですね。音楽ドキュメンタリーとしての出来もいいし、ワールドミュージック(って今いわないのかな)好きの人間には、グリーンランドの国民的バンドなんて聞いただけでむずむずしてきます。

これは本当に見てよかった!

 

 

ユン・ジェギュン 監督「国際市場で逢いましょう」3201本目

小さい頃に聞こえてきてた韓国の歌はチョー・ヨンピルの「釜山港に帰れ」だったのだ。K-POPが世界を席巻して、私まで少女時代や2PMのCDを買ったり、BTSがアメリカで売れたりする時代が来るなんて想像できなかった。でもこの映画は、あの歌そのままの世界なんだなぁ。K-POP全盛の2014年に、子どもの頃に朝鮮戦争で家族と離ればなれになった経験を持つ人たちが元気なうちに、どうしてもこれを作りたい人がいたんだな。

忘れちゃいけないことを胸にしっかり抱いたまま、前を向いて生きていく。韓国の映画には独特の情緒があると思うんだけど、それは元々の文化だけじゃなくて、複雑な戦争の事情も関係あるのかもしれない。アメリカは「味方」なのか。ロシアは韓国から見れば敵陣にいるように感じられるけど、半島の半分は元々自分たちの国だ。わかった気にならずに、大切なものとして彼らの思いを見ていきたいと思います。

シドニー・ルメット監督「旅立ちの時」3200本目

<結末にふれています>

いちばん多感な頃の少年少女が、大人の都合で振り回されて、恋や自分の夢と家族の間で揺れ動く。一見ガサツだけど誰よりも繊細な少年を演じるリヴァー・フェニックスが素晴らしいです。彼女に出発を告げるときに震える口元とか、家族から置いて行かれるときの戸惑いと愛着の葛藤とか。

「その後どうなったか」に触れず、丸太をぶった切るみたいに終わりますが、その直前に流れるニュースや新聞記事の不吉フラグがせつないです。音楽の世界って、メンタルがかなり影響するし、生え抜きのエリートしかいない名門校に入って彼がどんなふうに傷つくか想像しても、なかなか単純なハッピーエンドは難しい。

とにかく、彼の繊細な演技に心を動かされる映画です。

旅立ちの時 (字幕版)

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  • リバー・フェニックス
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フレデリック・ワイズマン監督「クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち」3199本目

宝塚みたいなもんかと思って見始めたので、ちょっとびっくりしました。

フランスの女の人ってこんなにキレイなのかー、など戦後の小学生のような感想を書きそうになるくらい(書いた)、ほんとに美しいですね。同じ女性というのもおこがましい、多分違う生き物だと思います。

ダンサーが履いている底の赤い美しいピンヒールは、やっぱりルブタンなんだろうか。

美を極めようという意識を持つ人が洋服を着て舞台に立つのがファッションショーで、肉体の美しさとエロティックな魅力を極めようとする人が立つ舞台がこれなんだろうな。

着衣でリハーサル中の彼女たちは、熟練のダンサーという感じで、セクシーではあってもエロティックという感じはしません。衣装やメイクや美術の力ってすごい。あのダンスの中身はプロフェッショナルです。スタッフたちの議論や、熱く思いを語り合う場面はワイズマン監督らしい映像ですね。

パリには縁がなくて、ここも行ったことないけど、もう行く機会もないだろうなぁ…海外旅行をしない人生がこれからずっと続くような気分…。