映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リチャード・プレス監督「ビル・カニンガム&ニューヨーク」3264本目

ニューヨーク・タイムズのために何十年もストリート・スナップを撮り続けてきた、ファッション写真家ビル・カニンガム。

ファッションはオリジナリティが重要で、自分はハイ・ファッションのショーを撮るのでなく、あくまでもストリートで自分がいいと思った人の写真を撮り続ける…という彼の姿勢は、LGBTや移民を取り込んで増殖し、ダイバーシティを増しながら栄えるニューヨークのイメージと重なってる。でも、けど、国から招集がかかったら従軍するのは当然だという談話や、日本のデザイナーを語るときの苦々しい表情が、「むむ?」となる。一生独身だけどゲイではないと語り、宗教は自分にとっては安心が得られる大事なものだと、数分間の沈黙のあとに答える。彼が従軍したのは、時期から考えると朝鮮戦争か。複雑な人なんだよな。というか安易な好人物というパブリック・イメージをゆるさない。

そこをスルーしてストリートを楽しめばいい映画だけど、いまの私は人間の複雑さ、多面性に興味がある。このチャーミングで素敵で頑固なおじいさんが、ずっとカーネギーホールに住み続けてもいい、ずっとスナップだけ撮り続けてもいいし、日本のデザイナーを忌々しく思ったり、自国のために外国兵を攻撃してもいい。いいし、もしかして私がいつかニューヨークに住んだら、一生懸命おしゃれするから一度写真を撮ってくれたらいいなとも思う。そういう風に多様性をそのまま飲みこんでみたい。

というのが今日の私の感想なのでした。

 

篠田正浩監督「夜叉ケ池」3263本目

「外科室」の流れで、玉三郎が出演していた作品を見たくなりました。

これは1969年の作品だけど今年リマスターされたらしい。メインは玉三郎と山崎努と加藤剛。なかなか凝った演出がされているけど、村の場面では玉三郎だけ異形のものとして白塗りの顔で演じていて、浮いてる。白雪姫を中心とした池の伝説の世界は、玉三郎&鬼太郎の仲間たちみたいな面妖なやつらで、そこはすごく面白い画面だったので、村の場面もそのくらい思い切って作りこんでもらってもよかったような気がします。

なかなか入り込みづらい異形の世界だけど、独特の面白さのある作品でした。

 

三木聡監督「インスタント沼」3262本目

2009年、もう12年前の作品。こういう、カラフルで楽観的な作品がいくつも作られた時代があった気がする。

今気づいたけど、麻生久美子って声がわりと太くて、アニメの主人公の男の子の声とかできそう。ということは、この役は今なら伊藤沙莉がやるかもしれないな(まだちょっと若いか)。

しかしこの映画って、麻生久美子の周囲に物理的な沼が発生して、彼女がどこへ移動しても付いてくる、という話だとずっと思ってたけど違った。水を注げば沼になるインスタント沼は実際に登場したけど。

くだらない…といえば全くもってくだらない、軽い、残らない、けど週刊漫画雑誌を読んでると思えばこれでもいいんじゃないですかね。みんな楽しそうだったし。

インスタント沼

インスタント沼

  • 麻生久美子
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アラン・J・パクラ監督「推定無罪」3261本目

<ネタバレあります>

当時かなり話題になった、というか、多分大規模なTVCMを打ってたんじゃないかな。大昔にテレビでやってるのを見た気もするけど、これもラウル・ジュリアが出てるのでまた見てみました。彼は、犯人と疑わしき弁護士ハリソン・フォードを弁護する、ライバルの敏腕弁護士。まだふっくらしていて貫禄があります。

この映画の趣旨?は、当時大人気のイケメン俳優ハリソン・フォードが悪い女や闘争に巻き込まれるというもので、本格法廷闘争ものでも、本格推理ものでも、社会派ドラマでもありません。落としどころが甘いけど、映画としてはまあ楽しめたんじゃないかな。

それにしても、おっとりとした彼女の緻密すぎる計画に無理があるし、被害者の体内に残された液体の状態分析がザル、それをどうやって採取したかあと一歩踏み込めばすぐに犯人がわかったのに…という捜査の甘さが…家庭円満の秘訣なんでしょうかね。。

推定無罪 (字幕版)

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  • ハリソン・フォード
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ルビカ・シャー監督「白い暴動」3260本目

2019年制作。そんな新しい映画だったんだ。クラッシュの「白い暴動」が出たのは1977年、ジョー・ストラマーが亡くなったのが2002年だから、ごく最近になって昔を振り返って作られた作品だったんだな。(字幕監修ピーター・バラカン。正しい人選)

RAR: Rock Against Racism、1976年に発足したのか。ロンドン・パンク台頭と同時期だ。イギリスは好きな国なので、人種差別についてもアメリカよりはドイツよりはまし、と思いたがってたんだけど、私は自分が好きなパンクスのこととかしか知らないから、強い対立勢力が存在してたのを知らなかったのは偏狭な小娘としては(海外の政治記事じゃなく音楽雑誌だけ読んでたから)当然だったのかもな。

エイリアン・カルチャーっていうパキスタン系の子たちのバンドは知らなかった。日本で人気が出ると思わず、あまり紹介されなかったのかもしれない。トム・ロビンソン、Xレイ・スペックス、シャム69も馴染みだ。当時の日本のパンクロックの歌詞は、労働がきついとか警察に目をつけられてるってのはあったけど、それほど深刻じゃなかった。日本にも深刻な問題があったと思うけど、若い子たちのロックと直結してなかったのかな。今の日本で、近隣諸国にルーツを持つ人たちに対する差別に対抗するロックフェスができるだろうか。もしあったら行ってみたいけどちょっと怖いな、装甲車に取り囲まれていそうで。そう考えると、自分が正しいと思うことのために戦うっていう気概が自分にはないことに気づく。この先もずっと、こんな意気地なしのままなのかな、自分は…

ちょっと考え込んでしまうのでした。

白い暴動 (字幕版)

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  • レッド・ソーンダズ
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スティーヴン・E・デ・スーザ 監督「ストリート・ファイター」3259本目

ラウル・ジュリアが悪の総督役。頬がこけてて眼光鋭く、遺作としての彼の意気込みの凄みを感じます。(それだけが理由で見てる)…「鷹の爪団」の総統のキャラクターに酷似している。まさか、彼がモデルだったとは…?

まぁ映画自体は、ゲームもやらないし、ラウル・ジュリアが見たくて流したのですが、ゲームってこの頃はまだストーリー性が薄くて、チュンリー(頭にお団子2つのチャイナ・ドレスの女子。私でも知ってる)とかケンとかのキャラクターがひたすら戦うだけだったんじゃなかったっけ?最後「You win」とか「You lose」とか言うの。それを映画にするには、相当の新規創作が行われたのだと思います。

しかし…いろいろ無茶苦茶だし極悪のやられ役だけど、あっぱれな悪党っぷり。これが遺作になって、ある意味ラウル・ジュリア本望だったんじゃないかな…。

役に立たなくなった、彼の顔の入ったお札、一枚私も欲しかったなぁ…。

 

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佐藤祐市 監督「ストロベリーナイト」3258本目

もう8年も前の作品か。テレビの刑事ドラマの映画化だけど、本格的な感じもある。極端な慟哭とか過度の怨恨とかはないから、私には見やすい。(殺人の動機はちょっと義理と人情に傾きすぎてて「ん?」と思ったけど、そこはまあいいか)

竹内結子って理想的な美人という印象なのだ。どんなに売れても、何かをあきらめたような達観したような、どこか少女みたいに透明なところのある人だった。突然、通い詰めていた客と心中してしまった花魁みたいに、誰からも知られない闇を抱えてたんだろうか。などつい考えてしまうのでした。合掌。