映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スパイシー・マック監督「史上最高のパンツ一丁男」3423本目

ジャック・ドゥミ&アニエス・ヴァルダ夫妻の美しい映画にひとしきり感動した後に、このタイトル。日本では公開されてないけどDVDは出てるし、YouTubeで全編オフィシャル映像が見られるそうです。

おバカコメディなんだけど、フィーチャーフィルムというより、「ガキの使い」みたいに一応の筋がありつつ、1場面ずつは独立しています。徹底しておバカなのは評価したいですが、小ネタの連続という感じもします。日本語字幕が、日本のお笑い芸人が書いたんだろうかと思うくらい自然、むしろ最初に日本語で台本書いてセリフを英訳したのかな。

知ってる俳優は一人も出てないけど、大真面目にバカをやる演技はなかなかです。セクシーなお姉ちゃんもなかなかの美しさ。大統領役だけは、あまりに気が弱そうでちょっと成立してないような・・・

もしかしたら、すごいアンダーグラウンドのカルト・ムービーを発見したのかも??と思って見てみたけど、松本人志がお正月特番として作ったハリウッド映画、なんてのがあったらこんな感じかなというのが感想です。日本のお笑いっぽかった。

裕木奈江、出てたな・・・。

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。私は悪くない。(開き直り)

 

アニエス・ヴァルダ監督「アニエスの浜辺」3422本目

監督がやっと自分のことを語り始めた。完結編「アニエスによるヴァルダ」に至る前の、自分の生い立ちを振り返る作品だ。これもまた彼女の愛するものたちを散りばめた、宝物のアルバムみたいな、優しくてかわいくて美しい作品。

いつものように、映画のあちこちに過去の作品からの断片が取り込まれている。見覚えがあるけど、どの作品だったか思い出せない。これより後の作品で見た過去作品の一部かもしれない。時系列の乱れ、というより、宇宙の歴史の中で人間の100年足らずの歴史を時系列に並べることの無意味さ、か。

夫が死に至る病を得て亡くなるまでの間にドキュメンタリーを撮ったことをゆっくり語るのは、この映画だったんだな。彼自身が公にしたがらなかったから、皆で黙っていたと。「少年期」の公開すぐに亡くなった彼は、多分世界でいちばんふかふかの愛情に包まれて逝ったんじゃないだろうか。

映画ビジュアルにも、彼女の他の映画でも使われてる、彼女の会社のすぐ前の道路に砂を敷いて作った”浜辺オフィス”。この映画の全体がここで撮影されたのかと予想してたけど、後半のごく一部にしか出てこなかったし、説明もほとんどなかった。それよりずっと、本物の浜辺のほうが多かったな。

美しさと愛情でいっぱいなので、彼女の作品を見ていると、ハグされているような幸福感があります。

まだ見る方法が見つからない「冬の旅」はAmazon.comとAmazon.co.ukでDVDを安く見つけたので買おうかな・・・フランス語の映画を英語字幕で見るのちょっとキツイけど、弱ってるときに幸福感に浸れる作品なので手元に置いておきたいな。TSUTAYAから届いた16枚(またそんなに借りたんかい!)を見終わったら考えよう。。。

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  • アニエス・ヴァルダ
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アニエス・ヴァルダ監督「アニエス・Vによるジェーン・b」3421本目

ひとりアニエス・ヴァルダ特集。(「ベルサイユのばら」にもスタッフとして参加してる)

これは「アニエスによるヴァルダ」などから予想して、ジェーン・バーキンのバッグがいかに取っ散らかっているかを見たエルメスが彼女の名を冠したバッグを作るまでのドキュメンタリー・・・のわけないだろ、と思ったら大きくは違ってなかった。

「カメラを見るのは苦手。鏡を介して見つめ合うのは・・?」という会話に続いて、鏡を介してジェーンとアニエスが見つめ合う映像、という展開って、「パタリロ」とか「マカロニほうれん荘」以来の日本の漫画っぽいなぁ(古いですね、すみません)。なんだか女性同士で気が置けない雰囲気で、ただのおしゃべりのようで、見ているほうもリラックスしてきます。ヴァルダ監督の映画にはいつも、こういうフレンドリーな温かさがあって好きだな。

私の世代だとラース・フォン・トリアー作品の強烈なシャーロット・ゲンズブールのほうが印象が強くて、母の方は旧版「ナイル殺人事件」のメイド役とか、地味な役のイメージがある。(「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」をリアルタイムで見るには幼すぎた)話してる雰囲気は率直で裏表がなくて・・・感性のままに生きる人だ。このときゲンズブールとは別れて次の彼氏を紹介してるけど、まだ彼は生きてた。映画がしんみりしないのは、だからか。

海辺の場面では、多分ニキ・ド・サンファルと思われる立体作品がたくさん並んでる。この人の作品、久しぶりに見たわ。(ニキ美術館に昔行ったけど、ずっと閉館してて作品は非公開みたいだ。また見たいな、元気出るから)なんかこういう、女性の本音をお互いにさらけ出してもいい場を作るのがヴァルダ監督はうまい。

これも、夫のために作った「ジャック・ドゥミの少年期」みたいに、大好きな人にプレゼントするアルバムを写真だけじゃなくて、花やリボンやその人の好きなものをたくさん使って素敵に飾り付けたものみたいだった。アニエス・ヴァルダの愛情には、いつも参るな・・・。

アニエス・v によるジェーン・b [DVD]

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  • シャルロット・ゲンスブール
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ジャック・ドゥミ監督「ベルサイユのばら」3420本目

今これ見る人いないだろうな・・・

「敬愛するアニエス・ヴァルダ&ジャック・ドゥミ監督作品ぜんぶ見る」の続きで、DVDでしか見られないものをまとめてTSUTAYAで借りてきました。

英語のタイトルは「Lady Oscar」。ベルサイユとか薔薇とか言われてもフランス人には趣旨がわからないだろうからな。池田理代子、そういえば「世界で一番美しい少年」に出てましたね。日本人にバブルな金を持たせると、こういうもの作るから・・あ、すみません口が・・・

オスカルを演じてるカトリーナ・マッコール、美しいけど”男装の麗人”感はないですね。天海祐希とか珠城りょうみたいな、女子高の後輩から告白されそうな人でないと・・・基本、彼女が女性であることは周囲には知られてなかったという設定だったはず。マリー・アントワネットを演じたクリスティーナ・ボーム、少しカトリーヌ・ドヌーヴを思い出す。アンドレを演じたバリー・ストークスは、優しく野性的な男のイメージで合ってるんじゃないかな。若きランベール・ウィルソンも、魚を捕まえるのなんのとオスカルをからかう兵隊の役で出てた。

名前をこうやって並べるだけで、フランス人がいないことがわかる。やたら豪華絢爛な衣装で英語を話すヨーロッパ各国の俳優たち。カメラの遠さや美術の美麗さ、感情を入れすぎない演技とかはまさにジャック・ドゥミだ。美しく可憐な女性がかならずしもハッピー・エンドを迎えないところも。シェルブール、ロシュフォール、ロバと王女、とちょっとばかり勢いを失いつつあった流れの先にこの映画がある。

でも。フランスでお菓子を買うとして、お菓子は可愛いけど箱が日本の「可愛い」とちょっと違う、ということがありうる。この映画の絢爛豪華なドレスは、いまひとつ池田理代子の読者が求める”フランス”ではない。(だってドゥミのほうが本物だから)花で埋め尽くすような、むせかえるような色気を期待するなら、ソフィア・コッポラや蜷川実花に撮ってもらえばいいのだ(当時まだ子どもだよ)。むしろ市川崑に細雪の感じで撮ってもらえたらすごく美しい作品になって日本のファンが喜んだかも・・・うーむ、妄想が止まらない・・・

予想にたがわず、どうも物足りない作品だったな。いいところもあるんだけど、惜しかった。

ソン・ヘソン 監督「力道山」3419本目

韓国で作られた、朝鮮半島出身の日本のスーパースター力道山のドキュメンタリー映画(ロケは日本でやってるけど)。これを日本に移して考えると、アメリカの大リーグでかつて活躍した日本人(または日系人)選手のドキュメンタリーのようなものかな。韓国の映画界がこういう題材をどう料理するのか?という観点からも興味深いです。

諦めの混じった激しい哀しみが、韓国映画の特徴・・・だと思ってます。力道山は強くてカッコよくて、子どもは全員(といっていいほど)ファンだったと聞いてます。立派な体格で自信満々な表情の写真を見るとカッコいいけど、苦労人お一部にありがちな慢心も感じられる・・・。黒いうわさがあったのは、何も力道山だけではなくて相撲の世界にもプロレスの世界にも裏世界とのつながりはよく言われてきたことで、往年の石原裕次郎みたいに黒光りした(本物の)力道山の顔を見てると、そんなことも思い出す。清廉潔白な偉人、ではなく、たくさん欠点もあったけど大好きな俺たちの兄貴、みたいな描き方をしてることに私は好感をもちました。

力道山を演じたのはソル・ギョング。号泣した「ペパーミントキャンディ」の主役だ。韓国生まれ韓国育ちですよね?それにしては、アクセントが少し違うだけでかなり流ちょうな日本語のセリフを言えてて、すごいなぁ。実際は日本育ちといっていいくらい長年日本で過ごしてるので、日本人と言葉では区別がつかなかっただろう。映画製作者としては、韓国の観衆の思い入れのある俳優にヒーローを演じさせたかったんだと思うけど、そう考えると、在日出身の韓国のスターっていないのかな。いないんだろうな。

「パチンコ」という小説を読んだとき、半島から日本に来た人々の辛苦を知って辛い気持ちになった。彼らのことを半島側から描くものがもっとあってもいい。もっと読んでみたいし映像として見てみたいなと思います。

力道山(字幕版)

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  • ソル・ギョング
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ビン・リュー監督「行き止まりの世界に生まれて」3418本目

原題は「Minding the gap」っていうんだ。ロンドン地下鉄のドアが閉まる前に「Mind the gap」って野太いアナウンスが流れるのは、「乗り降りの際足元にお気を付けください」だけど、これは「分断をいつも意識している」っていう意味かな。

キアーとザックとビンのスケボー仲間は、一人は自称「ホワイト・トラッシュ」、一人はブラックで一人はアジアン。彼らが大人になるまでを取り続けたビンがそれを映画にした。その12年間。「6才のボクが大人になるまで」よりも「ビフォア・サンライズ」よりも親密でカメラからの距離が近い。

こういう、普通の生きてる人たちを撮ったものって全部好きなんだよなぁ。切実な事情のない人なんていないと思う。それぞれの辛さや恥ずかしさや美しさやダメさにぐっとくる。

この作品の特徴は、カメラを通じて製作者が被写体に友情をもって話しかけているところ、被写体が友情をもってカメラに向かって答えているところ。ビン・リューが「それでも自分の足で進んでいこう」という強い気持ちを持っているから、キアーにそれが伝わる。これは友達どうし、家族間の会話を他人が覗き見てる映画なんだ。なんとなく「ミッド80s」に印象が似てるし、マイケル・ムーアとか思い出しながら見てしまうけど、「監督失格」みたいな身内映画なのだ。

オバマが好きな映画だと言ってるくらいで、3人のダイバーシティが最初からそこにある良きアメリカの映画でもあります。この映画がアメリカで高評価を受けたという話を聞くだけでもちょっとほっとしますね。

 

マーク・ペリントン 監督「隣人は静かに笑う」3417本目

<ネタバレあります>

面白かった。トラウマ系だけど、たまにはこういうエンディングも見たくなります(映画見すぎたイヤなおばちゃんだな)

ティム・ロビンズはいつもうまい。ジェフ・ブリッジスも、いつもいい。この二人は役柄を交代してもこの映画は成り立っただろうな。(むしろその方がありがちなキャスティングな気がする。)でもティムの奥さんはジョーン・キューザックじゃないですか。彼女のうさんくささは代替不可。息子たちにも何か裏があるかなと思ったら、それは特になかったかな・・・。全体的に、観客の裏をかくことに注力した感じのある映画だけど、それでも何度も「えっそうくるか」「今度はこうくるか」と揺さぶられました。

隣人は静かに笑う(字幕版)

隣人は静かに笑う(字幕版)

  • ジェフ・ブリッジス
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