映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アンリ・ジョルジュ・クルーゾー監督「情婦マノン」279本目

1948年のフランス映画。

「初のファム・ファタール映画」と言われてるらしいです。今ファム・ファタールと言われてイメージするのはナイスバディでアクションもこなす峰不二子的な女性じゃないかと思います。でもこの映画でセシル・オーブリーの演じるマノン・レスコーは童顔で体つきも性格も子どもっぽい。1929年生まれだから、このとき19歳。だから、何をされても、子どもや子猫をいじめるみたいであまりひどく怒れない・・・のかしら。マノンのように、自分の好きなように生きられたらいいなぁとも思うのは、絶対そうなれない凡人だからでしょう。

映画は、貧しさから一転してパリで贅沢三昧の生活へ・・・そしてマノンと、罪を犯したその夫(入籍してないけど)ロベールは逃避行を始めます。イスラエルへ密航する船に紛れ込んだけれど見つかってしまい、取り調べを受けながら二人の事情を話し始める・・・。

「あなたが死んだら、誰が私を想ってくれるの?」自分が死んでも、生きて自分を思い続けてくれ、というほど愛に飢えたマノンには、全身全霊で愛してくれるロベールが必要だったんですね。きれいな服やぜいたくなワインも必要だけど・・・。

借りたDVDにはとっても行き届いた解説もついていて、日本の戦後映画の中でときどき台詞に出てくる「アプレ」というのは「アプレゲール=戦後派」というフランス語の略なのだそうな。とか、監督は俳優の略歴、淀川長治の解説なんかも見られます。

この監督「恐怖の報酬」の監督かぁ。あれも面白かったもんな・・・。この映画も、細部までこだわり、愛と美にあふれた生活を求めて生きた女性のリアリティを生み出すことができたと思います。キャスティングも絶妙で、子どものようなセシル・オーブリーファム・ファタール像、根が真面目だけど残酷なこともできる青年ロベールにミシェル・オークレールという俳優もぴったりです。

上陸後一転してからの20分ほどで、映画の印象ががらりと変わります。面白い映画を作る監督さんです。本当に。