映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ミロシュ・フォアマン監督「アマデウス ディレクターズカット」2674本目

1984年の作品か。私はどうやって見たんだろう?公開まもなく見て、アマデウスの才能と品のなさ(あの高笑い!)、サリエリの嫉妬深さや狡猾さに強烈な印象をもった記憶があって、いつか見直そうと思ってました。改めて見てみると、アマデウスと妻がいちゃつく場面なんかは、ソフィア・コッポラ的。虚飾の果ての崩壊は美しい。若い天才を追い詰めて死に至らしめる悲劇は胸を打つ。このキャスティングは本当に素晴らしすぎますね。F.マーリー・エイブラハムもすごいけどトム・ハルスの無邪気さや破滅的なもろさに胸を打たれました。

いま見ても、前と同じように胸が痛くなるなぁ。アマデウスがマイケル・ジャクソンとかエイミー・ワインハウスとか、天才的な才能を持ちながら周囲の期待やあつれきや嫉妬に押しつぶされて夭逝した人たちと重なってくる。夭逝しないまでも押しつぶされてしまった人は大勢いる。彼らの”取り巻き”、お金や才能に群がってきていた人たちは、自分にないものを持つ彼らに憎しみを持っていたのかもしれない。憎まれて当然の人にたかっているだけだ、と思わなければ取り巻きにはなれない、人間って自分を常に正当化するから。(逆に憧れ続けるのも残酷なんだよね。もしアマデウスがサリエリが憧れるような上品で美しい若者だったとしても、どこかのタイミングで期待を大きく裏切るかもしれない。)

画面の中のことを現実として胸を痛めてしまうくらい、アマデウスは本当に才気ばしった青年だしサリエリは悪魔みたいだ。でも、若い頃に見たときと違って、サリエリが特殊な悪魔だとは思えない。このくらいの悪魔はいくらでもいるし、サリエリのかけらはたいがいの人の心の片隅に、隠れてるけど、ある。

思ってたより美しく、リアリティと痛みに満ちた傑作でした。構成も完璧だし配役も演技も素晴らしい。上手というようなレベルじゃなくてそれぞれが一瞬、一瞬を生きてる。アカデミー賞8部門独占もなるほど、でした。

アマデウス ディレクターズカット [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: Blu-ray