映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

サム・メンデス監督「1917 命をかけた伝令」2704本目

<ネタバレあり>

予告編や前評判や他の方々の感想をたっぷりインプットしてから見ましたが、一言でいうと「すごく面白いエンタメ大作」と感じてしまった。ほぼ実話で、人の命がやすやすと奪われる映画なのに。007シリーズのサム・メンデス監督、大量のエキストラとDreamworksのCG技術の効果は抜群でした。

全編ワンカット「風」か本当にワンカットか?という議論がありますが、本当にワンカットで撮ったら出演者もキャストも人権無視しすぎ、休息なさすぎなので、この映像でいいと思う(笑)「カメラを止めるな」もよく見るとカメラを落とした場面とかあるし。生身の人間が作ってるんだし。(こういうこと言うと夢がないですかね?)

この映画は、一人の兵士と同行してカメラが走り続けることで、誰かの戦争ではなく「この青年の戦争」、ひいては見ている私の戦争、という視点をがっつりと固定した点が、いまだかつてない新しさです。この手法はまぎれもなくエンターテイメントなんですよね。面白い、面白い、とスリルを感じて夢中になって見ている自分が後ろめたい気もするし、戦場というところはこんなに人を興奮させるのかという怖さもあります。

まったく特別なところを感じさせない二人の若い伝令、素晴らしかったですね。最初から華のあるスター俳優を使ったりしないキャスティング。昼寝してるところを起こされるという設定が、任務の唐突さを強調します。この任務に対して思い入れのない方のウィル(ジョージ・マッケイ)が生き残って、そこで責任の重さに目覚めて表情が変わっていく、という演技も素晴らしかったです。

これで最後の最後に伝令が全滅したり、マッケンジー大佐が伝令を撃って命令を無視したり、けっきょくみんな死んだりしたら、後味の悪さばかりが残ってしまいますが、気にもたれて休むウィルの気持ち…家族を捨てて来たと言っていたのに写真を取り出さずにいられない。空しさの中に安堵もある、彼の気持ちに観客も寄り添って終わります。一緒に緊張して2時間走り抜けた、という共感。

最後に繰り返しになりますが、この映画は実話ベースの戦争映画でありながら、私にとっては、観客の気持ちを見事にコントロールしたという意味で、エンターテイメントの新しい技法を開発することに成功した作品でした。

1917 命をかけた伝令 (字幕版)

1917 命をかけた伝令 (字幕版)

  • 発売日: 2020/07/22
  • メディア: Prime Video