映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マーク・フォスター 監督「ステイ」2817本目

「Stay」って洋楽の歌詞によく出てくる。(もう誰も覚えてないと思うけど、1990年代にシェイクスピアズ・シスターっていうグループが歌った「ステイ」って歌が好きだったなぁ)「そばにいて」とか「一人にしないで」って訳すことが多いんだけど、I want youとかHold meみたいに直接的じゃなくて、静かにただ思っている感じで好きなんだよなぁ。

この映画はまた私の大好きなナオミ・ワッツとユアン・マグレガーが出ていて、気になるライアン・ゴスリングも出てます。ライアン・ゴスリングって声がちょっとハスキーで、舞台でも通りそうな声のナオミ、ユアンと違って、普通の人が普通に話してるようなリアルな感じがして、映画の中では逆にちょっとはっとする。

ナオミにもライアンにも(すみません、役名がすぐに覚えられなくてつい俳優の名前で語ってしまう)手を縦に長く切った跡がある。調べてみたら、横に切ろうとすると腱を切らないといけないので痛い上に動脈に到達しづらいから、腱に沿って縦に切ったほうが到達しやすいんですって。映画の中では「手首(wrist)」でなく「腕(arm)」に傷がある、と言及されています。…変な知識を身に着けてしまったけど、ドラマの中のリアルなリストカットがどういうものか一応わかりました。

で、ストーリーに戻ると、不安定な精神状態を描いた映画っていくつもあるけど、日常と違うのでいつも興味深く見ています。この映画では 目の錯覚?みたいな、同じ場面がコンマ数秒で違う角度から繰り返されたりします。

<以下ネタバレ>

結局のところこの映画は、21歳の誕生日の前日の夜に自分が引き起こした事故で2人?3人?の人を死なせ、自分も持ちこたえられなかった青年の最期を看取った通りすがりの精神科医と看護師の物語でした。とてもショックが大きく、精神科医はその後、亡くなった青年のいまわの際の言葉の中に自分自身が入り込んでしまったような状況を経験してしまった。…あるいは、予知夢のようにこのことを予感していた精神科医の見ていた幻、青年が事故から亡くなるまでの間に見た走馬灯のような3日間か。

「ステイ」というのは英語で死にかけている人に声をかけるときの「stay with me(しっかりして)」の意味だったんですね。英語では「もう逝かせてやれ」が「Let him go」だったりするので、その場にとどまる、生きていて、という意味で「stay」というロジック。死にかけている人に「しっかり」するのは難しいので、ただそこにいて、という「stay」は優しくていい気がします。

この映画は事故までのシーケンスと事故との関係性が、一般的な死とか夢とかの感覚とズレてるので、論理的に映画を見る人には評価しがたい部分がありそうだけど、「理屈じゃない」と感じられる人には感覚に訴えてくる良い映画だと思います。この構成、私には新鮮だったし、優しさがあってわりと好きな映画でした。

ステイ (字幕版)

ステイ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video