映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

トム・ティクヴァ監督「ヘヴン」2877本目

<ネタバレあり>

故クシシュトフ・キェシロフスキ監督が映画化を望んでいた三部作のうち、唯一脚本が書かれていたのがこの作品だそうです。トム・ティクヴァは個性的な監督だし、ケイト・ブランシェットは素晴らしい女優なので楽しみ。

「地獄」篇をダニス・タノヴィッチ監督が映画化した「美しき運命の傷痕」は、地獄というほど地獄ではない淡々とした作品だったけど、この「天国」は狙った相手でなく無垢な市民4人を爆弾で殺害してしまった事件、つまり、いわゆる地獄です。

自分がやったことの結果を知ったときのケイト・ブランシェットの演技が素晴らしい。ショック、放心、目の中にみるみるうちに涙が湧いてきて、否定しようとする。…こんな演技ができる俳優だから、「万引き家族」の安藤サクラの泣きの演技に注目して高く評価したんだなと納得します。レベル高いコメント!

彼女の取り調べでの通訳を買って出た若い刑務官は、真摯な彼女に「恋をした」といいます。爆弾犯と若い彼は、恋愛関係に陥るには遠い、共通点のない二人に見えます。

取り調べはあくまでも、彼女がテロリストの一味であるとして、他の仲間についての自白をひたすら求め続けます。

彼の計画により、彼女はそこを抜け出し、本懐を遂げ、二人は隠れ家で子どもたちのように眠ります。このときの二人の表情が、天国。

強い決意を持っていた彼女と、彼女を見つめる彼。フィリッパとフィリッポ、違う年の同じ日に生まれた運命的な二人。

「私は愛を信じることをやめたの」「愛してる」「わかってる。でも私は終わりを待って得るだけ」言うべき唯一の言葉のやりとり。最初は全然接点がなさそうだった二人が坊主頭になって双子のようになっていく。

彼が彼女を助けたのは、”正義感”の強さなのかな。彼の父は彼を行かせることしかできない。

丘の尾根を歩いて行く二人は天国にいるみたいだ。やっぱりこの映画は地獄じゃなくて天国だった。

…妻夫木聡と深津絵里が演じた「悪人」(男女逆だけど)にしろ、犯罪者に共感する物語はけっこうある。カタストロフィに向かって一気に加速する二人。

キェシロフスキ監督に恥じない美しい作品だと思いました。何よりもケイト・ブランシェットの泣きの演技は必見です。

ヘヴン 特別版 [DVD]

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  • 発売日: 2003/11/14
  • メディア: DVD