ドキュメンタリーなので比較的新しい作品ではあるけど、1975年なのでもう50年も前です。中年の夫婦が「1925年に生まれた」と話してたりすると「ん?」と思うけど、今ご存命なら97歳だ。取り上げられたお年寄りたちはもとより、中年の人たちもほとんど生きてはいないだろう。
肉は店頭で羊の大きなアバラを切り分けて量り売りしていたりするのが、すごくクラシックなんだけど、その頃私が住んでた団地だって肉屋は量った肉を紙で包んでくれてたのだ。
ヴァルダ監督が実際に住んでいる町の、旧市街なのかな、昔ながらの店が立ち並ぶエリアで、店の人たちに「いらっしゃいませ」「それいくら」を超えて会話を試みる。
たいがいが地元パリでなくフランス各地の田舎から出てきた人たちで、夫と、妻との出会いから思い出を語る。懐かしそうに、温かいほほえみをうかべて。…これが、最近読み始めた岸俊彦「東京の生活史」となんだか似てるんですよ。行ったこともない町の会ったこともない人たちの語りが、なんともいえず懐かしく、うれしく感じられる。
この町は今どんな風になってるんだろう。多分、若い夫婦はもう肉屋じゃなく大きなスーパーマーケットでパックされた肉を買ってるんだろうな。
「東京の生活史」もだしテレビの「ドキュメント72時間」もだけど、この映画も、最後になんとも言えない切ない気持ちでいっぱいになる。うまく説明できない理由で泣けてくる。今初めて出会ったこの人たち、比較的若い人でもおそらくもう年を取ってこの世にいなくて、この町も様変わりしてしまっただろうけど、会えてよかった…。