映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

是枝裕和監督「ベイビー・ブローカー」3433本目

<ネタバレあります、注意>

面白かったけど、何だろ、この「普通な感じ」・・・。私より先に見た人たちはどう感じたんだろう?

是枝作品を見たときの、胸が苦しくなるような感じがなくて、さらさら見られた。全体的に俳優たちがとても嬉しそうに演じてたからかな。その高揚感はいい作品を作る現場にはとても必要なものだと思うけど、「万引き家族」の場合はそういう高揚感そのものが強すぎて違和感があって、その違和感が映画の肝だった。つまり、本当は他人どうしの万引き集団なのに理想の家族で、本来平和なはずの家の外の世界には残酷さしかない、という辛さ。でもこの映画は、疑似家族の5人の幸福感と、警官たち、赤ちゃんを欲する家族たち、売春あっせんをするおばちゃん、全関係者の幸福度に違いが感じられなかった。

日本で作ったら、イ・ジウンの役は松岡茉優なのかな。彼女ならもっと痛々しく、憎々しく演じたかな・・・なんて想像してしまうのはよくないけど。イ・ジウン、すごく良かったんだけど、見終わってみたら、彼女の中に赤ちゃんの父を刺す必然性を思い出せなかった。誰かに当たることがあるとしても、自分のほうが傷ついてしまう優しい女性だと感じた。どろどろの、真っ黒な、憎しみが、彼女にはない。彼女のナイフでは人は殺せない。死なない。

ソン・ガンホはあまりにもいつものソン・ガンホで、はまり役だったけど、最後にうまいこと姿を隠すのは、それまでのうかつな彼にしてはうまくやりすぎかな?それじゃ「パラサイト」の結末だ。是枝監督っぽくない、と私は思ってしまう。

ペ・ドゥナって大好きで、今回もとてもいいなと思って見てたんだけど、見終わってみたら今ひとつ、どういう性格だったか印象に残ってない。

私の感受性がにぶくなったのかな。もう一度見ないとダメかな。うーむ。