映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

イ・ジュンイク 監督「金子文子と朴烈(パクヨル)」3632本目

見るのが辛いかな、と心配しながら見たけど、金子文子を演じたチェ・ヒソとパクヨルを演じたイ・ジェフンがあまりにもチャーミングで、普遍的な物語として見ることができました。映画の冒頭に、パクヨルの「日本の民衆には親しみを感じている」というセリフを置いてくれたおかげもあると思います。あと、当時の朝鮮人と同様に少し癖のある日本語とはいえ、日本を舞台に日本語を多用して制作してくれたことで、韓国映画で見る感情をもっと身近に共感できたかもしれません。

私は各国の王室や皇室は、自分たちで選んで生まれてきたわけじゃないのでニュートラルな立場をとっていて、この映画のなかの扱いで感情的にひっかかる部分はなかったけど、普段から強い愛着を持っている人には辛い内容かもしれません。

そもそもこの映画を探して見てみた理由は、ブレイディみかこの「両手にトカレフ」という小説を読んでみたら、金子文子の自伝をイギリス人の少女が読んで自分の境遇と重ね合わせるという内容だったから。金子文子って誰だ?というところからでした。生まれてからずっと、凄まじい境遇の中で生き延びてきた女性で、その中で助けてくれたり、自分らしく生きられる場に一緒いにてくれたわずかな人たちと過ごし、彼らのために戦うことは、彼女にとってそれこそが生きることだったんだろうなと思います。小説は金子文子の末期については書かれていなかったので、この映画を見てやっと全部つながりました。

カッコいいなぁ。どんな生まれ育ちでも、ここまで誇り高く、自分らしく生き抜くことができるんだ。今も、世界各国にも日本国内にも、信じられないくらい虐待されたり苦境に置かれたままの少年少女が、信じたくないくらいたくさんいる。いじめをなくそう、とか言ってるやつが被害者のリベンジでもするような気分で、自分より弱いものを虐げてる。虐げられたままの人たちに、「いじめをなくそう、理解しあおう」は絵空事だし、「信じられる大人に頼ろう」も簡単じゃないけど、こんな風に生き抜いた例を見せるのは、勇気を持たせることがあるかもしれない。革命活動をやって死ねとは言わない、自分なりの戦いをして、勝て。

自分ってまあまあ不幸だなと思うことがあっても、ウツウツとして日記を書くくらいで、文子みたいに外に出て自己主張したり、信じる人たちのために戦おうとはしてこなかった。残りの人生で、私にも何かできるだろうか・・・とか考えてしまうのでした。

文子の自伝を私も読んでみなければ。