映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アキ・カウリスマキ監督「パラダイスの夕暮れ」3654本目

1986年、アキ・カウリスマキ監督の初期の作品。

まだ若いお姉ちゃんという感じのカティ・オウティネンは、今年になってから何度も仕事をクビになっている。ごみ収集業のマッティ・ペロンパーが彼女と出会ってナンパします。この方、「モーゼに会う」1994年の翌年、わずか44歳で亡くなってたんですね。

男は職場の先輩に誘われて独立しようとしてたけど、先輩急死。飲んだくれて留置所に入れられて仕事に遅刻する。そのかたわら、LL教室(懐かしい)で英語を学習する。自分の発音を録音して聞き直すLL教室の仕組みを使って、今思うことをテープに向かって話す。

女は別の店で雇われるが、会いに来る男がごみ収集人だとわかって別れさせられる。雇い主に口説かれて、以前は入れなかった高級レストランに連れていかれるけど逃げ帰ってしまう。男の家に行くが、彼は帰ってこない。すれ違いの多い二人・・・。

でも男は店までまた押しかけてきて新婚旅行に行こうと言う。食べ物はイモ。行先はタリン。(ヘルシンキに旅行したとき、対岸のエストニアのタリン行のフェリー乗ったわ、フィンランドの人たちが物価の安いエストニアに免税品を爆買いしに行くって聞いた)

フィンランドの演歌かムード歌謡みたいな重い感じの歌がずっと流れてる。フェリーが青函連絡船に見えてくる。ずっと灰色の空。でも女はここで初めて微笑を(かすかに、ほんのかすかに)浮かべてる。パラダイスはどこにも出てこないけど、正直に不器用に社会の隅っこで生きている男女のあいだに、一瞬安心感のようなものが生まれる、”ちょっといい話”という気もする。そういうのも演歌っぽいな・・・。

「かもめ食堂」だけ見てたら見えてこないフィンランドの地べたの物語。どの国にもたくさんいる人々。この年になると、高級レストランに行くほうの人でも行かないほうの人でも、どっちでもいいと感じるようになる。好きな人がいて、仕事があって、もうすぐ死ぬ病気やすごく痛いところがなくて、ときどき美味しいものが食べられればそれでいいんじゃないかな・・・。

妙な間のおかしさは、この頃から健在。2回見るとけっこう爆笑できます。ロイ・アンダーソンとも違うひょうひょうとした可笑しさ。無表情、噛み合わない会話。なんかやっぱり好きだな、監督もこの二人も。

パラダイスの夕暮れ (字幕版)

パラダイスの夕暮れ (字幕版)

  • マッティ・ペロンパー
Amazon