映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイク・リー監督「ヴェラ・ドレイク」3685本目

ハリポタシリーズ全作を見直すうちに、正しさを強硬に押し通そうとするアンブリッジ先生が主役を演じたこの作品も見たくなりました。

このおばちゃん・・・。ただ善良で優しいだけのあか抜けない中年女性。自分より困っている誰かのために尽くすんだけど、そのことが自分に犯罪としてのしかかってくることを、想像できなかった。でも想像していても辞めなかったかもしれない。

いつも小ぎれいにして、純血の価値観を守ることに誇りを持っているアンブリッジ先生とは真逆です。イギリスの俳優のこういう上手さがほんとに好きだわ。

懲役刑の判決、家族の苦しみ。「困っている人を助けようとしたの」では終わらない。失敗して亡くなった女性たちもいた。

刑務所で、同じ罪で投獄された女性たちと「あなたはどうやったの」「何年?」と話す場面はみょうに普通っぽくて、そこでの生活にヴェラおばさんも次第に慣れていくんだろうな、と少しほっとする感じがあります。刑務所に入ることは死ではないから。

70年後の今なら、ヴェラに感謝したりリスペクトしたりする人もいるだろう。

刑務所のほかの女性たちと違って、ヴェラは誰も死なせなかったから。・・・この辺のさじ加減に監督の考えが出てるなーと思う。ケン・ローチだったら、お金に困って有償で手術をして患者を死なせた女性が主役かもしれない。マイク・リーの女性たちは純真でやさしく、人を傷つけたりしないのだ。

でも、観客たちにこのテーマについて考えさせる上では、これで十分な気もする。私たちは無慈悲な作品を見すぎてるのかな??(いや現実にあることをそのまま作品化したものも多い)