映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ギリーズ・マッキノン 監督「君を想い、バスに乗る」3718本目

ティモシー・スポールとか、スティーヴ・ブシェミとか、若い頃から佇まいそのものが個性的な俳優って、年をとってくるとますます他の人に真似できない存在感が際立ってくるし、なんともいえず惹きつけられてしまう。

この映画って、英国のふつうの人たちの悪い部分(バスの中で彼に、ブルカ着た女性に意地悪する人たちとか)と良い部分(彼のバス代を払うという人たち、彼の武勇を撮る女性、ゴール地点で待ち構える人々)がいろんな場面で出てくるけど、悪いことと良いことって紙一重なのかも、という気もしてくる。この旅する老人自身の視点で見れば。彼の中にあるのは失ってしまった妻がすべてで、自分の外で起こるよいこともわるいことも、結局のところ通り過ぎるだけ、と思えてくるから。

だって、SNSに「いいね」をした人たち誰も、バスが終着地点に着いたあと彼がどこへ行って何をするのか知らないままだ。彼らは、老人に通り過ぎられたたくさんのバス停のようなもの。

帰りの旅はどんな旅になっただろう?想いを遂げた老人は、少しは心を開いて、道すがらほかのバスの乗客たちに、彼の旅について話す気になったかもしれない。通りすがりに見えた他の客の中にも、愛する人を失って傷心旅行をしたことのある人がいるかもしれない。老人の「生き直しの旅」編は、また別のドラマになるんだろうなぁ。

君を想い、バスに乗る(字幕版)