映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

サム・レンチ監督「ブラー ニュー・ワールド・タワーズ」3003本目

ブラーを聞いてたのはMTVを契約してた頃だから…「ザ・グレート・エスケープ」の1995年あたりか。そこまでのアルバム全部とグレアムのソロまで持ってた。バンドスコアまで買ってベースラインを練習とかしてた記憶があるんだけど(ベース持ってないのに)、バンドでも組むつもりだったんだろうか?

「Song 2」って曲は当時デイモンがグランジを意識して作ったって聞いて、そういえばニルヴァーナみたいだなって思ったけど、カート・コバーンはとうの昔に故人で残ったのはブラーの方だ。

改めて昔よく聞いた曲をライブで聞くと、やっぱり彼らの曲は変わってる。特にグレアムのギターのユニークさは得難い。オアシスの曲は名曲だけどブラーの曲は変わっていて、かつ、ポップだ。そしてどうしようもなくブリティッシュなんだよなぁ。だめだ、やっぱり好きだ。ブラー聞き直そう。

U-NEXTの「もうすぐ終了」でトップに来たから見なおしたんだけど(なんと明日で終わり)、これは見て良かった。やっぱりイギリス行きたいな…ほんとなら去年リバプールとかベルファストにも行くつもりだったんだよな。旅行できるようになったら絶対行こう。(ブラーのツアーに、というわけではなく、アルバムをBGMにロンドンとか歩き回りたい、という) 

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バスター・キートン/クライド・ブラックマン監督「キートンの大列車追跡」3002本目

原題は「The General」だけど、将軍と名付けられたのは彼の愛車(※蒸気機関車)だから、「大列車追跡」のほうが「キートン将軍」より合ってるのでは?

サイレント映画を見るのがおっくうになってきた。映画を見始めたころは夢中になって見てたんだけど…。ボードヴィル出身の俳優の映画はメリハリの少ない(ずっと面白いんだけど)短いコント集になりがちだからか?ちょっと目を離すと筋が追えなくなるからか。あとで付けた音楽に気を取られてしまうからか。

映像自体は、相変わらずの白塗りのキートンなんだけど、大列車追跡というくらいでなかなかのアクション満載だし、西部劇に出てきそうな町に着いて馬車が走り抜ける映像とか、少し後のトーキー作品を見ているような感じで、音がないのが不思議に思える。昔のサイレント映画の名作に、効果音と吹き替え音声をつけて完全版を作ってみるという試みはないんだろか。サイレントを楽しめる人ばかりじゃないだろうから。(好きで見てた私にもだんだん厳しくなってきてる)

ベンジャミン・スタットラー 監督「ソークト・イン・ブリーチ カート・コバーン 死の疑惑」3001本目

これはカート・コバーンの死の真相を追求する映画か。突然鳥みたいに現れて去ってしまったスターで、妻のコートニー・ラヴは彼の同類のような印象だったから、彼女を疑った映画というのはちょっと意外。どんなスターの配偶者も必ず疑われるものだと思うけど、カートの書いた曲はどれも、まるでライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの映画みたいに「死に死に」していたので、自殺したと聞いて全く驚きはしなかった。

でも説得力もあるな。発見される数日前に、自分自身が探しに行かずに私立探偵に駆け込むなんて、ありきたりのミステリーみたいな行動だ。カートは本当に信じがたいくらいの才能があった。とても美しい人だった。彼を失ったことがとにかく残念だけど、なんとなく、平成の妖婦みたいなコートニーと結婚していなくても彼の運命は尽きていたのかもしれないし、何十億が惜しかったわけじゃないと思う。

天才ミュージシャンって例外なく悲しいな。としか言えないです。

 

 

リンゼイ・アンダーソン監督「八月の鯨」3000本目

「ベティ・デイヴィスの瞳」(キム・カーンズ、1981年)で初めてこの女優の名前を知って、1987年に映画館に見に行ったこの映画で初めてその姿を見た。と同時に、リリアン・ギッシュの存在も知ったっけ。

ベティ・デイヴィス、1908年生まれ、このとき79歳。「イヴの総て」と「ジェーンに何が起こったか」で、ハリウッドという華やかさに執着する、衰え行く女性や、才能のある姉妹の確執といった女性の内面を深く演じた作品で知られていました。 

リリアン・ギッシュ1893年生まれ、このとき93歳。私はリリアン・ギッシュの映画のほうが印象が強くて、「国民の創成」や「イントレランス」もだけど「狩人の夜」の賢明な老婦人の役がすごく良かった。1955年、まだ62歳だったのね、といってもそろそろ高齢者って年齢だけど。彼女はアメリカの良心を信じ続け、体現しつづけた女優だった気がします。夫が戦死したのは第「一次」世界大戦。

この作品でも、年齢差を乗り越えてこの二人の特徴をそのまま生かしてますよね。

舞台は現代に近いのに、「大草原の小さな家」そのまま時間だけ経ったみたいで、男たちは明るく闊達な開拓者気質だし、女たちは自立してしっかり暮らしてる。今はそんな強さを彼らに見つけられるけど、最初に見たときは、もと大女優がここまでヨボヨボな姿をさらすのは屈辱的じゃないんだろうかと思うくらいガキでした。最後まで姿をさらして表現することが女優ということなんだ、という覚悟が今は見える。

一人で老後に片脚を突っ込みかけてる私としては、今より弱って老婆になったあとにどんな生活があるのか、参考になるのかならないのか。。。老姉妹+友人と一世紀近くも同じメンツで暮らすことが想像できないし、毎日こんなに隣人に愛想よくできる自信もない。「ノマドランド」に共感してしまうくらいで、一人で海を眺めているような老後しか想像できない…。でも彼女たちが住む海辺の家は、私がいつも憧れる自然のなかの暮らしそのままじゃないか?そこに自分ひとりでなく、誰か親しい人と一緒に住むのはなかなかいい老後なんじゃないか?

この映画には若い人が一人も出てこない(老人も5人しか出てこない)。世界はしずかに終わりかけている。映画の終わりにかけての感じが、なんとなく日本の監督の作品みたいだな。全体を通して存在するのが「情緒」だからかな。

この映画の優しく弱った世界にミヒャエル・ハネケが現れないといいなぁ(悪意の隣人とか)。。。。 

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チャールズ・ウォルターズ 監督「イースター・パレード」2999本目

フレッド・アステアとジュディ・ガーランド。なんて豪華な組み合わせでしょう。ハリウッド映画界の歴史に燦然と輝く二人の競演、素晴らしかったです。

今も昔も卓越したダンサーってたくさんいるけど、フレッド・アステアほどの芸をもつショーマンってほとんどいないんじゃないでしょうか。ジュディ・ガーランドは、彼の前パートナー役のアン・ミラーみたいな輝く美女ではないけど、彼女の声はほかの誰にもまねできない存在感があるし、彼女の姿には万人に愛されるふしぎな愛嬌があります。自分の中の最もまっすぐなところを抽出するように歌うから、出てきた歌にはなにか純粋な普遍性が感じられるように思えるんですよね。

フレッドがおもちゃのドラムを叩き踊る場面、2人が浮浪者に扮して踊り歌う場面、サラダの作り方を身振り手振りで説明するウェイター(結局オーダーしてもらえない!)などなど。

ヨリを戻すきっかけがいまいち急な感で、ちょっと残念だったけど、この黄金コンビを見られたのはよかったです。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督「アリス」2998本目

ヤン・シュヴァンクマイエルの作品は2本見ていて、「独特の美学に目を奪われるけど好きってわけじゃない」などと感想を書いてました。この作品はわりととっつきやすくて、可愛らしさや子どもらしさが感じられる方だと思います。

造形作家の個展を見てるようで、「ウサギをこうしたのか」「なんで小さくなるドリンクは青いインクなんだろう」「小さくなったアリスは出来合いのお人形なのか」など、意外性を楽しんでいるうちに終わってしまいます。

原作がそもそも若干悪趣味で、シュヴァンクマイエルはそれをさらに悪意アップしてるわけじゃないので、安心して見られます。

個人的には、アリスちゃんの着てるピンクのワンピースが可愛くてたまりませんでした!!

アリス

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石井輝男監督「ねじ式」2997本目

「ゾッキ」を見たら、なんとなくこの映画を思い出したので見てみました。(なんで思い出したんだろう?私が思い出したのはもしかして「無能の人」の方かも。これもそのうち見直してみよう)

見始めてみたら、最初におどろおどろしい「舞踏」の人たちが出てきて、イメージと違った。ひたすら、昼間からダラダラしている男の物語だと思ってたけど、可愛い女たちに対するエロい妄想が爆発したような映画だった。

浅野忠信がまだヒョロっとしてて若い。藤谷美紀は、売れない漫画家とつきあったりしなさそうな、いいおうちのお嬢さん風。その後たくさん現れる女性たちは、みんな童顔で目がキラキラしてて可愛らしい。それが、この世界は狂気ではなく若い男の妄想だと示してるような。

最初から最後までセピアというか、赤黒の二色刷りみたいな画面も不思議。浅野忠信が、全然似合わないかと思ったらそうでもない。静かに壊れている、リアルなアールブリュットみたいな不思議な美しさもある。(「第七の封印」と植田正治の写真を組み合わせたような砂丘の楽隊の場面があったけど、完全に借り物ってのはあんまりよくないんじゃないかな)