映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

トーマス・ジャクソン 監督「99分,世界美味めぐり」3176本目

原題は「Foodies: The Culinary Jet Set」、Foodiesっていうのは日本でいうグルメライターのことかな。食のために世界を飛び回る人たち。

美味しいごはんを食べたいと思うけど、最高じゃなくてもいいし、ワインの味がわからないので、ここまで極めようという気持ちはわからない。そこに山があるから登るようなものなんだろうか。でもこういう映画を見るのは好きだな。ひとつの芸術のとても高い所を見てるようだから、楽しいのかな。

このブロガーの人たちはみんな、一人で、レストランを訪ねるためだけに旅するんだな。私も、旅行しまくってたときは、旅先で食べるご飯が楽しみだったけど、ご飯のためだけに旅できるのってすごい。文句言いながら食べ歩いているおじさんもいれば、モデルなのにいい食べっぷりな人もいる。(日本語も最低限は覚えて来ていて、偉い)

彼らはレストランを評価するためじゃなくて、ただ食べたくて回ってるのがいいな。ミシュランの星を巡るのは、フォロワーっぽいしミーハーな感じもするけど。冬虫夏草の本物も、実際に食べてる人も初めて見た…。

高くなくてもいいから、なるべく美味しいものを食べていたいものだ。最高に美味しい!と思うものに、生きてるうちにあと何回出会えるだろう。

 

マーク・フランシス 監督「おいしいコーヒーの真実」3175本目

コーヒーが好きだけどあまりお金を使いたくない私は、カフェに行くことは少なくて、最近は生豆を買って家で焙煎している。生豆って産地に関わらず安くて(※高級豆は産地にかかわらずもともと高いけど)、1kgの小口で仕入れても単価1000円くらいのものも多い。100gで100円、8杯取ると1杯12.5円。店で飲んだり焙煎豆を買ってきて家で飲むコーヒーと生産者価格との差は、国内に入ってからもだいぶ乗っかってるってことだ。

今ちょうど、すごく美味しいエチオピア豆が家にあるので、この作品は人ごとではない。この美味しい豆を作ってる人たちの子どもに、学校に行ってほしい。元気に賢く育ってずっと美味しい豆を作り続けてほしい。私は生豆の価格が倍になっても、時間がある限り家で焙煎して、好きなだけコーヒーを飲む。材料費が倍でも大きな違いにならない程度だ。カフェでコーヒーを飲む人にとっても、カフェ経営会社のほうである程度は吸収できる差額なんじゃないか?そのまま載せても300円が330円程度。それに、スタバみたいにイメージが大事な企業が動かないわけないと思ったら、今はかなりフェアトレードに力を入れてるみたい。当然。

コーヒーはダイヤモンドと違って農産物だから、年間の産出量を誰かが調整できるわけじゃない。だから先物取引で扱われ、投機というかバクチの対象にもなりうる。でも自分たちで作れないものを買っているからには、コーヒーの大消費国たちが、売り手が決めた価格でしか豆を買えない日が来るかもしれない。来てもいいのだ。コーヒーがぜいたく品になって、ファミレスで飲み放題を中止してもいい。誰も飲まないまま濃くなったコーヒーを捨てるために、コーヒー豆を栽培してるわけじゃないのだ。

この間、小さいコーヒーの苗を買ったけど、実を付けるまで5年って言ってたな。それまで枯らさずに育てられるかな…。コーヒーを焙煎したり、挽いたり、淹れて飲んだりする時間は、私にとってとても大切なので、これからもずっとお世話になります。

でも1つだけ不思議なのは、コーヒー豆の最大の生産地は中南米なのに、なぜ割合の小さいエチオピアだけを取り上げたのか、ということ。テーマはアフリカなんだよね、コーヒーというより。コーヒーの産地を語るなら、中南米やインドネシア、ベトナムについてもカバーして欲しかったので、この映画で語れる部分は多分ごくわずかじゃないかなと思う。

おいしいコーヒーの真実

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ラーフル・ジャイン 監督「人間機械」3174本目

インドの工場労働の実態を撮ったドキュメンタリー。タイトルが気になって見てみました。原題「Machines」には、働いている人間も機械みたいだ、という意図が込められていると思うので、ドキッとするような邦題は実はほぼ直訳かも。

染色工場で働いている人たちは、農家で、不作のために植えてみた作物も不作、やむを得ず現金収入のために働きに来ている。1日12時間労働はきついし、賃金も安い気がするけど、法律も他の業者のことも知らないからそのまま働いている。

作り手による演出を極力排除した映像のおかげで、同情や怒りをあまり感じないで、冷静な目で見られるんだけど、逆にその場に自分がいたら一緒に黙々と働いてしまうだろうなと、その場への共感を感じそうになる。

彼らがやっているような農業は天候に左右されるから、予測がつきにくい。計画通り働けば計画通りの収入が得られる工場労働は安定はしている。どこにも正解はないし、黙々と画面を見ているだけ。

だけど見て良かったと思います。

春本雄二郎監督「由宇子の天秤」3173本目

<すこしネタバレあります>

面白かった。すごい力作だった。

瀧内公美が主役の社会ものと聞いて気になっていた上、私がいつも拝読しているレビュアーの皆さんが軒並みすごい点をつけているのを見て、行ってきました。ミニシアターエイドでもらった「未来チケット」で行ったユーロスペース、9割は埋まってて大盛況。

内容は、東海テレビが制作してドキュメンタリー界隈を沸かせた「さよならテレビ」を思い出しますね。あの作品の、次に来るべくして来たもの、という感じ。春本監督はきっとテレビ出身の人だなと思って経歴を見たら、実際そのようです。でなければあんなにリアルに、局の人に細かくお伺い立てたりナレーションつままれたりする様子は描けない気がします。

ドキュメンタリー作品を見て「恣意的にまとめすぎ」と批判的な感想を書くことが最近多いのですが(特にマイケル・ムーア作品)、それに加えて、ドキュメンタリーに限らず、ドラマであれ何であれ、テレビは時間枠が厳密で狭いため、わかりやすさだけを抽出してそれ以外を捨てる傾向がすごく強いし、制作会社にとっては生存競争がし烈なため、生き残りをかけて誠実さをなおざりにする場面が多くなる。ネットで見た情報によると監督が「由宇子は自分だ」と言っていたというのもうなずけます。「さよならテレビ」は自嘲で終わったけど、その先には、仕事と自分を分けて都合よく自分を守っていた由宇子が、最後にやっと一瞬だけ、自分にカメラを向ける場面があります。やっぱり私は、テレビにしろ何にしろ、他人を撮って自分の作品として発表する人には、自分にも同じように厳しいカメラを向ける覚悟を持ち続けてほしいんですよ。

出演者についていうと、瀧内公美、よかったですね~。こういうディレクターいそう。男勝りで肝が据わってて、やり手でちょっと人たらしで。(わかりやすい演出をつけがちなディレクターの人たちには、この映画の彼女の演技を見て、ショックを受けたとき人は安易に眼を大きく見開いたりしないと認識してほしい。)中学生かしらと思ったくらい幼い演技がうまかった河合優実は、実はもう20歳。人はいいけど仕事も家事もまるでダメなその父を演じた梅田誠弘もなんかすごく良かった。久々に見た丘みつ子のうまさ、そして光石研の、どうしても悪い人に見えない感じ、他のキャストの方々も含めてみなさんハマってましたね。

由宇子は父の事件がなければ、富山に続いてしれっと局内の人間に成り代わり、委託先のナレーションをつまんだりしていたかもしれない。あるいは春本監督のように、テレビの小さくて窮屈な枠を出て、映画を撮り始めただろうか。

実をいうと、映画の見過ぎで心の汚れた私は、どっちの事件の犯人も実の父親ではないかと疑ったり、やけに綺麗な文字の遺書は本物かとか、由宇子がもっと悪に振れたりしないか、等々いろいろ頭の中がぐるぐるになっていました。もっと悪い監督(どういう監督だ)なら、最後みんな死んじゃうとか、どうにでも転べる選択肢があったと思うと、この映画の結末は優しく、この国もまだ捨てたもんじゃないと思えるほうだったんじゃないかなぁと思います。

次の作品にも期待してます。

想田和弘監督「Peace ピース」3172本目

ボランティアは手弁当なのだ。手弁当ということは、弁当も自分で作るし電車代も何も出ないのが普通と思われている、ということだ。どこの政府もきっと、ボランティアとかやる人はたっぷり年金をもらって時間を持て余している老人か、夫の稼ぎで働かなくても食べていける妻だと思ってるんだろう。わずかな補償では出費をまかなえないボランティアも多い。人は、善意の人の努力や忍耐に甘えるのだ。

年金の額も減り、時間のある人にお金がないのが普通になっていって、ボランティアができる人は多分減っていくだろう。何と呼ぼうと仕事なんだから、都道府県の最低時給くらいはなんとかならないんだろうか‥‥

という胸の痛くなる問題とは別に、猫たちと人間たちの表情、そこにはピースの箱も平和もある。この静けさに憧れる企業人も多いんじゃないかな。厳しい現実を知ったとしても。だけど普通は、追い立てられるように稼ぎまくる人生にも、平和ながらも貧しい人生にも、なにか解決するために動く人は多分多くない。前者と後者の行き来は、→の一方向だけ。そう考えると、NHKのドキュメンタリーに始まってフリーの映画制作を続けている想田監督も、BBCから独立したケン・ローチも、いたたまれない思いが他の人より強いんだろうな、と想像する。彼らが現場を捕らえて世界に発信することでしか解決に向かわない問題がたくさんあるので、→に向かったときの思いをずっと作品にし続けてほしいなと、勝手な一市民として思ってしまいます。

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ジガ・ヴェルトフ集団 監督「イタリアにおける闘争」3171本目

名義が違うけどゴダールが監督なんですって。パロディか何かのように、シリアスな顔をした学生風の女性が、新聞や雑誌の共産主義に関する文章を次々に読み上げる。「くたばれ観念論!」なんてセリフもあるけど、この映画が観念論そのもののような…。

で、映画としては、とても退屈で面白くないものになってしまいました。もっと退屈で、理屈に飢えてたら興味深く見られるんだろうか。そんな状態の自分を想像しづらいけど。

ピエール・デュシャン監督「ノーマ、世界を変える料理」 3170本目

日本で期間限定レストランをやったドキュメンタリーを見たので、これも見たくなりました。お父さんがマケドニアから移住してきたアルバニア系イスラム教徒なんですか。名前でも見た目でも北欧の人かと思ってた。この作品では差別を受けながら育ったことも語っています。今の成功にはいろんなものがベースにあったのね…。

料理人のドキュメンタリーも見るの好きだな。この間久々に、成り行きで懐石料理を食べたら、なんとなく、舌が鈍ったなと感じたのは(※コロナじゃないです)、前ほどいいものを食べなくなったし、家で適当な味付けしかしてないからかも。丁寧に作られたおいしいもの、たまには食べたいもんです。

さて、この映画ですが、日本に来た際のエピソードはお祭りみたいなものだったけど、後になって1位からの転落とかノロウィルスの事件とかを知ったのは、順番として良かったと思います。世界一のレストランって何が一番なんだろう。同じものを作ってシェフ対決をしてるわけじゃないのに、客観的な基準のない1位って。(オリンピック以外のあらゆるランキングは同じようなものかもしれないけど)

現地のノーマの予算は2万円くらいらしい。出張レストランはやっぱり高いんだな。ノーマがもし私の家からすごく近かったら、一生に一度くらいは思い切って予約を入れてみたい気がする。アリとか木のオイルとか、どんな味なんだろう、どんな風に美味しくするんだろう、でもやっぱり、「世界一」でなければ一生行かないままだと思う。そういうのが世界一という価値なのかな…。お邪魔にしかならない客かもしれないけど、もしデンマークの普通のおばちゃんが着飾って一生一度のごちそうを食べに来たら、ぜひ優しく迎えてあげてほしい気がします。