映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

トレヴァー・ナン監督「ジョーンの秘密」3219本目

見たい映画を旬のうちに見る癖をつけたい…これもだいぶ時間が経ってしまった。

第一印象は、すごく普通にシンプルに作った映画だなということ。ヒネリとか驚きとかを演出せず、時代の中でもがき続けた一人の普通の女性を追って、とつとつと語る作品でした。面白いのは、Rotten Tomatoなどのアメリカの批評サイトではびっくりするくらい評価が低くて「ジュディ・デンチの才能の無駄遣い」などと言っていること。KINENOTEでは70点超えなので良いほうの作品だ。映画が作られたイギリスではどうだろう。ロシアでも見られるのかな?

その辺の評価の差は、原爆の情報をイギリス経由でソ連に横流しされたアメリカという立場や、ヒロシマ・ナガサキに涙して世界平和のために情報漏洩を決意した心優しい女性に対する日本の立場、という違いも大きいんじゃないかな。原作のモデルとなった女性は、ストレートの髪をピンでぴしっと留めて眼鏡をかけた、ちょっと”女史”っぽいおばあさんなので、映画ではずいぶん柔らかく可愛らしい雰囲気を演出しています。

ジュディ・デンチは”無駄遣い”なのか?というと、終始戸惑っているおだやかなお婆さん、という演技でも、過去にどでかいことをやらかした説得力を持たせるには、それだジュディ・デンチであるというだけで十分、という大きな効果はあると思います。年齢はともかく、これがメリル・ストリープなら物足りないか?というと、そんなこともないのだけど。

イギリスではどう捉えられたのかな。どんな人にも愛国の気持ちや故郷びいきの感覚はあるので、アメリカよりは肯定的にとらえられたのかもな…。

ジョーンの秘密(字幕版)

 

トーマス・ヤーン 監督「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」3218本目

割と作りがラフで、アイデア勝負の若い学生さんの卒業制作みたいな、青い感じだなと思った。瀕死なのにめっちゃ元気な二人と、完全にコメディのギャング二人。ギャグのセンスがヨーロッパっぽい。私が愛読してるレビュアーの皆さんに愛されてる作品だけど、どうも入って行けなかったな~。見てる自分に気持ちの余裕がないからかな。

なんとなく、今もう一度見直しても同じような気がするので、いつかまったりといい気分のときにまた見直してみようと思います。うむ。

 

ジェレミー・ソルニエ監督ほか「トゥルー・ディテクティブ 3rdシーズン」3217本目<KINENOTE未掲載>

マハーシャラ・アリ(あの「グリーン・ブック」の!)のクールなたたずまいがすごく良いシリーズ3。アリ演じる切れ者刑事ウェインの、事件直後、10年後、そして老いて認知症が現れ始めた状況を描いているのがまた新鮮で、誘い込まれます。つまりその事件は迷宮入りしている。発生時に解決したかと思われたけど、解決してなかった。ウェインは事件後第一線を外され、当時の相棒ローランドとはもう連絡も絶たれている。

事件の10年後には再捜査が行われたけど、現在は「迷宮入り事件を追う」みたいな若い金髪の女性ジャーナリストがウェインをやんわりと責め立てる。

第5話の、老人になったウェインとローランドの再会の場面、よかったなぁ。「お前がしたことを忘れたとでもいうのか」「すまない…覚えていないんだ…何も…だけどすまなかった、何を言ったとしても、謝る」という和解。

このシリーズのすごいところは、正義のごり押しという悪を開いて見せてくれるところだよな…。最近見た邦画の「由宇子の天秤」ではジャーナリストの欺瞞を見せてくれた、この映画では警察の正義の裏にある悪を見せてくれた。

シリーズ1でも最終回のオチは昨今の映画の世界からみて、ちょっと物足りないんだけど、見せるね~。ドキドキしながら通しで見てしまう強い魅力のある作品でした。シリーズ4は作るのかな…楽しみだな…。

ジャスティン・リン等監督「トゥルー・ディテクティブ 2ndシリーズ」3216本目<KINENOTE未掲載>

1stシリーズは初回のあたまから盛り上がったけど、こちらはもっとじっくり見るタイプかな。それでも一気見してしまったんだけど、最後の最後、往生際が悪くて二人がやられてしまうのが、不自然というか物足りないというか…。

とか言いながら、3rdシリーズも見ます~。

レイチェル・マクアダムスは男勝りの役をやっても、どこか可愛くて魅力的です。コリン・ファースは、あまりにも濃すぎて身近にいたら引いちゃいそうだな…。

清水康彦 監督「その日、カレーライスができるまで」3215本目

別府ブルーバード劇場にて鑑賞。この映画館を応援したいので、別府に行くと時間を作って、その時間にやってる作品を見て”お布施”?するようにしてます。

この作品は斎藤工(最近制作側でよく名前を見るな)の企画・プロデュースによる中編で、とにかくもうリリー・フランキー劇場、ほぼ彼の一人芝居です。子どものことを思い、家を出た妻のことを思いながらカレーを煮る中年男。どんな役をやってもリアルな人だと思ってたけど、もはや演技の匠ですね。スペンサー・トレイシーですね。

作品としては、テーマが小さいのでどっかーん!と来るインパクトはないけど、リリー・フランキーが映画界に占める重要性を実感できただけでもよかったです。

併映の短編は、伊藤沙莉と大水洋介の兄妹がオンラインで言い争う「HOME FIGHT」。これも小品だけど面白かった。斎藤工、どんどんアングラ映画へ突っ走っていく…。嫌いじゃありません、彼が作るもの。

ジョナ・ベッカー 監督「最後の1本 ペニス博物館の珍コレクション」3214本目

「夫のxxが入らない」くらいインパクトのある邦題だ…副題をはしょろうかと思ったけど、このまま載せます。KINENOTEでフォローしている方が感想を書いてて「そんな映画があるのか!」と見てみることにしました。なぜなら…私この博物館、行ったことがあるんですよ。

2019年にアイスランドに行ったとき、私が泊まったボロ宿の向かいにこの博物館がありました。(映画のときは郊外だけど今は首都レイキャビクのど真ん中)英語名称は「Phallological Museum」で意味不明なのに、Googleマップを見ながら移動していると、日本語で博物館の名前がずっと出ていて、最初は「げげげ!」と思ったけど、二度と訪ねる機会はないと思って、すごくドキドキしながら入ってみました。(入場料すごく高かった)

ビルの一階にある図書室みたいな博物館に、やけに巨大な剥製がたくさん並んでいるのはなんだか怖い感じで、関連グッズ?とかもあったと思うけどジョークっぽいものは少なかったような。日本の「秘宝館」系ミュージアムとは違い、館長の大真面目な感じがそのまま反映されていたような記憶があります。

人間のは、どうしてそんなに入手が難しいのかな、本人の情報を含めて展示しようとしてるからかな。…男性から女性に手術したトランスジェンダーの小説をさっきまで読んでたので、そういう標本なら亡くなるのを待たずに手に入るだろうと思ったり…でも当人は、そんな存在は忘れたくて、見世物になるのは耐えられないだろうな。

エルモの分離手術(なんかもう別人格の”人面瘡”か結合双生児みたいだ)を試みたときに、女性の医師が「こんなところに星条旗が!」ってのには大笑いしました。

で、人間第一号として展示されていたやつ、確か見学したはずだけど、切り口が生々しくて怖かったような気がします。端を縫い合わせたりしてないので、もぎとられたように見えます、形とか大きさとかうんぬんする前に。

北欧ってほんと面白いよな…。次に海外に行けるのはいつだろう…。

最後の1本~ペニス博物館の珍コレクション~(字幕版)

最後の1本~ペニス博物館の珍コレクション~(字幕版)

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才谷遼 監督「ユーリー・ノルシュテイン「外套」をつくる」3213本目

これも公開当時からずっと「見たい」に入れてた作品。とっくにソフト化されてたんだなぁ。

この映画は日本映画なんだな。「ユジクV」の才谷監督がどうしてもノルシュテインの「外套」が見たくて、スタジオに押しかけたということの経緯をそのまま映画として公開した、といった形でしょうか。ソビエト時代のほうが良かった、撮影監督がなくなったからできない、と言われると、いくら待ったところで完成すると思えない…。

これを撮ることでいくらかノルシュテインに経済的な援助を、ということもあったのかな?テーマがテーマなので、壮大な「宿題が済んでないことの言い訳」みたいになってしまって、映画としてはまとめづらいものになってしまいました。

垣間見る、制作途中の「外套」はドキッとするくらい素晴らしいので、現状が残念ではありますが、作る人の気持ちや事情より優先すべきものはありません。ただ、今ならクラウドファンディングとかもやりようがあると思うので、いつか完成したものが見られるのを夢見ていることにします…。