映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ディーン・パリソット 監督「ビルとテッドの大冒険」3395本目

「ディアボロス」見たらこれが見たくなりました。

キアヌ・リーヴスっておバカ役をやってるときも好きだな。私の大好きなケヴィン・クラインも、イケメンなのにおまぬけな役が多い。若い頃の近藤正臣のきょとんとした顔も好きだったな…(割と系統が近い人たち)

この作品も、見終わったとき何も残らないし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の二番煎じみたいだけど、楽しい。連綿と作られ続けているアメリカのよい子向けのドラマみたいで。出てる人たちも見てる人たちも、のんきでハッピーなファミリーなんだろうなと想像して、なんとなく幸せな気分になれる。いいんじゃないですか、こういうのも。

さて、おっさんバージョンも見てみるか!

テイラー・ハックフォード 監督「ディアボロス 悪魔の扉」3394本目

キアヌ・リーヴスとアル・パチーノの対決。でも妻と二人の場面も多い。最初は童顔の可愛いお嬢ちゃんだと思ったけど、シャーリーズ・セロンじゃないですか!なかなか迫真の演技。

この頃のキアヌ・リーヴスの美しさ。ジョージ・クルーニーみたいな知性派で熱い二枚目とも違うけど、ヴィスコンティに入れ込まれそうな妖精っぽさは無くて、「ビルとテッド」の普通で元気な男の子がそのまま残ってるのが彼っぽさなんだろうな。マトリックス・リザレクションズでも時々少年の頃みたいな表情をしてました。

内容については、この映画って法廷ものサスペンスかと思ったら「ローズマリーの赤ちゃん」なのか「クリスマス・キャロル」なのか?いや、あれだ、えーと(思い出すのに時間がかかる)「アメリカン・サイコ」のようでもある。ほぼ現実っぽくストーリーが進むので、最後の最後にはぐらかされたような気がするけど、闇に落ちたままで終わらなくて良かったという安心感もあります。

見てる間はアル・パチーノの癖の強さも堪能してるんだけど、見終わってみると不思議と彼は印象に残らないですね。意外と面白かったような、だけど人に勧めるほどでもない、という微妙な映画でした。

 

ジョナサン・デイトン 監督「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」3393本目

タイトルは日本で報道されたときには「男女対抗試合」となってたようだ。これだといまどきの洋画として人気出なさそうだから、原題のままにしたんだな…。この試合のとき、私はもう生まれてるし、クリス・エバートあたりから記憶があるのに、ビリー・ジーン・キングのことは全然知らなかった。この映画で取り上げたボビー・リッグスの2試合のほかに、1992年にジミー・コナーズとマルチナ・ナブラチロワも対戦してたのも知らなかった!

監督は「リトル・ミス・サンシャイン」と「ルビー・スパークス」と同じと知ってちょっと安心。悲惨な結末ではなさそうだ…。

エマ・ストーンっていいですね。ちょっとファニー・フェイスで勢いがあって。彼女の夫ラリー(オースティン・ストウェル)はほんとに好青年だし、彼女が恋をする美容師マリリン(アンドレア・ライブズロー)はフェミニンで繊細。対戦相手ボビー・リッグス(スティーヴ・カレル)は軽妙だし、ライバルのマーガレットを演じてるのはジェシカ・マクナミーという女優だけど、マルチナ・ヒンギス(かつての大選手ね)が俳優に転向したのかと思った。私だけか。

実際にボビーが女子選手に戦いを挑んだ(アトラクション的に)ときの試合は「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」と呼ばれたそうだけど、この映画では異性愛と同性愛という意味での性別のコンフリクトもあるんだよな。ここはちょっと予想してませんでした。ビリー・ジーンが実際に同性愛者だったとしても、対戦前から周囲の人がみんな知っていたり、夫婦間でも動揺があったんだな。

彼女には「絶対勝つ」強い思いがあったし、女が男に負けるというあたまがなかった。その後闘い続けて、まだ今78歳だ。この試合を知らなかった私には十分面白かったけど、アメリカなら、家族のうち、じいちゃんばあちゃんだけでなく、とうちゃんかあちゃんも当時テレビを見たかもしれない。アメリカの一般大衆にショックはなかったから、興行収益が伸びなかったのかもなー、なんて思ってしまいました。

 

ハル・アシュビー監督「ザ・ローリングストーンズ レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥゲザー」3392本目

NHKBSでやってたのを見た。1981年の作品ってことは、撮影したのは前年くらいか。映像を見た記憶はないけど、これと同じ構成のライブを録音したカセットテープをよく聴いてたので、細かいところまでよーく記憶してる。

この間見たRCサクセションの1983年のライブも、感傷にひたるどころか、あまりに元気で前向きで、自分の屈託のなかった子ども時代を明るく思い出してしまったんだけど、これも同様。1980年代(初頭)って明るかったんですよ、私の目には。だんだん豊かになっていく、だんだん明るくなっていく、だんだん大人になっていく。(自分がね)

今の自分とまるで違うな、そんなに苦労ばっかりしたっけ?と苦笑してしまう。

不滅のように思えたチャーリー・ワッツもとうとう鬼籍に入り、現役メンバーも80歳前後だ。でもバンドってやっぱり、一番元気で明るくて、不穏の影なんて何もない全盛期を見たいし、覚えていたいもんですね。これも円熟のバンドの全盛期の一つとして、久しぶりに見てみてなんかホッとしました。

大森一樹 監督「ベトナムの風に吹かれて」3391本目

早期退職~貧しいけど楽しい隠居生活…のつもりが、暇すぎて日本語教師の勉強を始めてしまって、今ちょうど教育実習中。お金を取る自信はないので、まずボランティアで教え始めることになったのが、ベトナムから来ている技能実習生の男性。この映画をたまたま見つけて、ベトナムの日本語教師が主役の映画だというので、飛びついて見てみました。

体力も認知能力もカンペキではない高齢の母をいきなり連れてハノイ…かなり無謀だし危なっかしくてハラハラ。でも、囲い込んでまゆの中で大事に守ることだけが愛ではないのかも。若いころから自由気ままなところがあるお母さんだから、連れていけたのかもしれません。松坂慶子のおっとりしたマイペースな感じもぴったりです。

戦争にも日本人父たちにも、日本の技能実習生を受け入れている人たちにも、「どーなのよ?」って言いたくなる場面があるけど、義憤みたいな気持ちでボランティアをするのも、おこがましい。自分だって日本人だし日々お世話になってる。日本に来てくれていることに感謝して、仲良くなりたいっていうワクワク感を持ち続けたい。楽しいと思えなくなったらやめる。

彼らのことや日本語教師のことを知りたくて見たけど、身が引き締まるというか、がんばらなきゃ!という気持ちになりますね…。

 

ガース・ジェニングス 監督「銀河ヒッチハイク・ガイド」3390本目

この原作を読んでたら、映画化されてたことを知ったので、見てみました。マーティン・フリーマンやサム・ロックウェル。ビル・ナイ、マルコビッチ、豪華キャストじゃないですか。アマプラになぜか吹き替え版だけありました。やけに複雑なストーリーなのでその方が良いかも。

冒頭で、この本のキモである「地球で最も賢いほうから2番目がイルカ、人間は3番目」という事実(この本の世界での)が明かされます。そして最終真理の数字も前半でさらっと提示。

素敵な女性は「(500)日のサマー」のズーイー・デシャネル。イメージ通り。一方、重い鬱病のロボットマーヴィンは、C-3POみたいなヒト型をイメージしてたので、ずいぶん可愛いなぁと思いました。(すぐ慣れた)あと、ネズミが逃亡以降ずっと活動してるのが観客にも見えている。複雑な設定なので、それくらいで良いのかもしれません。

本を読んだ後で映画を見てやっとなんとなく全体がわかったかな。わからなくても荒唐無稽で楽しいんだけど、どういう映画だか私には説明できないので、勧めていいかどうかはちょっとわからないのでした。

 

ジェームズ・キーチ 監督「グレン・キャンベル 音楽の奇跡 アルツハイマーと僕」3389本目

これもソフト化をずいぶん長いこと待ってました。(名前だけ知ってて楽曲は全然知らないんだけど)

私の父も2011年のお正月にアルツハイマーが発覚して(その前にも、おかしいな~と思うこともあったので、発症はもっと前だろう)、2013年に亡くなったんだけど、「だいぶ忘れる」「覚えない」以外は前のままだった。しばらく会わないうちに私が誰かわからなくなるだろうから、会いに行くたびに自分から名乗ったっけ。性格も、昔の思い出も、身に着けた知識や技能も、何も変わらない。グレン・キャンベルの場合、歌もギターも素晴らしいけど、今日やるライブとかが一番まわりの人が苦労する部分だ。奥さんも娘さんも、ミュージシャンたちも、本当によくサポートしてるなと思います。自分の家族のことを重ねて見てるわけじゃないけど、”それでも歌っている”彼を見ていると嬉しくて、それでも2017年に亡くなったと聞くと、もう完全にいなくなってしまったことが悲しくなる。

周りの人たちを明るい気持ちにしてきた人がいちばん偉い、と思う。貧しい人を助ける、とかも当然大事だし、それも偉いことだけど、その人を取り囲む人たちにどういう価値のある一生だったか?と考える。なんかしんみりするけど、50年後には私たちもたいてい彼と同じ病気になったり、ならなかったりして、どっちにしても、もうこの世にいないのだ。

これは、音楽の映画でも病気の映画でもなくて、音楽を愛した男と、彼を愛した人たち、家族とスタッフと大勢のファンたちの記録。

「大往生」を遂げるには、大きな人間でいないとなぁ、と思います。すごく良い映画でした。