映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

テレンス・ヤング監督「007 サンダーボール作戦」3477本目

これもさっき見た「ゴールドフィンガー」同様、昔のボンドカーが見たくて。

監督が違うと、最初からなんか感触が違うな・・・。こっちのほうが昔の日本のドラマ、キーハンターとかみたいな粘っこさがある。その一方で「ゴールドフィンガー」や最近の作品みたいに、大きな世界観をでっちあげてぐいぐい引きずり込んでいく勢いがなくて、上品な室内劇みたいになってる。

これは1965年の作品。で、悪役はこんどはイタリア系。去年は日独と闘ったから今年は伊か・・・。

ボンドがゴールドフィンガーでもこの映画でも「ドンペリ」を注文するのだ。日本の小僧たちがこれを見て、「そうかドンペリをばんばん注文するのがカッコいいのか」と認識し、その息子世代にそれが伝わったんだろうか。

この作品は海中の撮影が多いんだな。これが目玉か。撮影、大変だっただろうな。マウスピースが外れただけで死ぬっていう環境の闘い、なんだか息が詰まる。ただ、当然スピードは緩慢になる。今は宇宙空間でこのくらいの戦いを撮れる時代だと思うと、技術の発達ってすごい。

 

ガイ・ハミルトン監督「007 ゴールドフィンガー」3476本目

仕事仲間と話してた時にボンドカーの話題になって、アストンマーティン製の初期タイプのことがよくわかる作品として、これが見てみたくなりました。過去に何回も見てるけど、意外と楽しめますね。

1964年の作品・・・この頃の男性映画(戦争やスパイや金や暴力といった、「青年マンガ」によく出てくるテーマの作品)の女性の扱いって、一度寝たら殺される、って感じ。これ、男女が逆だと当時は相当抵抗があっただろうな。

プッシー・ガロアという名のクールな敵方美女も登場するけど、名前が、、、しかし演じてるオナー・ブラックマン、気が強そうで素敵ですね。

ハロルド坂田演じるオッドジョブというキャラクターも印象的。オッドジョブっていう映像制作会社があったけど語源はこれかな。

007シリーズに限らず、スパイ映画の骨格はこのときから変わってないなー。今回の悪役ゴールドフィンガーはずいぶん弱そうな相手だけど、トランプでインチキをしてる場面から始まるくらい、お金への関心が強いあたり、ゴールドマン・サックスのゴールドマン氏の名前をもじったのかなと思ったりする。(実際のゴールドマン氏がどんな人か知らないけど、ユダヤ系ドイツ人らしい。ゴールドフィンガー氏もドイツ系の俳優が演じてるんだな)

オッドジョブに限らず、東アジア系の手下がゴールドフィンガーにはたくさんいる。戦前はペーター・ローレが日本人探偵を演じたりしたけど、ドイツと東アジア特に日本のイメージはこんなふうに変わったわけだ。

2016年に見たときよりも、見えてくるものがあるなぁ。この6年で2000本は見たもんな、映画・・・。

 

エドガー・ライト監督「スパークス・ブラザーズ」3475本目

今夜ひさびさに、華々しくも、にぎにぎしくも、スパークスのライブを見に行くという折に、U-NEXTで見られるようになったので、再見します。

兄弟の両親のことや、小さいころの写真、バンドを始めた初期のこととか、衝撃だったなぁ・・・。インタビューを受けたミュージシャンたちがみんな言ってるように、彼らは異星人で、人間の親がいると思ってなかったから・・・

とか言ってますが、最初からフーやキンクスが好きだったというのは正に私と同じで、だからこそスパークスは私のAll time best bandとして君臨し続けてるわけだな。

ラッセルがUCLA(彼らがサンタモニカ出身でUCLAを出てる自体が驚異)で作った短いフィルムが挿入されてるのも奇跡。これを自宅で巻き戻しながら見られる幸せ!

1979年からずっとファンで、アルバムは全部(アネットだけまだ買ってないな)持ってるし、来日公演はフェス以外全部行ってきました。のこりの人生で彼らのアルバムを全部聞けるかな、とか考える。エドガー・ライトやレオス・カラックスの作品を全部見られるかな、とか思うのと同じ。高校いって大学いって就職して、なんどか転職して、特に何物でもない大人になって、だんだん衰えていく間、スパークスはずっと音楽と誠実に格闘し続けてきたのだ。これからも一緒に行きていこう。一緒にジジババになろう。

さて、そろそろ出かけよう。今夜また彼らに会える。

 

フリッツ・ラング監督「地獄への逆襲」3474本目

1940年の作品。原題は単に「フランク・ジェイムズの帰還」なので、また大きく出た邦題だけど、1939年の「地獄への道(監督はヘンリー・キング)」の続編らしい。最初のほうに、幌に「悔い改めよ」と書いた馬車で宣教師があらわれる、象徴的な場面があって、みょうに邦題が生きてるのが不思議。この作品から、カラーです!

主役は悪名高いジェシー・ジェイムズの兄であるフランク・ジェイムズ(ヘンリー・フォンダ)。ヘンリー・フォンダってほんと、息子ピーターより娘ジェーンにそっくりで、あんまり西部の荒くれ者に見えないけど、本物のジェシー&フランク・ジェイムズの写真を見たら、まるでIT社長みたいにすらっとしてるから、これがリアルなのかも。

レインコートみたいに追っ手をコートごと壁に吊るすのって、マルクスブラザーズみたいだな。そういえば同行してる少年クレム役のジャッキー・クーパー(このとき18歳)ってちょっとハーポに似てる。

駆け出し新聞記者で社長令嬢のエレノア(ジーン・ティアニー)、可愛い。元気で生意気ですごく可愛い女の子、っていうアメリカ映画のひとつの伝統(シン・ゴジラで石原さとみが挑戦したやつ)だと思うけど、戦前からこんなにキラキラしてたんだなぁ。

それにしても西部劇の続編をフリッツ・ラングが撮るとは、割り切ったもんだ。と思って「映画監督に著作権はない」を見たら、「面白そうだと思ったんだ。射手座の私は向こう見ずで探求心が強く冒険好きだそうだ」などとうそぶいている。他には初めてのカラー作品での撮影技術についてコメントしてるけど、この映画に割いたページ数は短かったです。

地獄への逆襲(字幕版)

地獄への逆襲(字幕版)

  • ヘンリー・フォンダ
Amazon

ふらnふらn

フリッツ・ラング監督「真人間」3473本目

強烈にアクの強いタイトルだけど、原題は「You and Me」と強烈にシンプル(笑)。でもストーリーを知ると、「お互い様」という意味に見えてきて、含蓄のある原題でもあります。これも主役はか弱げなシルヴィア・シドニー。(この人88歳まで生きてティム・バートンの映画にも出たんだそうな。ティム・バートン、好きそう)

シルヴィア・シドニーって、アマンダ・セイフライドにちょっと似てるかな。大家の夫婦に実の娘みたいに可愛がられる、天真爛漫な女性。

二人の「新婚旅行」が、各国料理食べ歩きってのが、なんとも可愛い。ヘレン(シルヴィア・シドニー)がイタリア料理店でスパゲティの食べ方を知らず、細かく麺を切って食べて注意されるのも可愛い。アメリカ人にもそんな時代があったんだなぁ。。。

<以下ネタバレあります>

天使のようなヘレンも”前科者”だというのがピンとこなくて、気づくのに時間がかかってしまった。彼女の罪状は何だったんだろう?(言ってたかもしれないけど)そのことを知った彼は彼女を赦さない(彼女は彼を受け入れてるのに)というのが、自分から告白しなかったという事情があるにしろ、なんとも時代がかかっていますね・・・。

そして大団円に向けて、清純きわまりないヘレンが、悪党の親玉がどれほどピンハネするか、クマちゃんとアヒルちゃんで飾った黒板で、幼稚園の先生みたいに計算してみせるくだり。天使だったシルヴィア・シドニーが賢い幼稚園の先生かマフィアの親玉?に見えてきます。まるで白雪姫と大勢の小人ギャングたちです。彼女の演技力も大したものだけど、こういうヒネリが・・・。そういえば冒頭にのんきな歌もしばらく流れてた。Eテレ幼児番組かよ!

「映画監督に著作権はない」でラングはこの映画でコミカルに教育を行うことを意図したと言ってます。(マジEテレだった)シェイクスピアの悲劇にも必ず喜劇的側面があり、自分もそれを目指した、と。意外だなぁ。

この作品、あまりにもあまりにハッピーエンドすぎて脱力したけど、ヘレン先生の「わるいことはやめよう」教室にウケたので、やっぱり好きです。

真人間(字幕版)

真人間(字幕版)

  • シルヴィア・シドニー
Amazon

 

フリッツ・ラング監督「激怒」3472本目

1936年、ラング監督のアメリカ第一作。彼の作品は、ドイツのもアメリカのも、カメラワークにキレがあって、ヒッチコックの胃に来るストレスとは違うスリルを感じさせてくれるから好きです。わくわく。

シルヴィア・シドニーは「暗黒街の弾痕」と「サボタージュ」に出てたのか。可愛らしく弱弱しげな容貌でありながら、気丈にふるまう女性をいつも演じている感じ。スペンサー・トレイシーはこのとき36歳、私が見たことのある彼の作品よりずっと古い、かなり若いころの作品です。

母の結婚指輪の内側の名前を彫り足して彼にプレゼントする場面があります。「おみやげ」「記念品」のことをmementoと言うらしいけど、momentumとmementoを混同して、彼はmementumとこの語をつづったので、たとえ新聞の文字の切り貼りでも、これが彼だと彼女にはわかってしまう。

スペンサー・トレイシーが、不器用な好青年から復讐に燃える男に変わっていき、”激怒”を胸に抱えたまま出頭する演技が素晴らしいです。

これってUSの国会議事堂襲撃事件とか思い出しますね。彼らは義憤に駆られたというより、日ごろの不満のはけ口をそこに見出しただけ。放火までしない例ならそんじょそこらにうじゃうじゃある。この映画が普遍的なのが悲しい。この映画では22人が特定され、映像まで残ってる。でもジョーは生きていた。彼の無実がこの時点で確定していたから、彼がボールを持っている状態になってるわけです。ここがすごい。可哀そうな無実の男、というより、復讐で心が燃え上がっている男はどう判断するか?というテーマなのがすごいよ。だからフリッツ・ラングが好きなのだ。

(追記)

リンチで「わらの犬」、犬の復讐で「ジョン・ウィック」を思い出しつつ、今ちょうど「映画監督に著作権はない」を読みながら1本ずつ見ているのでラング自身の言葉を参照してます。これはマンキーウィッツにとっても初の作品だったんだな。そして監督は「最後のキスシーンはひどかった。男の心情の吐露で終わるべきだった」という。確かにあの場面だけメロドラマっぽかったな。ラングが最初、黒人男性が白人女性をレイプしてリンチに遭う話を考えたとか、黒人がリンチの話をラジオで聞いている場面をいくつか入れたけど全部カットされたなどの逸話も。でもハリウッド的修正が入ったことはマイナスだけでもなくて、主役を弁護士でなく「ジョン・ドウ」、ごく普通の男にしたのは正解だったと思います。

激怒 [DVD]

激怒 [DVD]

  • スペンサー・トレイシー
Amazon

 

細田守監督「竜とそばかすの姫」3471本目

もののけ姫みたいな世界を予想してたので、いきなり仮想空間でびっくり。”姫”の”そばかす”は、AIで生成されたモデルだったってことなのね。ベルの歌声は、合唱団の超絶うまいソリストみたいに、お行儀がよくて整ってる感じがする。現実世界ではめちゃくちゃ内気な彼女の歌声が、一夜にして世界じゅうで飛び交うのって、「ヒャダX体育のワンルームミュージック」などを見るようになった私には(TikTokとかやってないけど)リアルに感じられる。

ベル/すずの声と歌をやっている中村佳穂という人は、すごい声の持ち主だな。普通っぽいというより、ベルのように感情が高ぶった話し方とかしない人なんじゃないかな、いまひとつしっくりこないところがあった。ドラマにするとどうしても主人公の気質は激しくなりがち。

一番ぐっときたのは、バーチャル世界のなかで”大衆”だった人たちが歌いだして、彼女をあがめていた人もばかにしていた人も、声を一つにしたところだな。合唱っていいな、と思った。今は人の考えが細分化して、自分と同じだと思える人がものすごく少なくなってる時代だと思う。考えが何であれ、理解もなにもしなくていいから、ただ声を合わせて歌うのって、コミュニティが力を取り戻す上で得がたいものなんじゃないか。

強い歌の力をもってしても、たとえば悪霊を追い払えるのか、不運を払しょくできるのか、というのは別の次元の問題だと思っていて、子どもが子どもを大人から救いに行くのはちょっとむごすぎると思う。前を向き続けることは大事だけど、全戦全勝できるという幻想を持たせてはいけないのだ。厳しいのはこれから。

一番の違和感は、やっぱり、主人公の声優自身が歌以外のところで役になり切れてないところだな。一体感があれば、いいとか悪いとか、映画全体についてとやかく言いやすいんだけど、評価するのが難しい作品でした。