映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

細田守監督「竜とそばかすの姫」3471本目

もののけ姫みたいな世界を予想してたので、いきなり仮想空間でびっくり。”姫”の”そばかす”は、AIで生成されたモデルだったってことなのね。ベルの歌声は、合唱団の超絶うまいソリストみたいに、お行儀がよくて整ってる感じがする。現実世界ではめちゃくちゃ内気な彼女の歌声が、一夜にして世界じゅうで飛び交うのって、「ヒャダX体育のワンルームミュージック」などを見るようになった私には(TikTokとかやってないけど)リアルに感じられる。

ベル/すずの声と歌をやっている中村佳穂という人は、すごい声の持ち主だな。普通っぽいというより、ベルのように感情が高ぶった話し方とかしない人なんじゃないかな、いまひとつしっくりこないところがあった。ドラマにするとどうしても主人公の気質は激しくなりがち。

一番ぐっときたのは、バーチャル世界のなかで”大衆”だった人たちが歌いだして、彼女をあがめていた人もばかにしていた人も、声を一つにしたところだな。合唱っていいな、と思った。今は人の考えが細分化して、自分と同じだと思える人がものすごく少なくなってる時代だと思う。考えが何であれ、理解もなにもしなくていいから、ただ声を合わせて歌うのって、コミュニティが力を取り戻す上で得がたいものなんじゃないか。

強い歌の力をもってしても、たとえば悪霊を追い払えるのか、不運を払しょくできるのか、というのは別の次元の問題だと思っていて、子どもが子どもを大人から救いに行くのはちょっとむごすぎると思う。前を向き続けることは大事だけど、全戦全勝できるという幻想を持たせてはいけないのだ。厳しいのはこれから。

一番の違和感は、やっぱり、主人公の声優自身が歌以外のところで役になり切れてないところだな。一体感があれば、いいとか悪いとか、映画全体についてとやかく言いやすいんだけど、評価するのが難しい作品でした。