映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

林海象監督「BOLT」3580本目

林海象監督の映画って、VODやDVDレンタルで見られないものが多い。「濱マイク」が昔大好きで、テレビシリーズはDVDでレンタルして何度も見たけど、映画化作品は見逃したものもけっこうある・・・。

監督が事故で大けがをしてずっと療養してたことも知らなかったんだけど、「復活祭」というイベントがあるとのことで、昨日私も参加して2本見てきました。

最初の1本が「BOLT」。百万ボルト、みたいなサイバーパンク的な作品かと勝手に思ってたら全然違った。①放射能が漏れ続けるボルトを締めに行く命がけの男たちと、②「特殊清掃」に従事する男が見た幻、③謎の修理工場に現れる女、のドラマでした。

①は熱い人間愛もあるんだけど、何より映像が妙にリアルで無機的で最高でしたね。やっぱり林監督だ!このロケは高松市美術館で行われたヤノベケンジ展「シネマタイズ」をそのまま使って行われたんですね。前知識なしで見たので、(これどうやって撮ったんだろう・・・ハリウッドじゃあるまいし、全部セット組んだらとんでもなくお金かかるだろうな・・・)と思ってたらそんな仕掛けがありました。しかし、若者チームを行かせまいとする中年チームの佐野史郎、永瀬正敏、なんかちょっと疲れて見えて現役感が感じられなかったなぁ・・・。

②、③もストーリーはすごく意外とかではないんだけど、とにかく絵作りが最高ですよね。美術作品として心を持っていかれる映画、というジャンルがあると思っていて、やっぱり林作品は素晴らしいのでした。

ダニエル・ロアー 監督「ナワリヌイ」3579本目

ロシアの人たちってほんと面白い・・・って最近も友達と話したばかり。ドストエフスキーからは高い知性と思いこみの激しすぎる性格、さまざまな歴史書では大ざっぱな、雑といってもいいような行いを見て、バレエやクラシック音楽からは至高の繊細さを感じたのに、実際に行ったシベリア諸都市で会った人たちからは意外にも「ソビエト時代のほうが良かった」という言葉を聞きました。で、結局のところ「ロシアって・・・ほんとわからない。面白い。」という結論。なにかひどく人間味があふれ出している、だけど謎に危ない。

関係当局の人間が自宅にかかってきた電話でペラペラと事件の裏をしゃべってしまう、なんてのはまさに、私のイメージではロシア人がやっちまいそうなことだなぁ。それが事実だなんて認めるわけもないけど、CIAの仕業だと言われて信じる人がいるんだろうか。でもこの映画がアメリカで制作されてることから、そう連想する人がいてもおかしくはないと思います。

ナワリヌイとゼレンスキーの共通点もたくさんありそうだ。命を張ってわざわざロシアに戻るというヒロイズムを見ると、この人は美しく散ることを望んでるんだろうか、とさえ思います。アメリカ人にも英雄志向はあるけど、ここまでやることは自己犠牲を超えた自己破壊願望か、または、自分がロシアを救えるという、現状を見るとちょっと本気だと思えないくらいの大きな夢を大真面目に広げているのか。

そんな彼がちょっとまぶしく見えたりもします。だって日本ではみんなソンタクばかりして、大物も小物もみんな保身ばっかりしてるんだもん・・・。日本にももっと、計算なしでバカをやれる人が必要だけど、多分世に出る前につぶされてしまうんだろうな。

ナワリヌイ(字幕版)

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スコット・クーパー監督「アントラーズ」3578本目<KINENOTE未掲載>

ギレルモ・デル・トロが製作している作品って、どれも恐ろしくて哀しくて愛おしいという印象。この映画にもそういう部分があります。

他の作品もだけど、なかなかエグい。かなり猟奇的。親子関係が壊れている、という精神的な部分を超えて、伝説の鬼(のようなものになってしまった人間)が現れて暴れます。その鬼性は遺伝?なんらかの形で伝染するもの?

そして、鬼となってしまった人間は退治されるしかない・・・。という、やっぱり切ないお話でした。

教師と子どもの関係がもうちょっと深まったりすればよかったのにな、という気持ちもちょっと残りました。

フランク・キャプラ監督「オペラ・ハット」3577本目

ある日突然、大富豪の遺産を相続したディーズは、最近の映画にはまるで出てこない、竹を割ったようなストレートな男。自分の善悪の物差しが一本すっと通っていて、判断したことはすぐにその場で口に出す。こんな甥がいれば私も遺産を残したいです。(※遺産があれば)

キャプラ作品は本当に、セリフが最高に面白い。特に、酩酊状態で帰宅した翌朝、彼が”忠実な召使い”と交わす、木で鼻をくくったような会話。それから、この頃の映画って主役が憎たらしい奴をスコーンと殴り倒したり、ヒロインがトップニュースのために芝居を打ったりという悪いこともやるのが、今見るとけっこう新鮮。どちらも「根はいいやつで、最後にはお互いに心を開く」という大きな展開があって大団円になるのですが、今って「いや、そうは言っても」みたいな、うがった見方がわりと大勢になってしまって、素直に映画を楽しむのって難しくなってしまった気もします。この頃は、作り手が観客の受け止める力、映画の真意を理解する力を、今より信用してたんじゃないかな。

1936年のアメリカってそういう世の中だったんだな・・・。

オペラハット(字幕版)

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ロバート・バドロー 監督「ストックホルム・ケース」3576本目

人質に取られて犯人を好きになる話、それ自体は既視感がある。「悪人」とか、。そして、この映画は「ストックホルム・ケース」という事象そのものを、すごくまっすぐに真ん中に取り上げた作品だなと思う。熱くてちょっと抜けててどこか憎めない犯人にイーサン・ホーク、外国にもこんなイメージ通りの真面目な銀行員がいるのか、と思うような人質にノオミ・ラパス、コーエン兄弟の映画に犯人役で出ててもおかしくないような、もう一人の犯人がマーク・ストロング。という素晴らしくフィットしたキャスティング。よくできた作品だなぁと思うけど、驚きや意外性はあんまりなかったかな、と思いました。

 

ジェームズ・ブリッジス 監督「チャイナ・シンドローム」3575本目

1979年のアメリカ映画。アメリカは開発当初から現在に至るまで、原子力に一番詳しい国ではあるけど、こんなに昔に、原発事故をここまで正確に予測した映画があったなんて驚く。正確さにも驚くけど、これを世に出す勇気もすごい。こういう映画を作り続けられるかぎり、アメリカって国はやっぱり強いと思う。全体的におおざっぱな国や、目の前のことには緻密だけど自然や”自分が予期しなかったこと”のような責任外のことには無頓着な国で、大事故が実際に起こるんだろうか。

ジェーン・フォンダが、”かわいこちゃん”と”社会派”のはざまのような役柄。こういう役、やりたったんだろうなぁ。(ロジェ・ヴァディムとは合わなくなるはずだ)ジャック・レモンは若い頃のスクリューボールコメディ(だっけ?時代が違う?)より「ミッシング」とかの癖があって重厚な役の印象が強くて、この映画でもど真ん中でがっちりと作品を支えて、持たせています。ジェーン・フォンダ記者も、(プロデューサーでもあるけど)マイケル・ダグラスのカメラマンも、事故の外側でくるくる動き回っている役割でしかないから。

歴史から人は学ばない、なぜなら生々しく記憶できる世代はすぐにいなくなってしまうから。映画からも学ばない。当事者に近い人ほど、絵空事だと思って見ていたのかもしれない。この映画を高く評価することは、その後の人間のおろかさを際立たせてしまうことでもあるように思えます。

 

ハル・ハートリー監督「ネッド・ライフル」3574本目

サイモンが年とった。1997年の「ヘンリー・フール」から17年後の2014年の作品だからな。

ヘンリーとフェイの息子ネッドが、馴染みの牧師に感化されて敬虔に生きようとする、というのも、どこか想像通りでみょうに安心感がある。ネッドにつきまとう、賢そうだけどちょっと壊れててちょっとエロい女性スーザンが、この3部作完結作の最重要人物。

愛と敵意は紙一重。表情に感情が出てこないネッドと違って、スーザンは体全体で演技します。この女優さん、オーブリー・プラザっていうのか。印象強いなぁ。この個性を最大に生かせるような作品がそうあると思えない・・・あるとしたらホラーか・・・「チャイルドプレイ」に出てるようだけど、あの映画ではどうだったんだろう。

13歳でおっさんと恋をして、一生追っかけ続けるという人生も、あるのかもなぁと妙に納得しました。

ネッド・ライフル

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