映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロマン・ポランスキー監督「チャイナタウン」38

1974年作品。

ジャック・ニコルソン演じる私立探偵のところに、ある女性が夫の浮気調査の依頼にやってくる。夫はダムの放水流域について一言持っている水道局長。浮気現場を撮影した写真が知らないうちに新聞に漏れて大騒ぎになった後、依頼者が実は妻とは別人だったことがわかり、私立探偵は大きな陰謀に巻き込まれていく。

デジャヴュかと思うほど、「ゴーストライター」と相似した映画なんだけど、結末へと向かう流れが違います。主人公のキャラクターはこっちの方(ジャック・ニコルソン)が図太くてゴーストライターの方(ユアン・マグレガー)がやわらかい。ゴーストライターの方が、世界は一見平和そうに見えても以前より複雑になっていて、もっと救いがない。…一人の監督が、一つのテーマを繰り返し、違うプレゼンテーションで見せ続けている気がします。

私の中のポランスキー監督のイメージを形作っている映画は、たまたま過去に見た「テス」や「ローズマリーの赤ちゃん」だったので、”後味が悪い”だけじゃなく時代がかってマニアックな映画を撮る監督というイメージでした。でもこの2本は、主人公の一人称でなく客観的な第三者視点で撮られていたら刑事コロンボと間違いそうな、心理サスペンス映画なのです。周囲の人がみんな疑わしくて、心理戦の末にたどり着いた意外な人物が本当の黒幕…というような。(ミステリー系の映画の中でも、その手の心理サスペンスは、お茶の間で人気の作品でもけっこう後味の悪いものが多い。と思います)「ゴーストライター」を見終わったときに、もしかしたらこの監督は人間の複雑さを描きたい人なのかもという予感がかすかにしたのですが、それより40年近く前に撮られたこの映画でその思いは強くなりました。

ちなみにこの映画の大部分は舞台が「チャイナタウン」ではありません。北欧系アメリカ人のポランスキー監督にとっては、チャイナタウンと聞くと陰謀が渦巻いていてお金で何でも動くのかも、というミステリアスなイメージがあるのかもしれませんが、近隣諸国住民がイメージするもちょっとリアルなチャイナタウンとは違う気がして、日本人的にはちょっと不思議なタイトルだなーと思いました。

あと、ジャックニコルソンって目が険しいまま口が笑ってて、本心どっちなんだろうと何度か思いました。以上。