映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

原一男監督「ゆきゆきて、神軍」71

1987年公開作品。

なんでこんな日にこんな映画を見てしまったんだろう。
善と悪と運命と人間と、いろいろな思いが渦巻いて混乱しています。

とにかく強烈な実録映画でした。あのマイケル・ムーアが史上最強のドキュメンタリーと評したのも無理はありません。

実在の思想家、というか活動家であった奥崎謙三という人を、カメラを持ってそのまま追いかけた映画です。この人自身があまりにも過激な思想家、活動家なのでそのクレイジーぶりがおかしく、怖くもあるのですが、根本の考えは戦場での真実を暴こうとするもので、理解できるところもあります。リアルに仲間を殺された本物の元軍人である奥崎氏は、1920年生まれだから公開当時67歳。彼が訪ね歩く上官たちは当時もう70〜80代でしょうか。撮影されたまま彼は元上官に殴る蹴るの暴行を加えるし、上官の息子に発砲して逮捕されるし、上官たちは脅かされて当時の身の毛もよだつ状況を洗いざらい話していきます。日本軍内で本当にそんなことまで??と思いますが、極限状態で人は実際にそうなってしまうのでしょう。ここで詳しくは書きませんが。

この映画の中で暴かれている戦争の真実は、たとえば「日本海軍400時間の証言」にも通じる人間のおろかしさ。ただ、この映画はあまりにも乾いた日常的な現実の記録であって、効果音も台本もないし構成もほとんどただ時系列なので、感情をあおられることがない分、こっけいな感じもあります。わかりづらくもあります。こういう裸の映画ばかりだと見る方の努力が必要だけど、たまには良いです。生の映像や事実に力があれば、これだけでいい。

かなり勇気が必要だったけど、見てみてよかったし、撮ってくれてありがとうという気持ちです。以上。