映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

篠田正浩監督「はなれ瞽女おりん」82

1977年作品。

いい映画でした。
始まってからしばらくは、見てるのが切なくてたまりません。芸は一流だし、前向きに毎日歩いて行く彼女たちですが、外から見ている私たちには小さく寂しく見えるのです。

「ごぜ」というのは盲目の女性旅芸人。同じ立場の女たちが集まってひっそりと暮らしています。田舎の家々に呼んでもらっては、三味線を弾いて歌を歌っていくらかのお金をもらいます。弱い女たちが固まって生きていくために、男を知ることはご法度。とある宴席で酒に酔って男に夜這いをされた「おりん」はごぜ衆を離れて一人で旅立つ。それが「はなれ瞽女」。

哀れな境遇なおりんですが、映画のなかでおりんはカラっと明るく歌い、「男に抱かれてみたかったんだぁー」と言い、通りすがりの男に「帰らねえでくだせえ」とすがります。だけど岩下志麻だからちっとも下品になりません。なんとも清潔であかるく乾いた女性です。このあたりから見ているのが楽になってきます。

おりんは旅の途中で出会った男(原田芳雄)と合流します。彼はずっとおりんと行動を共にしますが、一切彼女に手を触れようとしません。

ミニマルな生活、って感じだなぁ。
夜這いってのは強姦なんだろうか。瞽女って障害者がだれからも守られずに、固まって自分たちだけで歩いて生きていくなんて大丈夫なんだろうか。…今の時代に生まれた自分の価値観がぐらぐらしてきます。

ところで。この映画の岩下志麻がとてもいいです。
強くて前向きな性格をもった女優さんだからか、ちょっとやそっとの辛い境遇にあっても、イヤなくじけかたをしない。変に汚れることもない。最後の最後まで、けろっとした顔をして、ひとりでどんどん歩いて行きます。男に抱かれて、大切な人を思って、懸命に歩いていきます。

この人は、下町の太陽だったのだわ…。
男たちもすてきです。原田芳雄の野性味、彼もまた澄み切ったような愛情の強さを感じさせます。憲兵小林薫がつめたくてまたいい(新人だったらしい)。ごぜのお母さん役の奈良岡朋子のやさしさと切なさもいい。

なかなか今この映画をあえて見ようという人は少ないと思うけど、見てよかったです。以上。