映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

タル・ベーラ監督「ニーチェの馬」487本目

じゃがいもばかりをゆでて食べるところを見れば、“赤貧”だということがわかる。
でも父はよく見るとギリシャ彫刻みたいに美しいし、石造りの家は紙と木でできた日本の家よりしっかりしてる。
彼らは少し前まで、もう少しいい暮らしをしてたんじゃないのか?

しばらく洗っていない髪、埃っぽい衣服、身の回りのこまごまとしたことをやる毎日。
強風が何日も吹きすさぶ。
馬も食べなくなるし、人間も食べなくなる。
井戸が涸れて、火種が尽きる。
それでも朝がくれば少しは明るくなるだろうに。
どんな風でも雨でも止まないものはないのに。
お酒を無心しにくる隣人も存在するし、旅人の一団が通りかかったりもするけど、この石の家だけは時間が止まったみたいです。
この娘にも、「がんばって働けば生活が楽になる」とか「いつか家を出て幸せな結婚をする」とか思った時期があった、のでしょうか。

普段の生活では「あきらめちゃダメだよ!もうすこしがんばってみようよ!」とか言ってることが多い気がする私ですが、ふしぎとこの親子の諦観にすっと共感する部分もあります。
彼ら自身が、今のこの生活を誰のせいにもしていないところがいい。
ただ生きて、それが終わったらただ死ぬ。
人間ってそういうものなのかもしれません。
家でだらだら家事の合間に見たけど、ちゃんと何か伝わってきました。うん。