映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マット・ロス 監督「はじまりへの旅」3592本目

森の中で子どもたちに独自の英才教育をほどこしてきた家族の生活が、母の入院・死をきっかけに崩れ始める。彼らはこれからどうやって生きていくのか?という作品。

いろんな面から見てみたくなる。

子どもの教育は、優れている点を最高に伸ばすには、こういう自由のなかで人と比べずに学ばせると学習効果が出やすそうだ。この子たちはこのあと社会とのかかわりが増えていくと他の普通の人たちを見て「みんな、なんでこんなこともできないの?」と思うだろう。

これから社会っていう一様でない人たちと出会ったとき、彼らは自分たちがマイノリティだと認識せざるを得ないし、嫌がらせを受けても、嫌がらせするほうの人たちが理解できずに混乱するかもしれない。

このような生活や教育をどう見るか?という点は、「ノマドランド」同様、見る人がどういう生活をしていて、どういう生活に憧れてきたかによる。ノマドにどんどん近づきつつある私は、あの映画では主役にめちゃくちゃ移入したけど、この映画では「自分ならこの生活だと小さい頃に病死したかもしれないし、こんなに強くはなれなかっただろうな」と思う。今でも十分浮いてるし、むしろどうすればもっと目立たない好感度の高い大人になれただろうと思ってるので、人生の初期にこれほど外れていくことにはあまり憧れない。

俳優はみんなとても良かった。特に厳格な妻の父を演じたフランク・ランジェラ、取りつく島のない鉄壁のような男の存在感がすごかった。ヴィゴ・モーテンセンはいつになくシリアス。大学進学を悩む長男を演じたジョージ・マッケイは、もの言いたげな表情に見覚えがあると思ったら1917年の命をかけた伝令じゃないですか。さりげない演技力がすごいです。

ちょっと様式的すぎてリアルっぽさが少なかった気はするなぁ。野山をかけめぐっていたのに日焼けしてるのはパパだけで、みんな生っちろいし、まだ学習途上であるはずのちっちゃい子たちまでいくつもの言語が習得済だったりするのが、問題提起する社会的作品というよりファンタジーに寄ってる。きれいでポイントがわかりやすい。(それが嫌ならドキュメンタリーだけ見ろよ、私)いやきっと監督はポイントを絞りたかったんだろう。実際の社会が複雑だということは誰でもわかってるけど、自分はここが気になる、ここに注目してほしい、というのが比較的はっきりしている作品だと思いました。

はじまりへの旅(字幕版)

はじまりへの旅(字幕版)

  • ヴィゴ・モーテンセン
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