映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデ 監督「マクナイーマ」2003本目

1969年にブラジルでこんな映画が作られてたとは!

欧米が知らなかった民族が初めて発見されたかのような衝撃です。老婆から生まれた、大人の男の姿をした神話的子ども「マクナイーマ」、強いていえば昔「ひょうきん族」に出てた「アダモちゃん」のようです。

あまりに手がかりがないのでググりまくったら、原作の情報が見つかりました。ドイツ人探検家がアマゾン川オリノコ川先住民族の民話を記録したものをベースに、マリオ・デ・アンドラーテというブラジルの詩人が1928年に書いたものらしい。 日本語訳が3バージョンも売られてる。急に文学の様相を帯びてきました。英雄を自称するけど何もしないで遊んでばかりいるこの主人公はラブレーのガルガンチュア的な”英雄”だという言及もあったのですが、こんな反・英雄の年代記が書かれた1928年のブラジルはどんな国だったんでしょう。ブラジルはポルトガルから早くも1822年には独立を遂げていたけど、第一次大戦後の1920年代には国内で、コーヒー生産者の支配による共和制に近代化をもたらそうとする「テネンテ革命」というのが起こっていたらしい。先住民や農民たちが真面目に努力しても意味がない=何もしない白人の英雄、という強烈な皮肉に結実したってことなんでしょうかね。映画化された1969年は、軍事政権の勃興と急激な経済成長の時代らしい。アメリカとの繋がりが強かった時代でもあったようです。当時のアメリカ西海岸フラワームーブメントまんまのサイケなファッションは、アメリカからの影響をうかがわせます。

南米の文学や映画といえば、熱すぎる情感と諦めたような人間臭さが感じられる作品が多くて好きなんだけど、この映画のおかしさは、チリの国境近くで生まれたロシア系ユダヤ人というホドロフスキーの”辺境感”に近い気もします。なんか最後、文学批評みたいな真面目な文章になってしまった!

マクナイーマ 【デジタルリマスター版】 [DVD]

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