映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フランソワ・オゾン監督「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」2756本目

この映画は実話に基づいていて、幼い男の子たちに性的虐待を繰り返してきた神父やその監督者達に対する裁判がいくつも行われている最中の2019年にこの映画は最初に公開されたとのこと。映画の終わりに字幕で2020年現在の控訴審の判決まで紹介されていたのは、日本語版で追加された情報だったんですね。ちなみにその判決とは、小児虐待の神父は2020年3月に5年間の実刑。神父の上長の立場の枢機卿は知っていたのに対策を取らなかったことに対して、2019年3月に執行猶予付きの懲役6か月の判決を受けたのに、2020年1月に控訴審で無罪の判決となったそうです。

映画の主役が次々に入れ替わる構成。告発に参加したさまざまな男性たちの生活に寄り添って、それぞれの葛藤、家族、決意、といったことを丁寧に描きます。最初に声を上げた人(アレクサンドル、メルヴィル・プポー。「わたしはロランス」だ)は偉大だけど、事件を知って告発をして被害者の会を立ち上げた人(フランソワ、ドゥニ・メノーシェ)も偉大だ。今も薬で安定させる必要のあるトラウマを抱えている彼(エマニュエル、スワン・アルロー)も偉大だ。誰かひとりが主役ではない、と監督は言いたいんだろうと思います。

フランソワが牧師から呼び出される回想場面で、彼の前にいつも連れて行かれていた少し大きな子がいました。フランソワはそれを羨んでいたので、やがて牧師から唇にキスをされたときに誇らしげに親に話したのかもしれない。食事の席で「みんな弟のことばっかり、俺のことなどどうでもいいのか」とキレた彼の兄は被害者ではなかったのか。気になりました。

驚愕の実話ですが、オーストラリアでユダヤ教の女性司祭が少女たちに長年性的虐待をしてきたとか、こういう話って気味悪いくらいたくさんあります。変態教師はがん細胞のように世界じゅうにポツポツと発生するものだとしても、この「組織を守ろうとする力」って何なんだろう。組織に執着するものどうしで固く守り合うこの感じ。

こういう事実を告発する映画は、周到かつ冷静に、コツコツと、積み重ねるように作っていくことで説得力を持つ。オゾン監督は、映画化という形でこの事件の告発に完全に寄り添っていた、と思います。静かな怒りをふつふつと持った映画でした。 

グレース・オブ・ゴッド 告発の時(字幕版)

グレース・オブ・ゴッド 告発の時(字幕版)

  • 発売日: 2020/10/01
  • メディア: Prime Video