映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

エミリオ・エステベス監督「パブリック 図書館の奇跡」2755本目

図書館、大好きなんですよ。自分の区と隣接区あわせて4枚利用カード持ってるし、トリニティ・カレッジの「ロングルーム」は住みたいくらい好きだし。この映画のシンシナティの図書館は、憧れるような歴史的な図書館でもないし、本を読みに行くというより、PCがたくさん置いてあってスペースが広いから、広い市役所みたいな感じもします。匂いがするので入ることを断られるホームレス、寒い朝に図書館の前で亡くなっていたホームレス。匂いがきつくなければ彼らを昼間だけでも受け入れてきた、まさに「公共(パブリック)」の場だなと思います。だけど夜、屋根のあるところで寝られないと死んじゃうんだ。あるい寒い夜に、数十人ものホームレスが図書館に籠城します。

いいお話なんですよね。ホームレスたちの勢いとかユーモアとかに見てる人がパワーをもらってしまう。監督・脚本も手掛けたエミリオ・エステベスが演じる図書館員は、アパートでは「ちょっと変な人」、図書館では素顔を見せない無表情な男。この存在感が良いのですが、(同僚の文学少女も図書館長も同じアパートの彼女も良い)、あまりにも無表情で、大げさすぎる演じより良いんだけど、ちょっと寂しすぎるなぁ。でも、監督が「お涙頂戴」という映画にしないよう、光が当たるのが図書館員よりホームレスであるよう、強い思いをもって作ってることは伝わってきました。

図書館でも警察でも、偉い人が黒人ってのも、いまどきのハリウッドを意識しすぎてる気もするけど、意図のまじめさが感じられます。もっと言うとエステべス監督は、なんならケン・ローチになりたいと思ってるかもしれない。でもこの映画には、ほっこりする救いがありました。私たちも、泣きながら見終わるような映画だけではつらいから、こういう映画はありがたいのです。

「留置場で寝られて良かった」って笑いあった翌朝からまた同じ問題が繰り返すんだけど、彼らきっと、どうせ凍死するとしてもちょっとイケてる大騒ぎしてやったぜ!っていい気分がしばらくは続くだろうから、この映画はハッピーエンドだと感じました。