映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロベール・ブレッソン監督「抵抗(レジスタンス)死刑囚の手記より」3304本目

「ラルジャン」の底のない悪の連鎖が印象に残るブレッソン監督。この作品はぱっと見、暗く難しげに見えたけど、徹底して淡々と脱獄に至る日々を描いていて、本当に日記のようでした。日々のリズムが単調なのもリアル。実話と思えないくらい管理がザルな監獄だと言われるとその通りだと思うけど、淡々と監視の穴を探すのがリアル脱獄だろうし、テクノロジーが発展する前夜の監獄、しかもドイツ統治下とはいえフランス国内なのでこの頃はこんな状態だったってことかなと思います。

「暴力脱獄」や「ショーシャンク」と比較されることも多いと思うけど、あっちはどちらも人間を中心に描いてる。こっちは脱獄する本人が独房にいるので、人間どうしの触れ合いは受刑者どうしでも極めて弱い上、管理者に至っては誰が誰かもわからないまま終わってしまいます。ほとんどのことを知らないまま過ごすのが監獄なのでしょう。

個人的にはとにかく、どんな悪であっても、どんな密室であっても、どこかに逃げられる隙間を残しておいてほしいような気がします。閉じ込められたまま終わってしまうのはイヤなんですよね。生き延びて逃げおおせた人がいたから語られる真実がある。

モデルになった死刑囚André Devignyの罪状は、レジスタンスグループにいたことで、密告されて逮捕されたみたいですね。(英語のWikipediaから)この脱獄のあとスイスへ逃れたけれど、見せしめにいとこが強制収容所に送られたとか、本人はスペインで再度捕まって再度脱獄したなんてエピソードもありました。のちにシャルル・ドゴール大統領に褒章されたりフランス軍の諜報部隊に勤務したりして、アルジェリアにいたときにこの手記を書いたんだそうです。1999年に82歳で亡くなったとのこと。

この映画で彼を演じたフランソワ・ルテリエはいかにも反逆者っぽい反抗的なまなざしが特徴的だけど、実際はすごく理知的で冷静な面持ちですね。政治家とか官僚とかにいそうな。もしかしたら、現在のテクノロジーを駆使した監獄に入れられても、頭脳を駆使して別の方法で脱獄できてしまうんじゃないか、と想像してしまいました。